第5話「この時代で」
烈とクレアを乗せたエレコプターは、美晴が搬送された病院へ到着した。
着陸と同時に烈は飛び降り、病院へ駆けていった。
クレアはそのまま機内で待つことにした。
受付で美晴の病室を聞き、烈はすぐに向かう。
そこには結菜と、たんぽぽ荘の子どもたちの姿があった。
子どもたちは烈に気づき、一斉に声を上げる。
「烈にいっ!」
「閃にいは?」
その声に返事をするより早く、結菜が言った。
「……良かった。間に合って」
烈が問い詰める。
「状態は!?」
結菜は烈の目を真っすぐ見つめ、静かに言った。
「最後の挨拶……しっかり、して来なさい」
その一言で、烈は状況を悟った。
結菜もまた、閃のことは聞かなかった。
烈は深く息を吸い、美晴の病室へ入る。
そこには、いくつもの管につながれた、美晴の姿があった。
「美晴さん……!」
烈が静かに、それでも力強く声をかける。
美晴はその声に反応するように顔を向けた。
目は、もう開いていなかった。
やがて、美晴のかすれた声が漏れる。
「……烈ちゃん。来てくれたのね……ありがとうね」
烈はその手を強く握った。
「俺が……俺がわがまま言ったんだ!閃だって、本当は来たかったのに……俺が……!!」
烈は、閃を守るために嘘をついた。
しかし美晴は、静かに言った。
「烈ちゃんの気持ちも……閃ちゃんの気持ちも……ちゃんと、わかってるよ」
烈はもう、それ以上言葉を出せなかった。
美晴は続けた。
「……烈ちゃんの手紙の字……力強くて……優しくて……思いやりに溢れてた……」
烈は、幼い頃から手紙が好きな美晴のために、よく手紙を書いていた。
──この事は、閃は知らない。
烈が教えなかったのは意地悪ではない。
“少しだけ美晴を独り占めしたい”
そんな子供心からだった。
◆◆◆
幼い日のこと。
烈は、どこか寂しげな顔で美晴に尋ねた。
「ねぇ、みはるさん……。おれ、“えーてるこーど”ってやつなんだろ?」
誰かに言われたのだろう。
美晴は驚きつつも、優しく答えた。
「……そうね、烈ちゃん。それがどうしたの?」
烈は俯いたまま、震える声で言った。
「……だから、かーちゃん、おれのこと……すてたのかな……?」
その目には、涙が溜まっていた。
美晴はゆっくりと立ち上がり、引き出しからある物を取り出した。
──それは烈が捨てられていた時、一緒に置かれていた小さなメッセージカードだった。
「烈ちゃん、こっちへおいで」
美晴は烈を呼び寄せ、そのカードをそっと見せた。
「これはね、烈ちゃんのお母さんが書いたものなの」
美晴は優しく語り出す。
「私が生まれる前から、もうデジタルが当たり前でね。手書きをするのは珍しかった。でも私は字を書くのが大好きで……手紙もたくさん書いたから、よく珍しがられたわ」
美晴は微笑みながら続けた。
「昔からの言い伝えでね、手書きの字ってね、“その人を表す”って言われてるのよ。烈ちゃんのお母さんの文字には……優しさと、悲しさが滲んでいたわ」
「お母さんに何があったのかはわからない。でもね……烈ちゃんのことが嫌いだったから捨てた、なんてことは絶対にない」
美晴はそっと烈を抱き寄せた。
「きっと……お母さん、本当は一緒にいたかったんじゃないかな……?」
烈は堪えきれず、大粒の涙を流した。
美晴も静かに涙を流しながら言った。
「私も、ここにいるみんなも……烈ちゃんがいてくれて、本当に、本当に幸せだよ」
◆◆◆
烈は、美晴の手をしっかりと握りしめていた。
目には涙が溢れていた。
美晴は静かに天井を見上げ、静かな声で呟く。
「……この時代に生まれて……こんな“生き方”ができて……なんて、幸せなんだろうね……」
そう言った美晴の表情は、穏やかそのものだった。
「美晴さん……母さん……」
烈は、美晴の最後の瞬間まで──ただ、ずっとその手を握り続けていた。




