第5話「シンパシー」
オルフェ研究機関・格納庫。
閃はバサラヲの前に立ち、2人の男性と話をしていた。
1人は白髪まじりの黒髪に無精ひげの男——
黒須 正人。
エーテル兵器開発部の主任で、ファクターズEDの開発者。
もう1人は度入りのゴーグルをかけた、チリチリパーマの男——
能勢 開。
技術主任で、ED本体の整備・調整を担当している。
「両肩にミサイルランチャー、両腰にハンドガン…と。これで間違いない?」
黒須が尋ねる。
「はい、大丈夫です」
閃は頷いた。
ファクターズのEDには共通設計というものがない。
各ファクターのエーテル波長・性質・戦闘スタイルに合わせて、1機ずつ完全新造されている。
そのため、一般的なSD用の兵器とは規格がまったく違い、通常は流用できない。
——ただし、バサラヲだけは例外だ。
トルーパーに近い規格で設計されており、通常兵器を装備できる。
両肩・両腰にハードポイント、腰背部にはウェポンラックを持ち、ファクターズのEDの中で最も汎用性の高い機体だった。
さらに現在、SDの兵器は火薬式はほとんど姿を消し、ほぼ全てがリニア式になっている。
これが、閃の雷のエーテルと相性抜群だった。
「というか博士。なんかやつれてません……?」
能勢が、心配そうに黒須を見る。
「エドワードさんにこき使われまくってるからね」
黒須は苦笑しながら肩をすくめた。
◆
数日後——。
4機のDDが、再びオルフェを目指していた。
だが、今度はファクターズが“待ち構えて”いた。
ファクターズとゼクストは、接触と同時に戦闘へ突入する。
バサラヲが左肩のミサイルランチャーを展開し、上空のサムのラフティアへ向けて射出。
同時に、バサラヲ自身も跳躍する。
ラフティアは軽やかにミサイルをかわしていく。
気づけば、バサラヲも同じ高度まで上がっていた。
閃は《電空》を発動させる。
微弱な放電を下方向に流し、落下速度を抑えることで、滑空・滞空時間を伸ばすスキルだ。
◆
アークのドレティアは、シラユキを狙う。
怜は即座に《アイスステップ》を発動。
脚部と地面に薄い氷膜を展開し、シラユキを高速で滑走させる。
「ハッ! スピードで撹乱するつもりかいっ!」
アークが笑う。
アークのエーテル属性は“炎”。
烈と同じ属性だが、その炎はオレンジ色で軽く、温度も高い。
「《フレイムウォーク》!!」
足元に炎をまとい、一気に加速。
一歩踏み出すごとに、地面に炎のターボが走る。
あっという間に、シラユキとの距離が詰まった。
◆
ツムギは下腿部に3基ずつ内蔵された“フェアリービット”を、イノのエンプティアへと放つ。
ビットは音の風のエーテルに操られ、高速で軌道を変えながら、あらゆる角度からエーテル弾を撃ち込んだ。
(速い……! かわしながら視界に捉え続けるのは難しい)
イノのエーテル属性は“念”。
条件は——対象を視認し続けること。
前回の戦闘で、その特性はすでに見抜かれていた。
◆
烈は、クリスのセレティアへ向かって強烈な火球を放つ。
クリスは《アクアスフィア》を展開。
クリスのエーテル属性は“水”。
癒しや回復の効果を持ち、ゼクストにおけるサポーター的存在だ。
セレティアの巨体が、水のバリアに包まれる。
しかし火球は、バリアに触れる直前で急停止した。
◆
バサラヲはラフティアとの距離を詰めながら、右肩のミサイルランチャーを発射する。
「当たらないよ。アフフ……」
ラフティアは再び、容易く回避行動に移ろうとする——が。
バサラヲは、両腰のハンドガンを素早く抜き、ミサイルに向けて連射した。
狙いはラフティアではない。
ラフティアの直前で爆発させるための“誘爆”だった。
回避行動に移る前に、ミサイルが目前で爆発。
ラフティアは爆炎と爆煙に包まれる。
サムのエーテル属性は“幻”。
その発動には、高い集中力が必要だった。
ラフティアはすぐさま爆煙を抜け出す。
バサラヲは、撃ち尽くしたミサイルランチャーをパージ。
