5月/見た目は静か。蓋を開ければ。
「こっからはもう、消化試合みたいなもんだ。」
圭佑は唐突に言い放つ。
まるで僕以外の誰かに話しかけているみたいに。
「都合上、話をどこで切るか悩んだ結果、夏休み前に切ってしまえと………おい優、ちゃんと聞いてるのか?」
………聞いてるよ。
そろそろ暑くなりそうだしね……。
「あぁこっちはお前の髪の毛の話をしてるんだから理解しておけよ。全く。」
4月の窓ガラス割れるわ人に向けて矢を放つわ大変だった騒動の影響で停学処分、自宅待機な人はいっぱいいるが、どうやらこの圭佑、処分をもらっていないのだ。
関与もしていないと言うが、親衛隊は同罪じゃないですか?
「………聞いてないだろ。のろけてんじゃねぇよ。」
「のろけてないよ!」
「お、おう、返答早いな。」
また頬杖をついて圭佑を眺める。
晴れて彼女持ちとなった僕にはとても不思議なのだが、圭佑には彼女が居ない。不思議なことに。
「失礼なこと考えてないか?」
「いいや? ただ、そう言えば最近カイが高校に来てないのはどういうことなのかなと思ってた。」
圭佑はわざとらしく僕から目を逸らして言いました。
「自宅警備員にでもなったんじゃないか? 知らねえけど。」
「………知ってるだろ? 実際のところ。」
言われて圭佑はあっさり白状する。
「知ってるよ。つっても噂程度だけどな。」
塚見が高校へ来ていない。
元々不良みたいな態度の野郎だったけれど、授業態度は不良でも何でもなく、というか優良なくらいだったので、授業サボるとか無かったのだが。
高校には一切連絡はない。
けれど、圭佑は知っていた。圭佑自身、噂を自発的に集めている節がある。それ故にだろう。
「失踪。死んだとかも聞いたな。」
噂程度に知っているなんて情報にしては迷いなく、そして物騒だったが。
噂だからこそ、かもしれない。
「どういうこと?」
「最近、よくわからない教団が物騒な事件起こしてるだろ? それに巻き込まれたんじゃないかって。」
「あー、そう言えば、高校が襲われてるとか聞いたことあるよ……。」
物騒な事件。九州辺りで起きた事件を初めとして、段々と北上するように事件が起きているのであり、つい先週、京都府の博物館が襲われた。
被害者は皆軽傷であったと報道されているが。
「まぁ、噂だから。気にすんな。」
圭佑は僕以の背中をバンと叩き、自らの席に行ってしまった。
放課後。
「待った?」
高校の正門で僕が待っていたのは、雪幸先輩だ。
ちょうど今来た彼女は何か言いたそうにしていた。
「待ってませんよ。…それでどうしたんですか?」
言いたそうにしていたのを察して僕は問いかける。
「智が怪我したらしいから見舞いに行かなきゃいけないかと。」
雪幸先輩は歩きながら答える。
「あぁ、あの人怪我したんですか?」
僕としては先月の騒動があるからちょっと顔を合わせたくないのだけど。
「何でなのか分かんないけど。」
くるりと右足を軸に身を反転。ふわりとスカートが舞う。
「銃弾掠ったとか言ってたよ。」
いやどういうことだよですか。
「………行く?」
「行きます。」
茜屋先輩と会いたくはない。でも目の前の可憐な少女と一緒にだったら、行くのもやぶさかではない。
「やぁやぁ、よく来てくれたねぇ。」
とある病院のとある病室。普通にベッドに寝ていた茜屋先輩はこちらに向かって包帯でぐるぐる巻きにされていた右手を振る。
と言うことは右手を撃たれたのだろうか?
「……。」
無言で手を振り返す雪幸先輩。
僕は、何があったのか聞こうとした。撃たれたのなら何でなのか聞きたかった。
しかしまあ、当たり前かもしれない。茜屋先輩が真っ先に口を開いたのは。
「いやぁ、自宅に籠もっているのも性に合わないからって偶然『地獄の門』展とかやってる博物館行ったのよー。」
だから何なんだ?
口には出さないが、顔には出ていたのかもしれない。
「そんな目で見るなって。本題はここからだよ。…そしたらさ、銃を装備した人達が押し入ってきてさ、大変だったんだよー? 銃を乱射するからさぁ。」
「それで撃たれて入院ですか?」
「まてまて、話はそれだけじゃない。…まあ、警察が包囲した地点で彼等は逃げ出したんだけどさ。撃たれたところから血が出てんの。警察来るまで気付かなかったんだけどね。」
茜屋先輩は明るく笑いながら話を続ける。
「んで、大変だって、病院来てみればさ。」
そこで話を区切った。雪幸先輩は話を続けさせようと小さく
「で?」
と言えば、茜屋先輩が続きを言った。
「それでさ! くくっ…ぷはははっ…撃たれたところよりも医者さんがさ……あはははは!」
突然腹を抱えて笑い出したので、雪幸先輩を見れば僕と同じように首を傾げていた。
「『右手、ヒビ入ってますよ』って!! ははははっ! 右手を挟んだのは先月だってのに銃弾掠めたのよりも危険て判断されるなんて………って何よ、優。その目は。」
「何で笑ってるのか分からないんですよ……。」
「文明の利器ざまあって事よ。」
??
