01-11 【好感度60プラス】自覚したら好感度は急上昇
今日は、学園祭における魔法実演の発表日。
レグルスだけでなく、魔法技術に自信のある生徒たちがこぞって参加する人気の出し物だ。
ちなみに学年だけでなく学内トップの私も教師たちに参加を打診された。学園祭実行委員があるのでと言っても引かないから、教師たちの腫れ物扱いで傷心のため出来ませんと言ったら顔を真っ青にして、引いてくれたわ。
別に私の扱いについてはどうでもよかったけど、引いてくれる理由があってよかったと思う。かなりハードスケジュールだし勘弁してほしい。
馬車で登校してすぐ、いつもの裏庭に向かった。
さすがに今日はいてほしいと神にも祈る気持ちで、覗き込むとこの数日ずっと探していたレグルスがいた。
「やっと、いたーーー!」
「……おわっ!! お前な……でかい声で脅かすなよ。手元狂ったらどうすんだ」
「え? 少しケガするかもしれないけど……大丈夫、私が治癒できるから」
「それ大丈夫じゃないから。……あっ! そういや昨日のチェス大会のあれ、みたぞ。あれなんなんだよ! 語尾にニャンとか、格好もあれだし」
『あれ』ばっかりでよくわからないけど、なんかレグルスの顔が真っ赤ですね。怒ってるんでしょうか。でもなんかそんな感じの声ではありませんけど、それはどうでもいい。
「昨日帰ったあと、鬼と化したグウェンお兄様に私が眠りによって、意識を失うほどの長時間のお叱りを少々。領地の両親宛に分厚い手紙を今日執事に渡していたわ。ついでにティナお義姉様からは淑女教育のやり直しを命じられました……。私の役目を全うしただけなのに理不尽!」
「それ少々っていうのか? しかし、やっぱり怒られたのか。クリスティナ夫人は淑女の微笑みだったが、扇をへし折りそうだったしな。うん、あれはない。不特定多数の前でやんな。お前、美少女なの自覚しろ」
なんと! レグルスは怒られることを予見していたのですか? 司会をやる前に相談すればよかったわ。ん?
「――レグルスからみて私は美少女なの? 美意識あったことに驚いたよ。そして私たち普通に会話してるね」
「あっ!」
レグルスの顔色をしっかりと見る。やっぱり、ここで会わなくなる前より顔色が悪いし、少し魔力が乱れてるわ。
「――はぁ、やっぱり顔色悪いじゃない! なんで私に魔導具のメンテをさせてくれなかったの? メンテは後でやるとして、取り敢えずレグルスの治癒が先だね。私、魔力回路が傷つくかもっていったよね?」
私は怒ってます! 無茶をすれば後遺症が残るわ。その結果魔法は使えなくなるかもしれない、魔法が使えないレグルスなんてただの女性差別がある口の悪い男じゃない。
「――心配、したのか?」
「するに決まってるでしょ! というより、ずっと心配してました! ここにいた野良猫を見て、レグルスが猫になっちゃったとかいって、抱きしめるくらいにはしてました!」
「……猫になるかよ、馬鹿か? でも……そっか」
「そうですよ、では手を出してください。治療です」
「――はあ? いや、それは……いや、駄目だ。お前は駄目だ! 色々駄目だ!」
イライラするな。顔真っ赤にしてるけど、男とか女とか関係ないし! お前は駄目って意味わからないわ。もう実力行使しかないと無理やり手を握った。
「……私さ、レグルスが体を酷使してて結構怒ってる。いいから、黙って」
顔を真っ赤にするレグルスはサクッと無視をして治療に専念した。
魔力の乱れもこのくらいで済んでよかった。でもこの短期間でこうなるなんて相当無理したのだろう。
今日のレグルスの順番まであと一時間くらいか。
この治療が終わったら、メンテしつつ進捗がどうなってるのか確認。それから――。
「……シエラ。俺、今日の実演棄権することにした」
「え? なんで?」
思考の渦に嵌ってた私は突然水を差されて、レグルスを正面から真っ直ぐに見た。
いつもは怒りややる気で輝いてる赤い瞳がなにか諦めでもしたかのように、淀んで見えた。こころなしか赤い髪もくたびれてるように見える。
……え? まさかの闇落ち? 塩対応メンズは闇落ちするの?
