第7話「皆で」
“完全同調”。
ファクターとEDの同調率が100%に達し、さらにその状態を維持したときにのみ発生する現象。
発動中、EDの性能はほぼ3倍近くに跳ね上がり、エーテルスキルも大幅に強化される――
だが、これはあくまで理論上の話。
今まで誰一人として、この領域に到達した者はいなかった。
そんな中、レギオンΩの拳を片手で受け止めていたのは――バサラヲ。
その全身からは眩い光の粒子が放出されていた。
リーアは目を丸くし、思わず呟く。
「なにこれ……ウチの知らない新システム?」
その瞬間、接触回線が開いた。
『バサラヲは何も変わっちゃいない。変わったのは“俺自身”さ』
閃の声だった。
その姿は、バサラヲと同じ光の粒子を纏い、髪は逆立ち、まるで雷を宿したように見えた。
リーアが反応するより早く、バサラヲは掴んだ拳ごとレギオンΩを上空へ放り投げた。
リーアは一瞬状況を理解できなかったが、空中で体勢を立て直す。
だが――
目の前には、すでにバサラヲがいた。
その手のひらが、レギオンΩの胸部にそっと触れた。
『喰らうかい? “静電気”…』
次の瞬間、信じがたい電撃が装甲を貫いた。
エーテル攻撃を無効化するはずの装甲が、一瞬で突破されたのだ。
リーアは意識が飛びかけるも、なんとか耐えた。
そして、すぐに撤退行動に移った。
ふと、かつてチャンに言われた言葉を思い出す。
『強化兵とは違い、ファクター共の数値は当てにならない』
「……もう、静電気とは呼べないな……」
リーアは呟いた。
◆
オルフェ研究機関・医療エリア。
閃はゆっくりと目を開けた。
「……医務室……」
完全同調の発動後、リーアを撃退した直後に気力が尽き、そのまま意識を失っていた。
傍らには、怜がもちのすけのぬいぐるみを枕にして、座ったまま眠っていた。
おそらく、ずっと側にいてくれたのだろう。
その寝顔があまりに気持ちよさそうで、閃は起こさなかった。
しばらくすると、ベッド横のモニターから声がした。
烈だった。
『おう、起きてんな』
「うん。さっき目覚めた」
『今、話せるか?あとでもいいけど』
「いや、大丈夫」
少しして烈が医務室に入ってくる。
ドアの音で怜がガバッと起きた。
「……起きてたんだ」
怜は眠そうに目を擦る。
「うん。怜は大丈夫?」
閃が尋ねる。
「私は平気。訓練生も……全員無事」
怜は小さく微笑んで答えた。
閃も安心したように笑う。
烈は申し訳なさそうに頭を下げた。
「本当にすまねぇ。皆に迷惑かけちまった」
怜は気を遣って席を外そうとしたが、閃がそっと手で制した。
そして烈に聞く。
「美晴さん……どうだった?」
烈はまっすぐに閃を見て、静かに答える。
「穏やかだったよ」
その言葉だけで十分だった。
閃は胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。
「そっか……良かった」
これ以上、言葉はいらなかった。
「今度、皆で里帰りしよう。ファクターズ全員でさ」
閃は笑顔で言った。
烈も少年のような笑顔で答えた。
「ああ!美晴さんも結菜さんもチビたちも、みんな会いたがってたからな!」
怜も柔らかく笑った。
「私も……会いたい」
烈は閃の肩を軽く叩く。
「じゃあ、回復待ってるぜ」
そう言って医務室を後にした。
怜は少し照れながら、ぬいぐるみを差し出す。
「これ……未使用の新品だからっ……!」
閃は、さっき使ってなかった?と内心ツッコミを入れつつ
「くれるの?」
と聞いた。
怜は小さく頷く。
「ありがとう。これ……怜だと思って抱きしめとく」
閃は少しイタズラな笑みを浮かべて怜に言った。
「……あっ、あほ!!」
怜は顔を真っ赤にし、逃げるように部屋を出ていった。
――
医務室に1人残った閃は、そっともちのすけを抱きしめた。
その頬には、静かに涙が流れていた。
(第4章 完)




