第4話「リーク」
オルフェ研究機関・司令室。
DDとの交戦から数時間後。
ファクターズはエドワード、トーマス、松永とともに、大型モニターの前に立っていた。
エドワードが口を開く。
イシュタール財団——かつての仲間、ヨハン・グリムが設立した組織。
ヨハンが提唱していた“アバタライズ実験”の内容。
オルフェが保護していたエーテルコードを、大量に拉致した事件。
そして数年後——悪魔型の機体が、オルフェ本部を含む各支部を襲撃したこと。
語るエドワードの声には、静かな怒りが滲んでいた。
◆
「ヨハンはこう言っていた。“ファクターこそ新しい生命種であり、それ以外の人間はもう古い。いずれ淘汰される。自分も含めて”……とな」
閃が顔を上げる。
「極論ですね」
「ああ。その通りだ。しかし——ヨハンの恐ろしさはそこではない」
エドワードは続ける。
「その極論すら、“建前”なのだよ」
「ファクターを新世界の種と言いながら、エーテルコードを道具のように扱い、平然と捨て去る。奴の行動は矛盾だらけだ」
続いて、トーマスが口を開く。
「別の目的があるのは間違いありません。そして……あの悪魔型。ようやく繋がりが見えてきた気がします」
エドワードは息を整え、静かに告げた。
「ヨハンは狂っている。何かが彼を変えたのではない。最初からだ。それに気づかなかった私こそ愚かだった」
『全くだよ、エドワード』
突然、指令室に響き渡る声。
「!?」
全員が顔を上げると、モニターがノイズを走らせ、ひとつの文字が浮かぶ。
“GIGAS”——それは、イシュタールが使用するマザーブレインだった。
◆
「ヨハン……!?」
トーマスが息を呑む。
「オーキュラムは何も反応してません!」
松永が叫ぶ。
『やぁ、エドワード。オルフェの皆さん。そして、初めまして、ファクターズの諸君』
「ハッキング……!? そんな——」
松永の声を遮るように、ヨハンが軽く笑う。
『オーキュラムは確かに優秀だが、私の“頭脳”が入ったギガスには及ばなくてねぇ』
エドワードは静かに問いかけた。
「……何の用だ、ヨハン」
『久しぶりの友との再会だというのに冷たいじゃないか、エドちゃん。用もなく来てはいけないのか?』
「ふざけるなよ……」
エドワードの沈んだ怒気を、ヨハンは楽しむように受け流す。
『見ただろう? 私の創り上げた完璧なる芸術品。デーモンドール——略してDD。そして彼らを操るファクター、ゼクスト。私の最高傑作だ』
「ヨハン……!!」
エドワードの声が震えた。
『もっとも、お前たちにあのセンスは一生理解できないだろうがね』
『私もあのEDとかいう、チョーダッッサイおもちゃの良さがさっぱり分からん』
その瞬間——
「ふざけんなゴルァァ!!かっこいいだろうがァァ!!」
烈が大声で叫んだ。
音も横でぶんぶんと頷いている。
(この状況で、それ言う?)
怜は無表情のまま、内心ツッコんでいた。
◆
「そのDDのファクター……ゼクスト、だっけ?あんたが無理矢理戦わせてんの?」
閃はヨハンに向かって言った。
『さぁ〜〜?本人たちに聞けばぁ〜〜?』
ヨハンは鼻で笑う。
「そうさせてもらおうかな」
閃は落ち着いた声で返した。
トーマスが叫ぶ。
「貴様……! 一体どれだけの子どもを実験台にし、どれだけの命を奪ったんだ!!」
『さぁ? 失敗作の数なんていちいち覚えてないが……まあ、100は軽く超えてるねぇ』
軽い調子の返答に、指令室の空気が凍りつく。
「……この狂った悪魔崇拝者め……」
『ハッハッハ!!そんな褒めるなよ、エドちゃん。照れるじゃないか』
ヨハンは満足そうに笑い続ける。
『さて、近々またDDを送る。熱い熱〜い戦いを見せてくれ』
『では諸君、ばいちゃっ♪』
「ヨハン……!!」
『ああ、言い忘れていた。エドワードよ——“アリス”は元気かね?』
エドワードの表情が凍りついた。
「貴様ァァッ!!」
彼の怒号が指令室を震わせる。
音は思わず肩を震わせ、目を潤ませた。
通信はすでに切れていた。
トーマスも松永も、動揺を隠せない。
ファクターズは言葉を失っていた。
◆
静寂。
エドワードは肩で息をしながら呟く。
「……すまない。取り乱してしまった」
「エドワード……」
トーマスが心配そうに声をかける。
エドワードはゆっくりと言った。
「……アリスは、私の娘だ。10歳で——他界した」
音は苦しそうに表情を歪める。
「なっ……!!娘さんのこと、挑発に使ったってのかよ……あのクソジジイ!!」
烈が怒鳴った。
◆
イシュタール財団・格納庫。
ゼクストの4人はそれぞれのDDへと乗り込んでいた。
黒い悪魔たちが、再び翼を広げる。




