表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルコード  作者: エトコッコ
第4章:分岐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/38

第5話「この時代で」


烈とクレアを乗せたエレコプターは、美晴が搬送された病院へ到着した。


着陸と同時に烈は飛び降り、病院へ駆けていった。


クレアはそのまま機内で待つことにした。


受付で美晴の病室を聞き、烈はすぐに向かう。


そこには結菜と、たんぽぽ荘の子どもたちの姿があった。


子どもたちは烈に気づき、一斉に声を上げる。


「烈にいっ!」

「閃にいは?」


その声に返事をするより早く、結菜が言った。


「……良かった。間に合って」


烈が問い詰める。


「状態は!?」


結菜は烈の目を真っすぐ見つめ、静かに言った。


「最後の挨拶……しっかり、して来なさい」


その一言で、烈は状況を悟った。


結菜もまた、閃のことは聞かなかった。


烈は深く息を吸い、美晴の病室へ入る。


そこには、いくつもの管につながれた、美晴の姿があった。


「美晴さん……!」


烈が静かに、それでも力強く声をかける。


美晴はその声に反応するように顔を向けた。

目は、もう開いていなかった。


やがて、美晴のかすれた声が漏れる。


「……烈ちゃん。来てくれたのね……ありがとうね」


烈はその手を強く握った。


「俺が……俺がわがまま言ったんだ!閃だって、本当は来たかったのに……俺が……!!」


烈は、閃を守るために嘘をついた。


しかし美晴は、静かに言った。


「烈ちゃんの気持ちも……閃ちゃんの気持ちも……ちゃんと、わかってるよ」


烈はもう、それ以上言葉を出せなかった。


美晴は続けた。


「……烈ちゃんの手紙の字……力強くて……優しくて……思いやりに溢れてた……」


烈は、幼い頃から手紙が好きな美晴のために、よく手紙を書いていた。


──この事は、閃は知らない。


烈が教えなかったのは意地悪ではない。


“少しだけ美晴を独り占めしたい”

そんな子供心からだった。


◆◆◆


幼い日のこと。


烈は、どこか寂しげな顔で美晴に尋ねた。


「ねぇ、みはるさん……。おれ、“えーてるこーど”ってやつなんだろ?」


誰かに言われたのだろう。

美晴は驚きつつも、優しく答えた。


「……そうね、烈ちゃん。それがどうしたの?」


烈は俯いたまま、震える声で言った。


「……だから、かーちゃん、おれのこと……すてたのかな……?」


その目には、涙が溜まっていた。


美晴はゆっくりと立ち上がり、引き出しからある物を取り出した。


──それは烈が捨てられていた時、一緒に置かれていた小さなメッセージカードだった。


「烈ちゃん、こっちへおいで」


美晴は烈を呼び寄せ、そのカードをそっと見せた。


「これはね、烈ちゃんのお母さんが書いたものなの」


美晴は優しく語り出す。


「私が生まれる前から、もうデジタルが当たり前でね。手書きをするのは珍しかった。でも私は字を書くのが大好きで……手紙もたくさん書いたから、よく珍しがられたわ」


美晴は微笑みながら続けた。


「昔からの言い伝えでね、手書きの字ってね、“その人を表す”って言われてるのよ。烈ちゃんのお母さんの文字には……優しさと、悲しさが滲んでいたわ」


「お母さんに何があったのかはわからない。でもね……烈ちゃんのことが嫌いだったから捨てた、なんてことは絶対にない」


美晴はそっと烈を抱き寄せた。


「きっと……お母さん、本当は一緒にいたかったんじゃないかな……?」


烈は堪えきれず、大粒の涙を流した。


美晴も静かに涙を流しながら言った。


「私も、ここにいるみんなも……烈ちゃんがいてくれて、本当に、本当に幸せだよ」


◆◆◆


烈は、美晴の手をしっかりと握りしめていた。


目には涙が溢れていた。


美晴は静かに天井を見上げ、静かな声で呟く。


「……この時代に生まれて……こんな“生き方”ができて……なんて、幸せなんだろうね……」


そう言った美晴の表情は、穏やかそのものだった。


「美晴さん……母さん……」


烈は、美晴の最後の瞬間まで──ただ、ずっとその手を握り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