第5話「交流会①」
ヨハンの一件から、すでに10日が経った、ある日のこと。
加藤の授業中。
いつものように居眠りをしている光井に向かって、閃は真後ろの席から、《雷撃》(レベル2)を放ち、起こそうとした。
しかし、光井の身体は一瞬ピクッと反応しただけで、再び深い眠りに落ちてしまう。
(レベル2も、もう通用しなくなってきたな。レベル3にするか……)
そんなことを、光井の背中をぼんやり眺めながら考えていると、館内アナウンスが流れた。
牧だった。
『ファ、ファクターズは、い、今しゅぐに……すぐに、し、司令しちゅ……室に来てください!!』
「……マッキー、カミカミじゃん」
アンジュがペンをくるくる回しながら言う。
「おや? 牧主任がアナウンスするのは、珍しいですね……」
加藤も首をかしげた。
とりあえず、ファクターズは揃って司令室へと向かった。
そこには、明らかに慌てた様子の牧がいた。
「あっ! みんな! 大変!! オーキャ……オーク……オーキュラムが、ハッキングされてて……!! メッ! メッセージが!!」
閃は、すぐにヨハンと察した。
「あーあのジジイね。マッキー、もうメッセージ見た?」
「というか、ちょっと落ち着けよ……」
烈が苦笑いで言う。
牧は呼吸を整えながら話し始めた。
「……いや、まだ見てなくて。今日、エドワードさんも松永主任も不在で……トーマスさんも、たまたま席を外してて。リオとカリンはランチに出てて……私が1人で見てたら、急に……」
「なるほどね」
閃は小さく頷いた。
「……それで、勝手に見ていいのかわからなくて、とりあえず皆を呼んだの」
音は心配そうに牧に近づき、そっと《安静のウィンド》を使用した。
牧の表情が、みるみる落ち着いていく。
「ありがとね、音ちゃん」
続いて、怜がコップに水を入れて差し出した。
「……牧主任。これ……」
「怜も、ありがとう」
牧は微笑んで水を受け取り、一口飲んだ。
キンと冷えた水が、喉を心地よく通り抜ける。
怜は《氷結》で即座に水を冷やしていたのだ。
落ち着きを取り戻した牧は、改めて言った。
「せめて、トーマスさんが戻るまで待ったほうが……」
そう言いながら閃と烈の方を見ると、2人はすでにメッセージを開き読んでいた。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!」
牧は再びパニックになりかける。
しかし、閃はあっけらかんとした様子で言った。
「だってさ、『ファクターズへ♡』って、気持ち悪いハート付きで書いてあるし。大丈夫でしょ」
隣の烈も、黙って読み進めている。
音が尋ねた。
「……なんて書いてあるの?」
「例の“交流会”の日程だよ」
閃は淡々と答えた。
烈も続いた。
「……あれ以降、何も音沙汰なかったから、あのジジイからかってんのかって思ってたんだが…」
怜も画面を見つめていた。
「……彼らが、ここに来るのね……」
交流会の件は、もちろん牧も把握している。
「……とりあえず、トーマスさんを待ちましょう……」
牧はそう言って、近くの椅子に腰を下ろした。
◆
「ヨハン……一体、何を考えているんだ……」
戻ってきたトーマスも、メッセージを読みながら呟いた。
「この件は、エドワードさんには僕から伝えておくよ」
そう言って、その日は解散となった。
◆
その後、ファクターズは夕食を取りながら、交流会の話をしていた。
全員の表情には、どこか緊張が滲んでいる。
そのせいか、いつもより食事の進みも遅かった。
――ただ1人、閃を除いて。
夜になり、閃と音は2人で庭を散歩していた。
「閃くんって、すごいね……」
音がぽつりと言う。
「わたし、人見知りだから……今からもう緊張しちゃってる」
「怜からは『緊張感なさすぎ』って言われた」
閃は笑いながら答えた。
「正直、緊張より好奇心のほうが勝っててさ。イノと初めて話した時から」
「イノくん……なんていうか、すごく柔らかかったよね」
音は続ける。
「それに、なんとなく閃くんに似てた」
「似てるかな? イノはもっと大人しそうなタイプだと思うけど」
音はくすっと笑った。
「中身じゃなくて、見た目が」
「あー……言われてみれば、そうかも」
2人は肩を寄せ合い、しばらく談笑していた。
◆
そして、交流会当日。
日本時間の朝9時、ゼクストがオルフェに到着する予定時刻。
オルフェには、エドワードをはじめ、職員全員が揃っている。
すでにオーキュラムは、DD4機の反応を捉えていた。
万一に備え、ファクターズと訓練生は、それぞれEDの中で待機している。
そして――予定時刻より数分早く、ゼクストは到着した。
一瞬、緊張が走る。
だが、すぐにDDのハッチが開き、ゼクストの面々が姿を現した。
それを見て、ファクターズもまた、それぞれのハッチを開き、コクピットから降りる。
互いに向き合い、ゆっくりと歩み寄っていった。




