01-09 憤怒幼馴染は反省する〈レグルス視点〉
赤の彼岸花―レグルス・リコルディエ Side
あーーーーー、なんかすごいイライラすんな。あの試験結果が貼り出された後からだ。
なんであの二人が学年も違うのにシエラの入学試験の実態を把握してんだよ。
「ごめんあそばせ!」とか言い出したときには正直トチ狂ったのかとおもったが、少し赤らんでる顔が……少し可愛く見えた。……ほんのちょっと、だからな、勘違いするなよ。
……女はすぐに勘違いするからな。釘を刺しておかなきゃいけないって誰に言い訳してんだ俺。
あいつらには腹立つがここで、シエラに学園祭の実演の助手を引き受けてもらうことが重要だ。
当然二つ返事で引き受けてもらえた。
だが問題はその後だ。なんでここでもシエラの周りにあの三人がチラついてんだよ。
でも、パーヴィスとゴーランドみたいなプライドの高い人間はシエラを利用してるだけだろう。
問題はあのセイルだ。あの動こうとしないやつがシエラがいるからって動くとかおかしい。まさかな。
あー、色々むしゃくしゃするな。
来週の予選……か。
そういや、なんであいつ、学園祭実行委員なんてやってんだ? 確かあの時、誰もやりたくねぇって空気になって、シエラにクラスの奴らが、押し付けたんだったか?
今ならわかる。あいつ、自分から学園祭実行委員になりやがった。思い出してきたぞ。
なんか聖人ぶった発言して、うさんくせぇって思ったんだった。
あんとき黙ってないで、なんかいちゃもんつけて他のやつに押しつけとくんだった。
そうしてれば、今頃セイルと接近もなくて、ゴーランドのイベントも関与してなかったかもしれない。
そして確実に今こんなに苛ついてなかったはずだ。
そう思いながら校舎を歩いていると、知らない女がシエラの名前を呼んでいるのに気がついて、つい足を止めて聞き耳を立てた。
「リリーディアン公爵令嬢が主席でしたわね。振る舞いは完璧な公爵令嬢ですが、さすがにこれはできすぎですわね」
「ええ。あの方、顔はお綺麗だから教師を籠絡したのでは? 彼女の入学当初、ゴーランド殿下やパーヴィス様が顔と家柄だけっておっしゃってましたし。主席なんてありえませんわ、振る舞いは楚々としてますが、広い領地があるだけのただの田舎者よ」
「確かにそうですわね。レグルス様だっていい気になるなよとか言ってましたし、幼馴染だったら決してあんな事言いません。あの方が下劣だからですわね」
「セイル様もいつも迷惑そうですわ」
は? こいつら何言ってんだ? シエラが籠絡? 下劣? どのあたりが?
……確かに俺はあいつにいい気になるなって言ったし、誰もいなかったが入学試験の魔力考査の結果を聞いた時に『イカサマか?』と言ったことはある。
なんで俺の言葉が勝手に切り取られて、シエラの陰口になってんだよ。そんなこと誰がやれって言った! そもそもあいつああ見えて公爵令嬢だぞ、馬鹿なのか? この国一番の大穀倉地帯を領地に持つあの家を敵に回すとか愚かすぎだろ。
俺はカッと頭に血がのぼった。
――もしかして、俺があいつを軽視したから、周りも同調したのか? シエラはずっとこんなことを陰で言われてたのか?
クソっ。あいつなんでいつも笑ってんだ? 俺にはそんな大した力はないけど、俺に助けを求めろよ。そしたらあいつを守ってやってもいい。
なんだ、これ。いや、これは考えちゃいけないやつだ。取り敢えずこの女どもの視界に入るのも嫌だが、こんなくだらねぇことは終わらせなきゃいけない。
あのクソ女どものところへ向かうための一歩を踏み出した。
俺は初めて自分の不用意な発言を恥じた。
シエラはいつも通り、魔導具のメンテをして、俺へのアドバイスをしている。不思議とあいつへの反発心はなかった。
もっとうまくなりてぇ。氷魔法が使えなきゃいけないとだけ思ってた時とそれ自体は変わってない。でも上手く言えないけど何かが違う。
なんかもどかしくてイライラする。
それから一週間後――。
俺はチェスの予選を見学した。
あいつ、マジですげぇ。あの早打ちとんでもないぞ。あのゴーランドと打ってるときも早いとは思ったけど一人で34人同時に相手してるとかマジですげえ。
…………司会をやらずにゴーランドと本番であいつが対戦したほうがよくないか? あ、駄目だ。あいつ相手ならゴーランドは絶対に勝てない。流石に王太子が無様に負けるのはいただけない。
セイルは、そんなあいつに甘えてんな。セイルは恥ずかしくないのか? 男だろ。
そんななかあいつがよろけて倒れそうになったとき俺も思わず動いてしまったが、サッと素早い動きでセイルがあいつの腰を支えた。セイルのあんな動きと表情、久々に見た。
…………あいつに触んな。セイルの手を祓い除けたい。
あークソ。取り敢えず帰るか。このままだとシエラに八つ当たりしそうだ。
それから一週間後に今日シエラと戦って長持ちした上位四人で決勝トーナメントをするらしい。
セイルといるあいつをみたくなかったからおれは見に行かなかった。
三日後は学園祭本番だ。
おそらく、苛ついてるのと焦りが良くなかったんだろう。俺は以前より上手く氷が出せなくなってた。華なんて言えるもんじゃない、そんな代物だ。ただの小さな氷の粒。
「落ち着けばできるよ、大丈夫!」
シエラのこの言葉が妙に俺の癇に障り、シエラを傷つけるだけの言葉を言い放っていた。
「お前に何がわかる。天才に凡才の気持ちなんてわかんねぇんだよ。女はすぐ知ったかで言葉をいってきてうっとおしい。もうここに来んな!」
周囲から音が消えたかのような感じだった。俺は何て言った?
「…………そ、そっかあ、ただ、レグルスの魔法は綺麗だったから……余計なこと言っちゃったね。ごめん。でも、朝のメンテだけはさせて? それが終わったらすぐに教室に戻るから。私がいる間は後ろ向いてればいいよ」
「…………」
「じゃ、今日は戻るね」
シエラは今にも泣きそうな顔でそう言って教室棟の方へ歩いていった。
やっちまった。情けねぇ。八つ当たりは駄目だって思って、必死に抑えてたのに結局やっちまった。これならあいつに甘えてたセイルのほうがよっぽどマシじゃねーか。
あークソ! そのまましゃがんだ後、後ろに倒れて草むらの上で大の字になった。
女はすぐ泣けばいいとおも……いや、これに女は関係ない。俺が悪い、ただそれだけだ。
シエラに合わせる顔がないな。……しばらく鍛錬場所は変えるか。




