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エーテルコード  作者: エトコッコ
第4章:分岐

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第3話「カイバ」


カイバとは——

全EDに搭載されているブレイン。


ファクターのサポートはもちろん、機体のトラブルやエーテル切れの際、カイバによる“オートモード”が発動する。


また、今回のように任意で起動することも可能である。


さらにEDには、“エーテルコンデンサー”も内蔵されている。


それはエーテル貯蔵器官——いわば、EDの予備バッテリー。


つまり今のバサラヲは、オートモードに移行していた。


エーテルスキルはファクター自身の技術であるため、この状態では使用できない。


だが、戦闘データはプログラムとして記録されている。


そこに回避特化の行動パターンを組み合わせれば、短時間ならこの状態のレギオンΩにも対処はできる。


そして、その戦いを支えるのが音だった。


音は、ファクターズの中で最もエーテル量が多い。


だからこそ、先にエーテル切れを起こしそうな閃を優先し、自分の力を残していた。



閃はコクピットの中で目を閉じ、深く息を吸い、回復に意識を集中させる。


一方で、レギオンΩの動きが、少しずつ鈍り始めていた。


(やばっ……もうそろそろ限界かな?)


メルはそう察しつつも、やや動きの変わったバサラヲを重点的に狙っていた。


ハードクラッシャーの猛攻を、オートモード状態のバサラヲはギリギリで捌き続ける。


だが一瞬防御が弾かれ、ついにハードクラッシャーが直撃しようとした。


その瞬間——


背面から強烈な衝撃が走り、レギオンΩは大きく吹き飛ばされた。


音が最後の力を振り絞り、《突破のウィンド》を放ったのだ。


一点に高密度の空気弾を叩き込み、ピンポイントで破壊するスキル。


狙いは、2機で刻んだ背中のバツ印の斬撃跡。


そこに撃ち込んだ。


レギオンΩの損傷は一気に広がり、ベルセルク・ギアの限界を告げる警告音が、コクピット内に鳴り響く。


「っ!ここまでか!!」


さすがのメルも、顔をしかめた。


そしてレギオンΩは、ヴァルキリー・ギアをフル稼働させ、そのまま戦域から離脱していった。



「さっすが音! カイバさんも助かったよ」


閃が息を整えながら言う。


「はぁ、はぁ……久しぶりだよ、エーテルが空っぽになるの……」


音は肩で息をしながらも、どこかスッキリした笑顔を浮かべていた。


『オフタリトモ、無事デナニヨリデス』


バサラヲのカイバが、無機質な声で告げる。


続いて、ツムギからも別の声がした。


バサラヲのカイバとは違う、機械的な女性の声だ。


『オンサマ、オツカレサマデゴザイマスル』


『アトハ、ワタクシガ移動サセマスルノデ、休ンデクダサイマスル』


ツムギに搭載されたカイバが、いつもの独特な口調でそう告げる。


「うん! ありがとう、カイバさん」


音は微笑みながら礼を言った。


(……前から思ってたんだけど、なんでツムギのカイバさんだけ、語尾に『マスル』ってつくんだろう……)


そんな小さな謎に首をかしげているうちに、遠方で待機していたキャリアが接近してきた。


2機はそのまま収容され、オルフェへの帰還についた。



数日後。


烈のスマカが鳴った。


発信者は結菜だった。


烈はいつもの調子で通話に出る。


「おう、結菜さん。どうした?」


そう言って耳に当てたスマカを、そのままゆっくりと握りしめる。


烈の顔から、みるみる血の気が引いていった。



同じ頃。


閃は訓練エリアでトレーニングをしていた。


そこには怜やクレアの姿もあった。


その訓練エリアの扉が乱暴に開き、烈が血相を変えて飛び込んできた。


「閃っ!!」


閃はその声に振り向く。


烈の表情を見た瞬間——


閃は、何が起きたのかを直感で理解してしまった。


怜とクレアも、2人のただならぬ空気に気づき、戸惑いながら様子をうかがう。


閃が、震える声でぽつりと呟いた。


「……美晴さん……?」


その名を聞いた瞬間、怜とクレアも状況を悟ってしまう。


烈が駆け寄ってきた。


「美晴さんがっ……!!」


そこから先は、言葉にならなかった。


閃の表情も、明らかに動揺していた。


クレアは2人を見て、すぐに口を開く。


「まだ、間に合うの!?」


烈は苦しそうに答えた。


「……わからねぇ」


その返事を聞くと同時に、クレアは迷わずスマカを取り出し、通話を始めた。


相手はトーマスだった。


状況を手短に、そして正確に伝えていく。


それを見ていることしかできない怜は、ぎゅっと拳を握りしめていた。


閃と烈はただ黙り込んでいた。


頭の中では、様々な感情や思考が渦を巻いていたが、言葉にはならなかった。



その間、クレアが通話を切る。


「ヘリの準備はすぐできるから、早く行って!!」


そう、2人に向かって言う。


だが、2人の足はその場から動かなかった。


クレアは戸惑い、声を荒げる。


「な、なにしてるの!? 早く!! パパも、早く行ってあげてって言ってるわ!?」


しかし、2人の胸の内には同じ迷いがあった。


イシュタール財団、そして天華連盟。


どちらがいつ再び襲来するか分からない。


特に天華の動きは、今まさに拡大中だ。


この状況で、ファクターズが同時に抜けるわけにはいかない。


そう頭では分かっている、それでも——。


沈黙を破ったのは、閃だった。


閃は、烈に向き直る。


「烈。俺の分も……頼む」


烈はその言葉に、思わず目を見開いた。


だが、閃の瞳は覚悟を決めていた。


烈はその目をまっすぐ見返し、力強く返事をする。


「……わかった!!」


クレアに案内され、烈はヘリに向かって駆け出した。


その背中を見送りながら、怜は閃に詰め寄る。


「……何をしているの? アンタも行きなさい……!!」


いつになく強い口調だった。


閃は、視線を落として答える。


「俺はリーダーだ。今、2人も抜けるなんて——」


その言葉を、怜が遮った。


胸ぐらを掴み、涙をこらえながら叫ぶ。


「今行かないと、一生後悔するよ!!」


閃は、怜の表情に息を呑んだ。


怜が、目の前で母親を失ったあの日。


閃が、家族も友達も故郷も、全てを失ったあの日。


お互いの過去は知っている。


だからこそ、この言葉は重かった。



すでに準備されたヘリのそばには、トーマスが待っていた。


烈はトーマスに向かって、深々と頭を下げる。


「ホント……すんません!!」


トーマスは首を振り、静かに答えた。


「当たり前のことをしているだけだ。エドワードさんにも、すでに許可は取ってある。心配はいらない。閃くんは?」


烈はうつむき、首を横に振った。


トーマスは、それ以上は何も聞かなかった。


「さ、早く!」


クレアが烈を促す。


トーマスはクレアに向き直り、言った。


「クレアは、烈くんの傍にいてあげてくれ」


クレアは真剣な表情で頷いた。


2人はヘリに乗り込む。


クレアは最後の確認をした。


「……閃のこと、本当に待たなくていい?」


「……出してくれ」


烈が、絞り出すように答える。


そして——


ヘリは激しくローターを回しながら、青空へと飛び立っていった。

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