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エーテルコード  作者: エトコッコ
第6章:律動

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第7話「それぞれの戦い」


魔獣とは——

古代より世界の陰に生息してきた異形の生物の総称である。


本来は通常の動物や昆虫であった個体が、未知の変異を経て誕生した存在。


そのため、通常の生物とは明確に区別され、“魔獣種”として分類されている。


種類は多岐に渡るが、共通点がある。


すべて夜行性で、暗所を好むという点だ。


そして、目の前にいるのは、昆虫型のエレイーター。


魔獣は基本的に肉食だが、エレイーターは例外的に電気を主食とする。


その特性から、この名が付けられた。


さらに、もうひとつの特性が“ステルス能力”。


ドローンで内部をスキャンした際、生体反応が検知されなかったのは、この能力によるものだった。



閃に吹き飛ばされたエレイーターは、ゆっくりと体勢を立て直す。


(……電力停止は、コイツの仕業か)


ようやく、すべてが繋がった。


エレイーターの体長は約5メートル。


完全な成体だ。


いつからこの施設に潜んでいたのか。


最初から成体だったのか、それともここで成長したのか、それは今は分からない。


だが、ひとつだけ確かなことがある。


この魔獣は、この街の電力を“餌”にしていた。


電力施設は森林地帯に隣接している。


侵入経路は、おそらくそこだろう。


エレイーターは特性上、何もなければ比較的無害に近い。


だからこそ、施設自体は破壊されずに保たれていた。


しかし、近隣で発生した小規模な戦闘。


それを察知したエレイーターが暴れ回り、結果として設備を破壊。


そして完全停止に至った。


本来は無関係だった2つの問題が、最悪の形で重なったのだ。


施設内に張り巡らされた糸は、非常に粘着性が高い。


一度絡め取られれば、脱出は困難。


閃は両脚に雷のエーテルを集中させ、糸を焼き切るようにして回避を続けていた。


(さて……どうする)


エレイーターは電気を食う。


だが——


(“エーテルの電気”は、どうだ?)


閃は魔獣に関する知識を一通り得ていた。


理由は、ファクターズの任務には、魔獣討伐も含まれているからだ。


魔獣は、強固な外皮と高い再生能力を持つ。


SDの兵器でさえ、有効打にならない。


だからこそ、軍や専門ハンターは討伐の際、エーテル素材を用いた特殊弾を使用する。


そして、ファクターズのエーテルスキル。


つまり、純度100パーセントのエーテル攻撃。


それは、魔獣に対して最も有効な手段だった。


ただし、代償もある。


魔獣はエーテルそのものを非常に好み、捕食することすらできる。


五感か、本能か——それは不明だが、確実に認識している。


根拠は一切ないが「通常生物がエーテルを摂取し続け、魔獣になった」という説が出るほどだ。


——雷のエーテルは、毒か、それとも、餌か。



閃はファクターズとして、魔獣と交戦した経験はある。


だが、単独戦闘は初めてだった。


(バサラヲが使えたら、瞬殺なんだけどな。そんなこと考えても仕方ないか)


そう思いながらも、閃は《雷撃》を最大出力で放った。


SDの電気系統すら完全に狂わせる威力。


エレイーターは再び壁に叩きつけられる。


しかし、ダメージは皆無。


それどころか、先ほどよりも動きが鋭くなっていた。


閃は舌打ちする。


(効いてない。それどころか吸収してる)


半端な攻撃は、完全に逆効果だった。



一方、東は1階に到達していた。


備え付けのリペアキットを掴み、第三電源へ向かう。


後ろにはドローンがついてきていた。


自分と一緒に吹き飛ばされたらしい。


(……僕は……)


魔獣を初めて目の前にし、恐怖で身体が動かなかった。


何もできなかった事実が、胸を締め付ける。


そのとき、タイミングよく通信が入った。


『グンジン、気にすんな!みんなそうだった!』


『俺も、怜も、音も——あの烈だって、最初は全員ビビり散らしてた!』


「!……上矢くん……」


胸が、熱くなる。


『焦らなくていい。急がなくていい。落ち着いて、確実に直してくれ。俺は——』


一瞬、間が空く。


『こんなクモ野郎に負けねぇから!それに外にはバサラヲもある!いじゃとなれば——あ、噛んだ』


通信は途切れた。


「……ありがとう……!」


東の心から、迷いが消えた。


(あなたは……本当に太陽みたいな人だ)


自然と、口角が上がる。


ドローンの補助を受けながら、修理は順調に進んだ。



エレイーターの攻撃は、明らかに激しさを増していた。


閃は強化スキル《化身鳴かみなり》を発動し、身体能力を底上げする。


それを察知したエレイーターは、歓喜するかのように襲いかかってきた。


回避自体は難しくない。


スピードでは圧倒的にこちらが上。


だが、攻撃が通らなければ意味がない。


その時、別方向からの糸が、閃の背中に絡みつく。


(……やっぱり、孵化してたか!!)


正体は幼体のエレイーター。


魔獣は単体生殖が可能だが、昆虫型のみ複数の産卵が可能だった。


そして、エレイーターは幼体とはいえ、体長は50センチ近い。


閃は即座に上着を脱ぎ、糸から離脱する。


《化身鳴》を使った理由は、最初からこれだった。


地下に、幼体がいる。


そして、予想は的中した。


閃の強力なエーテルを感じ取った幼体のエレイーターは、通気口を渡って来ていた。


四方から飛ぶ糸をかわしつつ、位置と数を把握する。


幼体の数は3体。


その瞬間、東から通信が入った。


『上矢くん!復旧、完了しました!!』


その言葉を聞いた瞬間、閃は叫んだ。


「よっしゃ!!」


もう、遠慮はいらない。


「よぉ。そんなに電気が好きなら……」


閃は笑う。


「腹いっぱい食わせてやるよ——破裂するくらいな!!」


閃は《雷導》を使用した。


床に張り巡らされた糸を媒介に、電撃が一気に拡散する。


《化身鳴》で強化された雷は、幼体を次々に内側から破裂させた。


いくら電気を食うとはいえ、容量には限界がある。


残るは、成体のみ。


「どっちが先かな!?」


さらに電圧を引き上げる。


すると、エレイーターの外殻に、僅かにヒビが入った。


閃はそれを見逃さなかった。


《雷導》を止め、一瞬で距離を詰める。


ひび割れた一点へ、フルパワーで《雷衝》を放った。


エレイーターは、粉々に砕け散った。


閃はすぐに東に通信を入れた。


「……ハァ……ハァ……こっちも……終わった……」


エーテル容量は、底をつきかけていた。


「……本当に……無事でよかった……!」


東は、心からそう思ったのだった。


一方、街には電力が戻り、人々は安堵の表情を浮かべていた。

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