第4話「救出②」
4機のツキカゲ・夜叉に取り囲まれた、バサラヲとレンゴク。
そのうちの1機から通信が入った。
『……よく気づいたな』
閃は周囲を警戒しつつ、答えた。
「そんな子供だましに引っかかるかっつの」
さらに言葉を続ける。
「それに、あんたら影忍隊じゃないだろ。さっきの奴も含めて、全員“強化兵”だ」
『……賢いじゃないか』
閃の中では、全ての辻褄が合っていた。
おそらく、救援要請が出た時点では、彼らは本当に日本軍だった。
だがその後、天華の強化兵に襲われ、機体と識別プレートを奪われた。
もう1機の有人機は、カモフラージュのためにあえてそのまま撃破。
ファクターズより先に合流地点へ到着していた影忍隊は奇襲を受け、機体を強奪される。
そして影忍隊になりすまし、ファクターズの始末に向かった。
閃が違和感を覚えたのは、中破したザンテツと他の機体との損傷差だった。
コクピット周辺だけが不自然に無傷。
ハート本人にも外傷はない。
それなのに、心肺機能だけが著しく低下していた。
何らかの装置を使い、自ら心臓発作を引き起こしたのだろう。
◆
さらに決定的だったのは、“他の連中は?”という不自然な言葉。
本来なら、自分ともう1人のハートしかいないはずの状況で、あの問いはおかしい。
そして、確信に変わったのは、ツキカゲ・夜叉がステルス状態で接近してきたことだった。
この違和感は、烈も同時に感じ取っていた。
あえて背を向けたのは、相手の油断を誘うため。
リストガンに気づけたのも、ドローンのカメラに映った反射を確認していたからだ。
◆
「元のハートは、どうしたんだよ……!」
烈が低く問いかける。
『……さぁな』
強化兵の1人が、淡々と答えた。
閃は烈に告げる。
「烈。相手はほぼ間違いなくγクラスだ。確実に“殲滅”する」
「了解!!」
殲滅——それは、ハートを含め完全に撃墜するという意味だ。
その直後、上空でライトを照らしていたキャリアが撃墜された。
同時に、2つの斬撃がバサラヲを襲う。
それらを間一髪でかわし、反撃に転じるが、敵影はすでに消えていた。
上空から、キャリアの残骸が降り注ぐ。
2機は即座に分かれ、それぞれ回避行動を取る。
その残骸の中に、敵が紛れていると読んでいた。
閃はエーテルを集中させ、機体を発光させた。
簡易的な“ライト”代わりだ。
暗闇で自らを光らせる行為は、本来なら自殺行為だが、すでに居場所が割れている以上、視界を確保する方が賢明だった。
敵の想定では、まず閃をEDから引き剥がし、4機でレンゴクを仕留める算段だったはずだ。
仮にED戦になったとしても、夜間の森林地帯は、ツキカゲ・夜叉が圧倒的に有利。
さらに、スキルを無闇に使えば二次災害で森が火の海になる。
すぐに消火可能な怜と音が不在なのも、織り込み済みだったのだろう。
先ほどから通信だけを仕掛け攻撃してこないのは、精神的に揺さぶるための“間”を作り、焦らせるためだ。
状況だけ見れば、閃たちが不利だった。
◆
バサラヲの背後から、1機の機体が静かに迫る。
一気に距離を詰め、ブレードを突き立てた。
しかし、狙いは外れていた。
次の瞬間、逆にコクピットが背後から正確に貫かれた。
閃は、キャリアが撃墜された瞬間に《電影》を発動していた。
このスキルにより、敵のセンサーは誤作動を起こしていた。
そして、烈は自身に迫っていたもう1機を即座に捕捉し、クローを突き出した。
「ぐっ!!」
敵は体勢を変え、辛うじて回避する。
しかし、レンゴクの顎部が開き、キャノンを発射する。
威力は抑えたが、至近距離でコクピットに直撃し撃墜。
すでに2機が沈黙していた。
◆
2人は一転して、エーテル出力を完全に落とした。
《電影》の影響も相まって、敵のレーダーには映っていない。
先ほどの発光は、敵を誘導するための罠だった。
(……距離を取ったか?)
強化兵は目視で周囲を探るが、異変は見えない。
(……だが、反応がないからといって、完全に停止しているとは限らん……)
次の瞬間、レーダーに極めて微弱な反応。
即座にその地点へ向かった。
しかし、そこにあったのは、ブロックスの残骸だった。
(!? しまっ……!!)
気づいた時には、残骸に隠れていたレンゴクのクローが、コクピットを貫いていた。
2機のEDは、終始出力ゼロ。
レーダーに映っていた反応は、閃がブロックスの残骸に、僅かに《送電》を施し、囮にしていたものだった。
最後の機体が、目の前に姿を現す。
『予想以上だよ、ファクターズ』
バサラヲとレンゴクは、静かに武器を構えた。
『こうなる事態に備えて、元のハートたちは人質として——』
言い終える前に、バサラヲの刀が高速でコクピットを貫いた。
烈は冷静にそれを見届ける。
「信じられるかよ。お前らの言うことなんて……」
閃は刀を引き抜き、冷たく言い放った。
◆
「……終わったな」
烈が呟く。
その瞬間、オルフェから鬼のように通信が入り続けていた。
閃が回線を開くと、リオの声が飛び込んできた。
『2人とも無事!?』
閃は、順を追って状況を説明した。
キャリアの反応が消えた時点で、すでに別のキャリアを手配していた。
そこには東と光井と、各トルーパーも一緒だった。
後日、日本軍の救出隊が影忍隊やブロックスのハートを発見したが——すでに全員、殺害されていた。




