第2話「狂戦士」
閃と音の前に、メルのレギオンΩが静かに降り立つ。
その時、バサラヲに日本軍から通信が入った。
『ご協力感謝します。ファクターズの皆さん』
「後はこちらで対処します」
閃は落ち着いた声で答えた。
『了解しました。ご武運を』
通信が切れると同時に、残りSD部隊は撤退を開始した。
「アンタも帰っていいよ」
メルは後方にいたγクラスに、ぞんざいに声をかける。
「えっ?了解です! 退却します!」
γクラスは慌てて後退し、後方に隠していた天華のキャリアに乗り込むと、一目散に離脱していった。
(あれでγクラスなんだもんねぇ……。ま、最初からアテにしてないけど)
メルは小さくため息をつき、改めて2機へと視線を向ける。
一瞬の静寂——
次の瞬間、3機は同時に動き出す。
閃は《化身鳴》、音は《シルフィード》を展開。
それぞれのEDにエーテルを纏わせ、機体性能を一時的に上昇させる強化スキル。
さらにエーテル武器も強化され、常時エーテル属性が付与される。
だが、レギオンΩには耐エーテル用の特殊装甲が使用されている。
純粋なエーテル攻撃をほぼ無効化するほどの性能だ。
特に閃は、前回の戦闘でそれを痛感していた。
機体強化+短期決戦——
そのための機体強化だった。
バサラヲが一気に加速し、レギオンΩの背後へ回り込む。
しかしメルは、ツムギ目がけて一直線に突進する。
——が、急にレギオンΩの動きが鈍くなった。
「お?」
メルが眉をひそめる。
バサラヲから伸びていたのは、《電縛》。
電気を縄のように伸ばし、レギオンΩを拘束していた。
その隙に、音はスキルを発動した。
「《衝撃のウィンド》!」
狙いはレギオンΩではない。
先ほどの戦闘で破壊されたSDの残骸。
風圧が残骸や瓦礫の破片を弾丸のように吹き飛ばし、レギオンΩを襲う。
「うわ、うざっ……!!」
メルは力づくで《電縛》を引きちぎり、迫りくる破片の嵐をハードクラッシャーで叩き落とす。
だが、その背後からバサラヲのアサルトライフルが火を噴いた。
強化された弾丸が、次々とレギオンΩを撃ち抜こうとする。
「ちっ……!」
レギオンΩはすぐさま上空へ逃れようとするが、すでにバサラヲが先回りしていた。
雷を纏ったバサラヲの強烈な蹴りが、レギオンΩのボディを捉える。
正面から地面に叩きつけられるかと思われた瞬間——
ヴァルキリー・ギアの制御で、レギオンΩを無理やり空中で踏みとどまらせた。
だが、すぐに背後で“空気の爆弾”が弾けた。
凄まじい衝撃と共に、レギオンΩは地面に叩きつけられた。
音の《破裂のウィンド》——
触れた瞬間に凄まじい空圧の爆発を引き起こす。
エーテルそのものは通らないが、風圧や物理的な衝撃は通用することは分かっていた。
「音!!」
「うん!!」
バサラヲは刀を抜き、ツムギもガンブレードを構える。
2つの刃が、同時にレギオンΩの背面へと走った。
バサラヲの刀とツムギの武器はエーテル素材だが、通常時はただの物理兵器。
いくらエーテル防御に特化した装甲でも、純粋な斬撃そのものまでは防げない。
刃先は、しっかりとレギオンΩを捉えていた。
しかし、あと一歩のところで本体は回避し、完全な致命傷には至らなかった。
それでも、レギオンΩの背面には大きなバツ印の斬撃痕が刻まれていた。
「……アンタら、フツーにやるじゃん。ちょっとびっくり……」
メルは口元を歪めながらも、前回とは明らかに違う詰め方に、心のどこかで感心していた。
「……“アレ”、使っちゃおっかなぁ…」
メルがぽつりと呟き、コクピットのスイッチを次々と操作する。
「“ベルセルク・ギア”、発動」
その瞬間——
レギオンΩの各部装甲が次々に展開し、エネルギーラインが発光。
関節部や隙間から白い蒸気が勢いよく噴き出す。
フェイスマスクが開き、中のハニカムセンサーが点滅、禍々しい“ツリ目”へと変化した。
ベルセルク・ギアとは——
ただでさえ高性能なレギオンΩを、さらに強化するシステム。
そして、メル機に搭載されているものは、特に攻撃性に特化した仕様だった。
異形へと変貌したレギオンΩを見て、閃は即座に音へ指示を飛ばす。
「もう戦うことは考えず、避けることだけ——」
閃の声が終わるより早く、変貌したレギオンΩがバサラヲへ突撃する。
ハードクラッシャーのフルスイングが直撃。
アサルトライフルは粉々に砕かれ、バサラヲは大きく吹き飛ばされた。
そして、音が反応するより先に、レギオンΩはツムギの目の前にいた。
叩き潰そうと振り下ろされるハードクラッシャー。
しかし、弾丸が腕部に命中し、打撃の軌道を逸らす。
吹き飛ばされながらも、閃は両腰部のハンドガンを引き抜き、弾丸を撃ち込んでいた。
その一瞬の隙を逃さず、音は急いで距離を取り、そのまま吹き飛ばされていくバサラヲの方へ飛ぶ。
バサラヲが壁に激突しそうになった瞬間——
音は《エアクッション》を展開し、衝撃をやわらげた。
「閃くん!!」
「ありがと」
短いやりとりを交わす間にも、レギオンΩは再び迫る。
閃と音は同時にスキルを発動させた。
「《電壁》!」
「《エアフィールド》!」
雷と風の防壁が二重に展開される。
だが、レギオンΩはそれらを力ずくで突破した。
もっとも2人は、防御は狙っていない。
レギオンΩが着地した時には、すでにそこから姿を消していた。
今の2人の目的はただひとつ——
“相手がシステムダウンするまで逃げ切ること”。
ただ、それは同時に自分たちのエーテル容量との我慢比べでもあった。
閃と音の息が、徐々に荒くなっていく。
それぞれの強化スキルである《化身鳴》と《シルフィード》は、強力な反面エーテル消費も大きい。
その上、多数のスキルを重ねがけしたことで、容量に余裕のある2人でさえ限界が近づいていた。
レギオンΩは上空へと飛び上がり、即座に2機を補足する。
「見〜っけ♡」
メルは楽しそうに笑い、再び機体を突進させた。
(このままじゃ、こっちの方が先に時間切れっぽいな…)
閃は瞬時に状況を計算し——決断した。
「“カイバ”さん! 変わって!!」
その声に応じて、バサラヲのコクピットから、機械的な男の声が響く。
『リョウカイシマシタ、センサマ。ヒキツヅキ、セントウヲオコナイマス』
バサラヲの“もうひとつの人格”が、静かに目を覚ました。




