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エーテルコード  作者: エトコッコ
第3章:Ωの脅威

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第4話「理由」


イシュタール財団。

ファクターズとの再戦後——。


イノは、閃と交わした会話の内容を、ゼクストのメンバーに伝えていた。


3人は、最後まで黙って聞いている。


やがて、アークが口を開いた。


「……なーんか、やりづれぇな」


「ファクターズも、きっと同じこと思ってるよ」


イノが穏やかに答える。


「ア、アフフフ……ボクが尻尾、斬られた時も、ああ、明らかに“そこだけ”狙ってたよ」


サムが苦笑まじりに言った。


「……敵ではない。が、戦いは避けられない。そういうことだな」


クリスが淡々とまとめる。


「うん……」


イノは小さく頷いた。


(もっと、閃とお話ししてみたいな……)


その想いは、胸の奥にそっとしまったままだった。


アークが腕を組みながら言った。


「しっかし、アイツらの連携すヤバかったな」


「ア、フフッ! ボクらって個人戦ばっかりで、チーム戦って……したことないよね!」


サムが続ける。


イノは、ぽつりと提案した。


「…ボクらもさ、連携してみない?」


「えぇ〜……。オレは単独で戦いたいんだけど……」


アークはあまり気乗りではなかった。


クリスが冷静に言った。


「必要な時に連携が取れた方がいい。彼らから学べるところは多い」


「へいへい……」


アークは渋々ながらも、否定はしなかった。



——オルフェへのΩチーム襲撃から、約1週間後。


イシュタールのマザーコンピューター・ギガスが、天華連盟所属の反応を3つ捕捉した。


Ωチームだ。


『あ〜天華のアホども、やっぱりこっちにも来た? ゼクストのみんな、テキトーにやっちゃって〜』


ギガスを通して、ヨハンの軽い声が響く。


ゼクストは、それぞれDDに乗り込み、迎撃態勢に入った。



「わぁお♡ いい趣味してるぅ♡」


リーアは、遠くに見えたDDを眺めて目を輝かせた。


「いかにもリーアが好きそうなデザインだよね。メルは日本の奴らの方がいいなー。アレ可愛くない」


メルがDDの方向を指さしながら言う。


「サキはどっち派?」


メルが尋ねた。


サキは少し考えてから、短く答える。


「……私は、普通のが好きかな」


「3人きれいに分かれたねー」


リーアはくすっと笑った。


——次の瞬間。

巨大なエーテル弾が飛んできた。


3人はそれを回避しつつ、それぞれ三方向に散開する。



巨大なエーテル弾を放ったのは、クリスのセレアィアの両腕に内蔵された大砲によるものだ。


ゼクストのDDは、それぞれの“デーモンウィング”からエーテルを噴射し、Ωチームへ一気に距離を詰めていく。


激しい空中戦が始まった。



メル機に向かって、アークのドレティアが迫る。


「《フレイムフィスト》ォォォ!!」


アークがスキルを発動。

ドレティアの4本腕の拳が、オレンジ色の炎を纏う。


そして、目にも止まらぬラッシュをメル機に叩き込んだ。


「おっ」


メルは両腕のハードクラッシャーを素早く全面に構え、正面からガードする。



一方——。


サムは《幻影》を使用し、ラフティアの“分身”を4体作り出していた。


本体を含めた5体で、サキ機に一斉攻撃を仕掛ける。


サキはナイフを両手に取り、冷静に対応した。


5体の内、1体が本物。


サキの目にも、レギオンΩの索敵モニターにも、どれが本体かは判別できない。


——だが、相手のクセや、動きの微妙な差を掴めれば、見抜けないことはない。


しかし、サキの予想は外れた。


分身それぞれが、“実体”を持っていたのだ。


前にツムギと戦った際には、非実体だった。


サムは状況に応じて、この2パターンを使い分けることができる。


——それでも、サキの冷静さは揺らがない。


5体のラフティアの攻撃をすべて完全に防ぎ、さらに2体の分身には、回避と同時にカウンターを叩き込み、消し飛ばした。


——その時。

後方から、セレアィアの巨大なエーテル弾が飛来する。


サキはそれを、ほとんど反射のような動きでかわした。


だが、弾の軌道が曲がり、再びサキを追尾してくる。


イノの《念動》で、弾道を操作していたのだ。


さらに、ラフティアの三方向からの挟み撃ち。


避けるのは不可能——

そう思われた。


しかしサキは、まるで細い隙間を縫うように、全ての攻撃を回避してみせる。


