第4話「潔く、カッコよく」
烈達が出発してから、約30分後。
閃は訓練エリアのシャワーを浴び、休憩室のソファに座っていた。
隣には怜がいる。
しかし、2人の間には沈黙が落ちていた。
怜は、先ほど閃に怒鳴ってしまったことを謝ろうと、ずっとタイミングを伺っていた。
口を開いたのは、閃の方が先だった。
「音、いつ頃起きるかな?」
声は、いつも通りの柔らかさだった。
先日の戦闘後、音はエアキャリアに乗った瞬間、凄まじいいびきをかきながら寝落ちしていた。
基地に戻って一度シャワーを浴びたものの、そのまま部屋に戻り、以降は音沙汰なし。
再び深く眠ってしまったのだろう。
怜が答える。
「……多分、今日の夜には起きてる、かも」
閃は小さく笑った。
「あんな状態の音、久しぶりだった」
そこで怜は、くるりと体ごと閃の方へ向き直った。
「さっきは、ごめんなさい。私……無神経だった」
怜の顔は、申し訳なさでいっぱいだった。
閃はゆっくりと首を振った。
「いや……違うよ、怜。むしろ、ありがとな」
「……う、うん」
怜は何か言いたげに唇を動かしたが、結局言葉にならず、ゆっくりと体を正面に戻した。
その瞬間──館内アナウンスが鳴り響く。
『現在、天華の新型が1機、オルフェに向かっています! 赤い奴です!』
リーアの機体だ。
閃は即座に立ち上がる。
「行こう」
怜もすぐに立ち上がり、強く頷いた。
2人は急いでEDに乗り込み、出撃準備を整える──
その時、バサラヲに通信が入った。リオからだ。
『閃ちゃん……こんな時に言うべきじゃないかもしれないけど……無理しないで』
声は震えていた。完全に心配している声だった。
同時に、シラユキにも通信が入る。
こちらはカリンだ。
『怜……閃のこと、お願いね』
「……そのつもりです!」
怜はきっぱりと答えた。
◆
リーアは、高速でオルフェへ向かっていた。
これは、先日の戦闘に対する天華の“報復”。
──もっとも、リーア本人にとってはただの任務だったが。
そのレギオンΩめがけて、鋭い弾丸が飛んでくる。
並の強化兵なら、この時点で撃墜されているだろう。
しかしリーアは、速度を落とさず、すべての弾丸を紙一重でかわす。
遠方から狙撃しているのはバサラヲ。
SD用のスナイパーライフルに雷を纏わせた強化弾だ。
当然、閃は驚かない。
“あの相手”に当たるとは最初から思っていなかった。
前回の戦闘と、美晴の件が重なり、閃のコンディションは万全ではない。
そのため今回は後方支援に徹していた。
──そして。
迫り来るレギオンΩの進路に、白い影が降り立つ。
シラユキだ。
「あ、太ももじゃん」
リーアが軽い調子で言う。
怜はすでに《アイスヴェール》を発動していた。
シラユキの機体性能を底上げする強化スキル。
さらに《アイスフィールド》を展開し、周囲の温度を下げる。
これは空気の澄みを変えるだけでなく、怜自身の集中力も高める効果がある。
シラユキは素早くジャベリンを構え、一直線にレギオンΩへ向かった。
◆
その頃──
訓練生は外での演習を終え、エレキャリアでオルフェに帰還中だった。
すると、リオから現在交戦中との通信が入る。
みのりは、モニターで戦況を確認しながら呟いた。
「……ツムギがいないのはわかるとして、レンゴクもいない……?」
光井が通信をつなぎ、リオに状況を尋ねた。
リオは、一瞬ためらった後で、今の状況を告げた。
訓練生の顔から血の気が引いた。
みのりが立ち上がる。
「あたし、行きます!!」
「え!?」
リオが声を上げる。
その後ろにいた松永が、きっぱりと言い放った。
「ダメ。相手が悪すぎる。あなたが行ったところで、犠牲になるだけ」
冷たいが、それは現実だった。
すかさず光井が言う。
「俺も行きます!行かせてください!」
「だから──」
松永が言いかけた瞬間、東が続いた。
「自分も、行きます」
アンジュも負けずに言う。
「ウチも行くっつーの」
さらにみのりが言う。
「今ここで行かなくて、いつ行くんですかっ!!」
光井も続く。
「こればっかりは、止めても行きます!すみませんけど……!」
東も静かに言った。
「例え無事に帰ってこれたとして、どんな罰でも受ける所存です」
アンジュが肩をすくめる。
「つか、トルーパー手元にあるし、行こうと思えば行けるし」
エレキャリア内には、4機のトルーパーも積まれていた。
松永が言う。
「……コントロール権はこちらにあります」
しかし、その場にいたトーマスが声を上げた。
「出撃を許可する」
「!?まだ早すぎます!実戦経験もないのに!!」
松永が驚く。
トーマスは静かに言った。
「いや……彼らの言うことも、一理ある」
「…………副総帥が言うなら」
松永は渋々頷いた。
そしてトーマスが訓練生に向けて言う。
「ただし──武器は、装備してから行くように」
訓練生は、勢いよく──そして迷いなく返事した。




