最終話
「この金は持ってけ。残り少ないけどな」
一晩過ごして、荷造りをしながらボッシュが革袋を投げ、レイジーは一瞬迷ったが大人しく受けとる事にした。
「ありがたくもらうよ。それで、あんたは?どんなご褒美貰うんだ?昇給?昇格か?」
「は?何で俺に褒美があると思う。ただの任務だ」
レイジーは淡々と答える彼の言葉に、思わず革袋を弄んでいた動きを止めた。
彼は謙遜でも何でもなく、本心から自分に褒美などは出ないと言っているように見えた。
「あんたはさぁ、初めて会った時も思ったけど。不器用と言うか……その微妙にやる気の無い性格でよく騎士団なんて閉鎖的集団でやってけるね」
レイジーの素直すぎる言葉に、ボッシュは思わず、苦笑する。
「たまに逃げたくなる。でも、いつまでもガキじゃいられないってのも分かってる。家には兄貴が二人居て立派な騎士なんだ。俺だけ逃げるわけにもいかない。落ちこぼれてるけど」
「ふーん。俺にはわかんない。あんた程の腕ならどうとでもなりそうだけどね?でもそれにしてもあんたには、何か足りないんだ」
語りかけるようでいて独り言めいた言葉に、ボッシュは荷造りの手を止めた。
レイジーは自分を見ているようでいて、その視線は遠くを見るように焦点がぼやけている。
「足りないって、何が」
「俺にとって『世界の目』が全てだ。騎士とかなら、王や国を守るのがそうなんだろう。でもあんたにはそれが無い」
深い深い青い目に、吸い込まれそうになる。
「命をかけるほどの何か、たった一つのモノ」
囁くようなその呟きだけが彼の耳に届いた。
「行っちゃったわねぇ。私達はどうするの」
別れはあっさりと。
餞別にとレイジーは騎士に透明の球体を差し出した。換金するか、文鎮がわりにでもなるだろうと言い、彼も嬉しがるでもなく受け取った。ロクスタはその様子を見て、若い男同士だと味も素っ気もない、と思う。だが去っていく騎影を見つめながら口にしたのは別の事。
今後の事はどうするのか。
「そうだな、お隣さんはどうかな?あのイーチェクっておっさん、あっちの人なんだろ」
さらりと信じ難いことを言うので、ロクスタは一瞬で頭に血が昇った。
「ど、う、し、て、危険な方へ行くのよ?!絶対恨まれてるんだからね、嫌だから、私は!」
毅然として言うのに、レイジーはへらへらと笑って手招きする。
「あの人色々集めてそうだし、きっとお宝情報知ってると思うんだ。だからね?早く出発しよう。重いとか狭いとか言わないから」
有無を言わせない微笑みにロクスタは結局従う羽目になり、最後の抵抗で文句だけは言い続け、ボッシュとは違う方向へ進んで行く。
苦々しい顔をした宿の老人だけが、二人を見送っていた。
なんだか唐突ですが、これにて最終話です。
旅人は旅を続けるから旅人であるわけですが、レイジーは竜なのか旅人なのかは秘密です。
読んでくださった皆様、このようなグダグダな物語に最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
この話より後年の設定である「迷子なのにいきあたりばったり」もよろしくお願いいたします。
あまり成長してないボッシュさんが微妙に活躍……してます。