そして、ラフティアの“本体”を見抜き、正確に一撃を叩き込んだ。


残りの分身は、すべて霧のように消滅した。



その戦闘の様子を、少し離れた位置から、リーアはただ眺めていた。


今回リーアに与えられた任務は、サキとメルの戦闘データの収集。


つまり、自ら戦闘に参加する必要はない。


リーアはΩチームのリーダーであり、彼女の機体にのみ搭載された特殊システム“シンクロマスター”——


サキ機・メル機の出力ログとリアルタイム状態を常時監視し、リーア機側から出力補正の指示を送る。


いわば、ブレーキの役割を果たすシステムだ。


「へぇ〜。日本の奴らより、ちょっとだけ強いじゃん」


リーアはチョコレートをつまみながら、楽しそうに呟いた。


——その視界の先に、天使のようなシルエットの機体が現れる。

イノのエンプティアだった。


イノは、リーア機へ通信を試みる。

回線は、あっさりと繋がった。


「なぁに?」


リーアが気の抜けた声で言う。


「あの……あなた達は……何で戦うんですか?」


思いがけない質問に、リーアは食べていたチョコレートを一瞬吹き出しそうになる。


「ゲホッ……あのさぁ、急に笑わせてくんの、やめてくんない?」


リーアは咳き込みながら答えた。


「えっ……そんなつもりはなかったです。ごめんなさい……」


イノは申し訳なさそうに謝る。


リーアは、その素直な反応にまた笑いそうになりながらも、質問に答えた。


「戦う理由? うーん…仕事だから」


あまりにもあっさりとした返事に、イノは思わず目を丸くする。


リーアは、その様子を見て言った。


「あー……もしかして“大義”とか“悲しい過去の出来事”とか“守りたいもの”とか、そーいうの期待しちゃってた?」


続けて、肩をすくめる。


「ナイナイ。ほんっと。ただの仕事。命令があれば戦うし、なければ戦わないし。それだけ。あそこの2人もそうだと思うよ〜」


(まぁ、メルは若干私情入ってるけど、命令の範囲内でやってるから問題はないし)


「……だから、見てるだけなんですね」


イノが納得したように言う。


「そ。今日のウチの仕事、データ収集だけだから」


「仕事……」


イノは小さく呟いた。


リーアは、少しだけ声のトーンを落として言う。


「……あのねぇ、ボク? 社会って、そんなモンなのよ」


イノは、不思議とその言葉に腑に落ちるものを感じていた。


多分、自分たちゼクストやファクターズのような存在が“珍しい”のであって、世の中の大半の人たちは、きっと“こう”なのだろう——と。


リーアが問いかける。


「んで、やんの?」


イノは、迷いなく首を横に振った。


「戦う気が無い相手とは、戦いません」


「あっそ」


リーアは、それ以上何も言わなかった。



メル機は、ドレティアの猛攻を受け止め続けていたが、やがて攻撃のパターンを完全に見切り、2本の腕を掴む。


そして、そのまま力任せに引きちぎった。


「良かったじゃん。まだ2本残ってるよ」


その言葉に、アークの怒りが一気に燃え上がる。


「2本もありゃ十分だ……! テメェの頭、引きちぎってやるよ……!!」


再度突っ込もうとした、その瞬間——

リーアから通信が入った。


「サキ、メル。もういいよ」


「了解」

「は〜い」


サムとクリスと交戦していたサキも、アークと戦っていたメルも、すぐさま攻撃をやめ、あっさりと後退していった。



戦闘後。

それぞれがDDから降りる。


イノは、皆の前で頭を下げた。


「ごめんね。わがまま言って」


イノは、戦闘に深く関わらず、観察側に回ったことを謝っていた。

どうしてもリーアと話してみたかったのだ。


サムは、嬉しそうに笑う。


「アフフ! 全然だよ、イノ。それに今日、れ、連携!とれたね!」


クリスも頷く。


「見事と言えるだろう」


イノはアークの方を向く。


「アーク、大丈夫だった?」


「腕引きちぎられただけだ。問題ねーよ」


アークは平然としているが、その目はまだ怒っていた。


「しっっかし、あのピンク野郎!! マジでムカつく!!」


アークの身体から、怒りに呼応するように炎のエーテルが立ちのぼる。


「ア、アーク……また火出てるよ」


イノが慌てて指摘する。


クリスは手のひらから、球状の水のエーテルを作り出し、ぼそりと言った。


「……鎮火するか?」


サムが、慌てて止めに入る。


「アフフフ……。火に油だよ……」

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