第4話「リーク」
オルフェ研究機関・作戦指令室。
DDとの交戦から数時間後。
ファクターズはエドワード、トーマス、松永とともに、大型モニターの前に立っていた。
エドワードが口を開く。
イシュタール財団——
かつての仲間、ヨハン・グリムが設立した組織。
ヨハンが推し進めた“アバタライズ実験”。
オルフェが保護していたエーテル保有児童を、大量に拉致した事件。
そして数年後——
悪魔型の機体が、オルフェ各支部を襲撃したこと。
語るエドワードの声には、静かな怒りが滲んでいた。
「ヨハンはこう言っていた。“ファクターこそ新しい生命種であり、それ以外の人間は古い。私も含め、いずれ淘汰される”……とな」
閃が顔を上げる。
「極論ですね」
「ああ。その通りだ。しかし——ヨハンの恐ろしさはそこではない」
エドワードは続ける。
「その極論すら、“建前”なのだよ」
ファクターズの目が揺れる。
「ファクターを新世界の種と言いながら、エーテル保有者をパーツのように扱い、平然と捨て去る……。奴の行動は矛盾だらけだ」
トーマスが口を開く。
「別の目的があったのは間違いありません。そして……あの悪魔型。ようやく繋がりが見えてきた気がします」
エドワードは息を整え、静かに告げた。
「ヨハンは狂っている。何かが彼を変えたのではない。最初からだ。それに気づかなかった私こそ愚かだった」
——その時。
『全くだよ、エドワード』
指令室中に、響き渡る声。
「!?」
全員が顔を上げる。
モニターがノイズを走らせ、ひとつの文字が浮かぶ。
“GIGAS”
イシュタールが使用する、マザーコンピューターの名。
「ヨハン……!?」
トーマスが息を呑む。
「オーキュラムは何も反応してません!」
松永が叫ぶ。
『やぁ、エドワード。オルフェの皆さん。そして——初めまして、ファクターズ諸君』
「ハッキング……!? そんな——」
松永の声を遮るように、ヨハンが軽く笑う。
『オーキュラムは確かに優秀だが、私の“頭脳”が入ったギガスには及ばなくてねぇ』
エドワードは静かに問いかけた。
「……何の用だ、ヨハン」
『久しぶりの友との再会だというのに冷たいじゃないか、エドちゃん。用もなく来てはいけないのか?』
「ふざけるなよ……」
エドワードの沈んだ怒気を、ヨハンは楽しむように受け流す。
『見ただろう? 私の創り上げた完璧なる芸術品。——デーモンドール。略してDD。そして彼らを操るファクター、ゼクスト。私の最高傑作だ』
「……貴様……!」
エドワードの声が震えた。
『もっとも、お前たちに私のセンスは一生理解できないだろうがね。私はあのEDとかいう、だっさいおもちゃの良さがさっぱり分からん』
その瞬間。
「ふざけんなゴルァァ!!かっこいいだろうがァァ!!」
烈が大声で叫んだ。
音も横でぶんぶんと頷いている。
怜は無表情のままだったが、
(この状況でそれ言う?)
と内心ツッコんでいた。
閃がヨハンに向かって言う。
「そのDDのファクター……ゼクスト、だっけ?あんたが無理矢理戦わせてんの?」
『さぁ〜〜? 本人たちに聞けばぁ〜〜?』
ヨハンは鼻で笑う。
「そーさせてもらお」
閃は落ち着いた声で返した。
トーマスが叫ぶ。
「貴様……! 一体どれだけの子どもを実験台にし、どれだけの命を奪ったんだ!!」
『さぁ? 失敗作の数なんていちいち覚えてないが……まあ、100は軽く超えてるねぇ』
軽い調子の返答に、指令室の空気が凍りつく。
「……この狂った悪魔崇拝者め……」
『ハッハッハ!!そんな褒めるなよ、エドちゃん。照れるじゃないか』
ヨハンは満足そうに笑い続ける。
『さて、近々またDDを送る。熱い熱〜い戦いを見せてくれ。では諸君、ばいちゃっ♪』
「ヨハン……!!」
『ああ、言い忘れていた。エドワードよ——“アリス”は元気かね?』
——その瞬間。
エドワードの表情が凍りついた。
「……貴様ァァッ!!」
彼の怒号が指令室を震わせる。
音は思わず肩を震わせ、目を潤ませた。
通信はすでに切れていた。
トーマスも松永も、動揺を隠せない。
ファクターズは言葉を失っていた。
◆
静寂。
エドワードは肩で息をしながら呟く。
「……すまない。取り乱してしまった」
「エドワード……」
トーマスが心配そうに声をかける。
エドワードはゆっくりと言った。
「……アリスは、私の娘だった。10歳で、他界した」
音は苦しそうに表情を歪める。
「…!!娘さんのこと、挑発に使ったってのかよ……あのクソジジイ!!」
烈が怒鳴った。
◆
同じ頃——
イシュタール財団・格納庫。
4機のDDが再び起動し、
ゼクストの4人はそれぞれの座席へと乗り込んでいた。
黒い悪魔たちが、再び翼を広げる。
——再戦の時は、もうすぐそこまで来ていた。




