第6話「魔獣」
シズオカ上空——
キャリアの中には、閃、訓練生、そしてオペレーターのクレアが乗り込んでいた。
この一帯では、数日前に小規模な戦闘が発生している。
その余波を受けたのが、これから向かう街だった。
現在、街は全面停電。
それに加え、派遣された救助隊との通信も途絶している。
さらに、救援物資を積載していた災害救護任務用SD“ヒキャク”も、同じく反応が消失していた。
つまり、完全なインフラ停止。
現代社会において、ほぼすべての動力は電力に依存している。
各街には必ず最低でも一基の電力施設が設置され、無線レーザー送電によって、インフラのすべてを賄っていた。
構造は全国共通で三段構えとなっている。
・第一電源
・第二電源
・第三電源
たとえひとつが落ちても、即座に別の電源が肩代わりする。
それが現代において、当たり前であり、街全体が沈黙するなど、よほどの事態でなければ起こり得ない。
クレアは、現地から送られてきたデータを確認しながら呟いた。
「道路は寸断されていない。…それなのに、誰も辿り着けていないわ」
隣で映像を覗き込んでいた閃も、静かに口を開いた。
「街の被害も、思ったよりもずっと軽いね」
その背後から、みのりが顔を出しぽつりと呟いた。
「……やっぱ、残党の仕業……?」
言葉にできない緊張が広がる。
やがてキャリアは、避難施設付近へと着陸した。
◆
避難施設は、多くの人々で溢れていた。
だが、異様なほど静かだった。
空調は停止し、澱んだ空気が漂っている。
職員の話によると、入院していた患者に加え、戦闘で負傷した住民が多数運び込まれたため、残っていた予備バッテリーのほとんどを病院へ回しているという。
状況は深刻だった。
クレアは即座に判断を下す。
「二班に分かれるわ」
・A班:閃、東 —— 電力施設へ
・B班:訓練生3名とクレア —— 救助隊および物資の捜索へ
指示と同時に、全員が動き出した。
◆
A班の2人は、キャリアから各自のEDを降ろす。
すると、それを見た避難施設の子供たちが一斉に駆け寄ってきた。
「うおぉ!!バサラヲだー!!」
「かっこいいー!!」
歓声とともにスマカを構える人々をコクピット越しに見た閃は、思わず口元が緩んだ。
(今回は使わないと思ってたけど……一応持ってきといてよかった)
人々の笑顔を見て、そう思った。
◆
電力施設に到着したバサラヲとトルーパー。
建物外部には、目立った損傷は見当たらなかった。
「外観は無傷ですね」
東が言う。
閃はバサラヲに格納されていたドローンを飛ばし、外部から内部をスキャンさせた。
生体反応は無し。
確認後、2人はコクピットを降り、地域職員から預かっていたパスコードを認証して施設内へ入った。
◆
1階——
第三電源区画。
機械そのものに外傷はない。
ドローンの解析映像を見て、東が言った。
「……配線が数本、断線しています」
「整備不良かぁ〜?」
閃がやや呆れ気味に言った。
「これくらいなら、僕で直せます」
「さっすがグンジン! 頼りになるぅ」
閃は軽く笑った。
◆
地下1階——
第二電源。
非常階段を下り、少し歩いた先にあるゲートを開いた瞬間、空気が変わった。
視界いっぱいに広がる、夥しいクモの巣。
「……ヴェッ」
閃は思わず声が漏れた。
「まるでホラーハウスだな……」
整備不良どころではない。
施設そのものが、長期間管理されていなかった痕跡だった。
「……おかしいですね。こんなこと、普通は……」
東も眉をひそめる。
スキャンの結果、損傷は中程度以上。
専門家でなければ修理は難しい状態だった。
そして——
地下2階、第一電源。
2人はゲートの前に立つ。
「……もう嫌な予感しかしない」
閃が半眼で言う。
「フォームじゃないだけ、まだよかったですよね」
東が苦笑する。
今回はEDを使う想定ではないため、2人はオルフェ製のジャージ姿だった。
「…マジそれな」
深呼吸し、ゲートを開く。
◆
真っ暗な空間。
完全な無電源状態。
——それ以上に、異様な気配。
「……念のため、グンジンはゲート付近で待機」
閃の声が、低くなる。
「……了解」
ドローンのライトが点灯した瞬間。
先程とは比較にならない量のクモの巣。
そして、明らかに異常な機械損傷。
閃は、確信する。
「……っ! 魔獣だ!!」
直後、天井から“何か”が落ちた。
黄色い外殻。
紫色の複眼。
全長5メートルの巨大で禍々しいクモ。
魔獣“エレイーター”。
閃はとっさに叫んだ。
「グンジン!! 逃げろ!!」
だが、初めて目の当たりにする魔獣を前に、東の身体は完全に硬直していた。
そんな2人にエレイーターが飛びかかる。
閃は即座に《雷衝》を放った。
一撃は魔獣へ。
——もう一撃は、東へ。
東に放った方は威力は抑えたが、階段付近まで吹き飛ばされる。
一方、エレイーターは大きく吹き飛ばされ奥の壁に叩きつけられた。
「こいつは俺がやる!! 修理を頼む!!」
叫ぶと同時に、閃はゲートをすぐに閉じた。
「上矢くん!!」
東は叫ぶが、すぐに歯を食いしばり、立ち上がる。
(……今は、自分にできることを全力で…やるのみ!!)
そう心に決め、彼は1階へ向かって駆け上がった。