同時に両手のハンドガンも投げ捨て、即座に刀へと手をかける。
爆煙を突き抜け、ラフティアの間合いへ踏み込む。
刀を振り下ろし——
ラフティアの尻尾を、切断した。
続けざまに回し蹴りを叩き込み、ラフティアを遠くへ吹き飛ばす。
◆
一方その頃。
レンゴクが放った火球は、空中で軌道を変える。《火炎追尾弾》。
追尾性能を付与した火炎弾だ。
その火球が向かった先は——ドレティア。
アークはすぐに気づき、吠える。
「オレに炎は効かねぇ!」
炎を浴びる覚悟で、正面から受け止めようとしたその瞬間——
火球は、瞬時に“氷の塊”へと変化した。
氷塊はドレティアへ直撃する。
「うぉ!!」
砕け散った氷の破片は、そのままドレティアの胴体へと張り付き、じわじわと四肢を凍らせていく。
その間に、烈はセレティアへ向けて突進していた。
「この前とは、レベルが違ぇぞ……!」
烈の声と同時に、レンゴクが四足歩行形態に変形する。
“ビーストスタイル”
レンゴクだけが持つ特殊機構。
瞬発力を跳ね上げる、強襲形態だ。
「《火炎装》!!」
レンゴクの全身が、真っ赤な炎のエーテルに包まれる。
レンゴクの性能を一時的に強化するスキル。
一気にセレティアへ肉薄する。
セレティアは、背面の巨手型ウィングを前方に展開。
さらに《アクアスフィア》を拡大し、“完全防御形態”を取る。
次の瞬間——
レンゴクの突進が、バリアをこじ開けるようにセレティアへ激突した。
凄まじい衝撃波が周囲へ広がる。
押し込むレンゴク。
耐えるセレティア。
だが烈は、そこで一度レンゴクを跳躍させ、後方へと下げた。
セレティアの背後には——すでにバサラヲが回り込んでいた。
「《雷衝》」
凄まじい雷の衝撃波が、セレティアを背後から襲う。
水のバリア《アクアスフィア》は、結果的に“電撃の威力を増幅する媒体”となってしまっていた。
「クリスっ!!」
イノが叫び、ツムギのビットを次々と切り裂いていく。
「どりゃぁ!!」
アークも、炎のエーテルでドレティアの身体にまとわりついた氷を一気に溶かす。
2人はすぐさまセレティアの元へ駆け寄った。
「……問題ない。それよりサムは?」
クリスが確認する。
「退いてもらってる」
イノが短く答える。
「……俺たちも引こう」
クリスが冷静に判断する。
「しゃーねぇ……」
アークも渋々従った。
3機は撤退を開始する。
その時——
エンプティアに、バサラヲからの通信が入った。
イノは一瞬だけ戸惑う。
だが、すでに双方の機体は武装を収めていた。
「アーク、クリス。ごめん、ちょっと先に行ってて」
イノが告げる。
クリスは何かを察したのか、「わかった」とだけ言った。
アークは文句を飲み込みつつ、
「あとでちゃんと説明しろよな」
とだけ言い残し、2人は離脱していく。
イノは通信モニターを開いた。
そこに映ったのは、自分とそう歳の違わない淡い金髪の少年。
柔らかそうな雰囲気。
どこか、自分と“似た顔立ち”だとイノは感じた。
『ごめんね、急に。こちらはファクターズの上矢 閃。君たちがゼクストだね?』
閃が尋ねる。
「うん。ボクはゼクストのイノ」
イノが答える。
『そっか。イノ君、単刀直入に聞くけど——君たちは、ヨハンに“無理矢理”戦わされてるの?』
閃の問いに、イノは少し考え込んでから答えた。
「あっ、イノでいいよ。うーん……半分そうで、半分は違うかな」
『わかった、イノ。じゃあ、もう半分の理由を聞いてもいいかな?』
閃が尋ねる。
「ゼクストの……仲間のためかな。閃君たちも、きっとそうでしょ?」
イノは優しい笑みを浮かべて返した。
『こっちも閃でいいよ。その通り。教えてくれてありがとう』
閃も、柔らかく笑う。
「うん。じゃあね、閃」
エンプティアは静かに高度を上げ、そのまま去っていった。
そのやり取りは——
他のファクターズも、オペレーターたちも、エドワードたちも、全員が聞いていた。
そして同時に、閃の中にあった“ある疑問”が、ひとつ晴れた瞬間でもあった。




