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ん?なんの服を着ていくか?
そもそも静さんは俺のことを女だと思っているわけで、また女装していくしかないのか。
はぁ……
手元には明日家族に見つからないように洗濯して返そうと思っていた静さんの服がある。
ということで明日着ていく服が決まったわけだ。
静さんにはいつか打ち明けないといけないけれど、しばらくはまだ打ち明けられそうにもない。
朝起きて、家を出る支度をして鏡を見る。
いつも通りの顔だが、服のせいか少し可愛く見える。
でも本当に男だとバレていないんだろうか。
さてと。
妹はまだ寝ている時間だし親は二人とも仕事でもういない。
家の中でこんな服装をしているのはおかしいが、見られる心配がないので一応安心できる。
用意もできたし行くとしよう。
柚飛家に着く。
相変わらず柚のにおいがする。
「由羽?入って入って」
「お邪魔します」
「おぉ!?その服着て来たんだねぇ」
「いや、これしかなくて……あんまじろじろ見んなよ」
「可愛いよー由羽ー」
「マジでやめろ」
「はいはい。お姉ちゃんはあとから合流するから先に行っててだって」
「おーけー、のんびり見てるか」
柚飛家に戻った俺は目の前に広がっているものに絶望していた。
「いやぁいい買い物できたねぇ」
「そ。そうだね……」
「由羽ちゃんどうしたの?気分悪い?」
「いえいえお構いなく!ある意味悪いですけど」
どうやら最初からこれが目的だったらしく、延々と俺に似合う服を探し続けられてしまった。
服を買うというのはどうやら俺の服がメインだったらしい。
完全に乗せられた。
「よし、私の部屋で着替えよ!」
またか……
ノースリーブにデニムのスカートといういかにも夏物のファッションに着替えて出てきた。
「ほらやっぱり似合う」
「いいね!由羽ちゃん可愛い!」
「ど、どうも……」
あまりにもおだてられるので本当に自分がかわいいと思えてくる。
二日連続なので多少慣れてきている。
「よし!服も新しくなったことだしお昼食べに行こうか!」
「えっ!?」
「いいね!そういえば今日自分たちで買う日だった」
「由羽ちゃんの分もおごるから一緒にいこ?」
「来るよね?」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
断り切れないんだよなぁこういう時。
こんな格好でどうか学校のやつらに会いませんように……
ファミレスに着こうかという瞬間。
「あー!愛未!!」
「おー!忍、は相変わらず男の格好なのね……静さんもこんにちは!
あれ、その子は……」
お疲れさまでした!
終わりました!
対戦あり……
「忍の友達?そんな可愛い子と友達なら紹介してよー!」
男であることはバレていないのか。
「ごめんごめん。由羽って名前で、私の隣の席の子なの」
「へー!よろしくね!私は愛未っていうの。
忍とは中一のときに仲よくって。たまに一緒にゲームしてたり。」
「な、なるほど。よろしく……」
髪は長く、ワンピースを着ているいかにも女の子って感じの子だ。
「久しぶりだね愛未ちゃん。またうちにおいで~」
「そうですねー。最近ちょっと忙しいんですけど、また機会があったらこんど!」
よかった。大丈夫そう。
しかし、この子が教室で俺の姿を見たらアウトだろう。
ファミレスで少しの間いろいろと話した後、帰りがけ
「あ、そうそう。由羽、帰ったらFFBRやろうよ」
「バトロワのやつ?いいよ」
昨日は楽しかったしあれはまたやりたい。
なにより、久々に友達と一緒に遊んでいるわけだし、女装しなくて済む。
「あれ、もしかして3人でやってるの?いいなぁ。
私も昨日やってみたんだけど、野良の人とじゃうまくできなくて……」
愛未もどうやらやってるみたいだ。
「じゃぁ、私らと一緒にやる?」
「いいの!?」
静さんが少し考えたのち、
「うーん、じゃぁ私は一人でやってるから由羽ちゃんと忍と愛未ちゃんでやったら?」
3人か5人のゲームだから4人ではできない。
「え、いいんですか!?」
「同年代の子同士のほうがやりやすいと思うし、大学の課題もあるから」
静さんが遠慮したおかげで知らない子含め三人でゲームをすることになった。
そのままお開きということで家路についた。
「ただいま~」
「おか、え!?お兄ちゃん何その服!?」
「え!?あ……」
完全に忘れていたが、今この姿を家族に見られてはいけないのだった。
玄関開けたら鉢合わせた。
終わった。
今日の夜は家族会議だ。
「違うんだよ!こ、これは俺の意思じゃな、罰ゲームで!」
「そ、そんな趣味があったの……ごめん気づかなくて、その……」
と言うなり部屋にこもってしまった。
ゲームどころの騒ぎではなくなった。
これは確実にアウトだろう。
部屋に戻ってそのまま布団に倒れこんだ。
ただの現実逃避だが、とりあえず寝て忘れよう……
「……ちゃん!お兄ちゃん!おーーい!」
呼ばれている。
「ん?」
「入るよー」
ガチャ。
「スカートなんだから足、気をつけたほうがいいよ……」
言っている意味に気づき、とりあえず座りなおした。
情勢はこちらが圧倒的に不利だ。
「服色々持ってきたよ。私とサイズそんな変わらないだろうし」
寝起きで困惑しているが、どういう状況なんだろう。
「ほらこれとか、似合うと思うから着てみてほしくて」
「あれ?軽蔑してないのか?男がこんな格好してて」
「軽蔑?なんで?似合ってるのに」
それはそれでどうかと思うが、そこまで引いていないらしい。
「前々から思ってたんだよね。お兄ちゃん可愛いから女物の服似合うって。
まさか自分から着てくれるとは思わなかったけど」
笑いながら言っているが、こいつはそんなこと思っていたのか。
「もちろんパパとママには内緒にするから安心してね?
もし必要なものがあったら買いに行ってあげるから」
これはもう受け入れるしかないんだろうか。
まわりがやたらと女装させたがるのはなんでなんだ。
「そうそう。ここに未使用の下着があります」
「お、おい男にそんなもん見せんなって」
「服と一緒にここに置きますけど、特に意味はないです。
何かに使うなら使ってもいいですよ。」
何を言いたいのかはなんとなくわかった。
「灰色」
ぽつりと一言言われた。
「じゃあね~」
また部屋に帰っていった。
一応、家族会議はまぬかれたが、完全に妹に弱みを握られてしまった。
しかも遊ばれてるし。
やはり2歳差の兄妹だと兄の威厳というものは保ちづらいのではなかろうか。
こっちのことはぎりぎり何とかなったけれど、忍にでも後で相談するか。
そろそろ約束していた時間だし、パソコンを開いて用意しておこう。
と、思わぬニュースが飛び込んできた。
「いつになったら開放されるんだろう、これ」
「性別を偽って生きるなんて私よりレベル高いかもねぇ」
「誰のせいだと思って」
「打ち明けてもいいんだよ?お姉ちゃんの悲しむ顔見たくないなぁ」
「はあーあ。いつか男として認められるくらいの信頼を」
「がんばってね~」
次回「せんたく」です。よろしくお願いします。