意味が分からないけどそう言うことにしておこう。
「分かった。お大事に。」
そう言うと雪幸先輩は部屋を出ていく。えっ、もう出て行っちゃうんですか。
「分かった、ありがとねん。」
あれま、本当に帰るんですか。
僕はおいて行かれぬようにさっと後を追いかけた。
「そうそう、優。博物館襲撃のときは死者がそこそこ出たみたいなの。でも生きてる、それってすごいことだと思わない?」
「……どうでしょう、分からないです。」
僕は雪幸先輩を追いかけようとして、茜屋先輩のその言葉に適当に答えた。
「そう……。 生きてるのは素敵よ、生きてれば巻き返せる。取り戻せる。だから私は……。」
大事なことのように思えたけれど、雪幸先輩よりも大事なことは無い。その話を真面目に聞かず、部屋を出た。
「ねえ、優君。」
「何ですか?」
「私達、付き合ってるんだよね?」
帰り、電車で。雪幸先輩は宙を見上げながらぼそぼそと呟いた。
「そうですよね。夢でもない限り。」
現実だ。
「でも恋人らしいこと、何もしてないよね。」
「そ………そうだよね……。」
恋人らしいことを想像して、口ごもる。
「あ、あのね………? だからね?」
雪幸先輩は途端にもじもじと手をいじったりしだす。
「でー…っ!?」
突然の着信音に驚いて雪幸先輩は舌を噛んだようだ。
「って、大丈夫ですか…!?」
「大丈夫……それよりも」
雪幸先輩は僕の持っているスマホの画面をのぞき込んでくる。
「お姉さんから?」
「みたいですね。…すいません。」
一言謝ってから電話に応答する。
義姉だ。声を潜めて電話する。
「何?」
『何? って、ちょっと買ってきてほしい物があるだけだからそんな怒らないで。』
「買ってきてほしいもの?」
『そうよ、色々とね。』
「メールでよかったよね?」
『それだと伝わってるか分かんないじゃない。』
「そうだね。」
『ちょっと今日、焼き肉にするつもりなんだけど』「焼き肉!?」
『く、食いつくわね。』
「そりゃあ、ね。」
『んで、焼き肉のタレが無いと言うことに気がついたから買ってきてね。』
「分かった。買ってくるよ、何でも大丈夫だよね?」
『無難なのを頼むわね。それじゃ。』
そして電話は切れた。
「で、何の話ですか?」
電話をする前にしていた話へと話題を戻そうとしたが
「………もう、察して。」
そんなことを言われてしまう。何でそんなこといったのかよくわからない。何を察するべきなのかも。
「ああ、そう言えばですね……─────」
察することは出来なかった。しかし告白する前と何ら変わらない日常だなぁ、なんて呑気に思っていた。
一応その事には気付いていた。
「何だろう、この気持ち。」
「言われても困りますよ。」
「まぁ、うん。」
「どうしたんですか、しおらしくして。らしくないですよ?」
「らしさ、ねえ。」
「ど、どうしたの? 本当におかしいわよ?」
「死んでしまったら、ここには居れない、居られないからね。」
「なんですか、変なところでも撃たれたんですか? 頭とか。」
「頭撃たれてたらそれは一大事だろうに。……そんなんじゃないわよ。」
「そうよね、智が撃たれた程度で変わるわけ無いし。」
「雪がうまくいってなければ奪っちゃおうかな。」
「そうそう…………ってはぁ!?」
(´ヘ`;)!?
「ん? なんか変なこと言った?」
「あのね智!? 変だと思うけど、この月一のやつは夏休みに編集するから七月分で終わるのよ!? あと二ヶ月!!」
「お、おう。突然どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか突然変なこと言うなって話が空中分解していくだろうから!? 処理不能だから!!」
「何の話さ?」
「うっわ、自覚なしで心の声が漏れちゃった感じですか!?」
「キャラ崩壊してるぞ葵。」
「いいんですよもともとここは本編じゃないですから!!」
「メタいことを!?」
「話戻しますけど何ですか智、優君に惚れましたか!?」
戻ってないよね!?
「そ、そそそそそ、そんなわけ無いでしょうが!!」
「そうでしょうかぁ!? じゃあさっきぽろっと言った台詞は何か? ふざけて言ったの!? 雪を裏切るような事を!?」
「雪なら裏切りかけたじゃん前回。」
「それとこれとは全く違ぁぁぁあう!!」
「お、抑えて、ここ病院!」
「智!? あなたさっき言ったこと実行してみろ!! 絶交だからな!!」
わーキレてる。初めて見たわここまで葵がキレてるの。
「なに他人事みたいな………はぁ。」
疲れてるねえ。
「もう良いわこの話は。じゃあね。」
もう帰るのね、葵は。
「あ、うん。じゃあ……ね。」
それにしても私としては、思っていたよりも絶交って言葉が響いたことに驚いた。
そんな事しか考えてなかった。