「――氷の華、まったく出せなくなった」
「…………」
「おれ、氷魔法の適正ないわ、それ実感した」
だから、ここまで無理してたのね。現実を受け入れるのは相当つらかっただろう。
前世の私も喪女だから彼氏は諦めたとか周りにいいながらも、結構傷ついてた。こんな私を認めてくれる彼氏が欲しかったよ。
「……そっか、でもレグルスは綺麗な火魔法あるからそっちを磨こうよ。」
「――火魔法じゃ意味ないんだよ! 氷魔法じゃなきゃ――」
「じゃ、魔法自体やめる? 魔法がないレグルスなんてただの口の悪くて頭と顔がいいだけの高位貴族の嫡男……あれ? 意外といいとこ多かったわ」
「……ぷっ! あはは、お前馬鹿かよ」
「――氷魔法でなきゃ駄目な理由は、聞かないけどさ。火魔法を極めればよくない? 火魔法使い・レグルス見参! とかかっこいいよ……多分、いや、知らないけど……。レグルスやほかの人が認めなくても『物質の結晶化』とかいう覚醒済み超レア固有魔法を持っている私が認めましょう!」
「お前だけが認めてもな……正直しょぼい。でもまぁいいか、まずは一人目だもんな。あと魔法はやめねぇ、あきらめてやらねぇ」
「まっ! リコルディエ侯爵令息、公爵令嬢のワタクシに対して失礼にもほどがありますわ。オーホッホッホッ……ホッ」
「それやめろ。お前と話してる感じしねぇ」
「だよね、高笑いで息切れすごくするんだよね、これ、向いてないわ。――あっ、忘れてた! この前は安易に踏み込んでしまってごめんね。ずっと謝りたくて……」
うっかり忘れてた。普通に最初から話してたから、記憶の彼方だったわ。
「――お前は悪くない。俺が悪かった。なんかすごいわけわかんねぇけどイライラしてた。そんでお前にあたった……ごめん」
「……レグルスを傷つけたわけじゃなかったならよかった。じゃあ、これで仲直りね。……あ、治療終わったのに手を握りっぱなしだった。ごめん、女性に触られたくないだろうに」
すっかり話に夢中になって忘れてたよ、ごめんごめん。好感度が白い彼岸花の底辺じゃさぞ嫌でしょう。あとで手を洗ってください。そう思いながら手を離した。
「お、お前なら、べつに……。それに、やっと素直になれそうだから」
「……素直とは? レグルスはいつだって私の心をえぐる言葉いってくるけど?」
「いや、お前も相当だからな。そういえばお前さ、ほかの奴にいじめられてんの?」
え? なんか触れてはならないセンシティブな突っ込みがきたよ。腫れ物扱いのことを言ってらっしゃる?
「…………そんなこともあるかもしれませんね」
「要するに、されてんだな。しかも俺も要因のひとつなんだろ。この前初めて知った。不用意に入学式の日、お前を罵倒したのや隣の席に座る幼馴染をずっと無視してたから周りが忖度したって……本当に悪かった。これからは俺が守るから!」
守る、とは? 何を言ってるの?
多少嫌がらせがあっても攻略に専念できるし、私としてはこれ以上ない環境なんですが! 学園や王宮や各家に苦情を出そうとしてた兄夫妻を止めるのは大変だったんだよ。
これは推しとの砂糖生活のための必要投資だよ! セコムいらない……。
というか、今頃気づいたの? 山のなかに籠もってる修行僧かなにかなのかな? 殿下の側近になるのにこの鈍感さじゃ、良からぬものに喰われるわよ。
「……守りは、いらない。別に気にしてないし、適度にやり返してるから。それに公爵令嬢だってことで媚び売ってこられないし、全然構わないし、すごく楽だよ」
「俺が女嫌いだからって遠慮してんだろ。お前は別枠だ、よかったな。それにいじめられたなんて自分では認めたくないよな」
何かに納得したようにウンウン頷いてる。もしかしなくても変な方向に勘違いしてない?
もしかしてこの前、ヒソヒソ言われそうな場面で何もなかったのってレグルスがなんか言ったとか? それ、裏で酷いことになってるやつ!
「いや、わかってないよ! 絶対にわかってない!」
「気にするな、俺は有言実行の男だ」
何処に安心要素が?? そう言ってレグルスは腕から魔道具を外して渡してきた。
あ、メンテが必要ですよね。というか手渡しされたのは初めてですね。なんか距離感おかしいんだけど! いや、直しますけど!
直してレグルスに渡すと、笑顔で受け取って腕に再び装着した。
「じゃ、本番よろしくな。お前なら適当に合わせられんだろ。じゃ、俺行くわ」
「えっ! 何? その無茶振り。今少し時間あるよね、打ち合わせくらい――」
レグルスは風のように去っていった。つまり、あと30分後に始まる本番に出ることは確定で、レグルスの挙動をみて、的確に補佐しろということでしょうか? 私は怒っていいよね? さすがに扱いがおかしい……理不尽過ぎる! ……まぁ、やりますけど。
一応、なんか過保護が発動してるし好感度上がってるかもしれないからステータス画面の好感度を確認するか。『攻略メモ』通り学園祭は協力できそうだし達成するでしょ。
うーん、色がついてる気もするけど気のせいかな。ほんとオシャレなUIのせいでわかりにくい。
……もういいや、はい、白! 白い彼岸花、決定。
で、バーコードの数字は……
――60+█▉▊▋▌▍▎
なに? 60+って。この前32だったよね。
やっぱり好感度では? ……いや、ないよなぁ。突然こんなに上がることって普通ないだろうし。
駄目だ、わからない。
それよりも大事なのはレグルスと友好築けないと推しの『暴食』が出てこないということよ。私の願いは一つだけなのに……。
本番10分前に合流したレグルスはしなびてたトマトからお肌ツヤツヤのいきいきトマトに復活していた。
本当にこの変わり様、なんなの? 生のキノコむしって食べたでしょ? 絶対食べた!




