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推しとの激甘生活を目指していたら、塩対応攻略対象たちに溺愛されていました  作者: 水無月傾
白の百合の章  〜プロローグ

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00-01 薄い過去を持つ喪女のヒロイン転生

 二月のとある日、窓から雪が降り積もるのを眺めながら、領地にある我が公爵邸の温室のガーデンチェアで料理長特製の甘いケーキをいくつかとブラッディオレンジジュースをのんびり飲んでいた私は、脳裏に空想と言うには生々しい映像が浮かび、衝撃で喉をつまらせた。


「…ぶほっ!」


 私はそのままブラッディオレンジジュースを口と鼻から吐き出して酷い有様だったらしく、「お嬢様が、口と鼻から血を! 毒かもしれません‼︎‼︎」とそばにいた侍女が騒いだためか、使用人たちだけでなく家族も大騒ぎになったそうだ。でも私はそのまま倒れてしまったからその後のことは何も知らないし、それどころではない。


 私は倒れてそのまま『前世』と思われる夢をみていた。家族に見守られながら目を覚ましたのは翌朝だった。



♢ ♢ ♢



 目を覚ましてベッドのなかで先ほどまで見ていた夢を思い出す。


 その夢の中で私はサブカル好きの女子大生だった。でもバイトの帰りに突然頭が痛くなって……その後の記憶はないわ。


 うん、これは異世界転生ね。何度もアニメや小説で読んだから知ってるわ。ふふふ、履修済みよ。夢と思われるものはきっと『前世』なんだろう。


 前世の私は喪女だったから彼氏なんてそんな大層なものはいないし、大学とバイトと家の間を往復する日々を送るだけ。

 暮らしていたのは、今生きている世界とは全く違う世界だった。夜でも外は明るくて出歩いても安全、便利な家電や乗り物があって、衛生的な環境。今のように魔法やドレス、馬車で移動なんてものはない……そんな世界。


 ……あら? これだけ? 名前もわからないわ。ハマったゲームとかアニメとかは思い出せるのに。……まあ、いいか。友人も恋人もいないような薄いオブラートみたいな人生だったみたいだし。前世の両親にはここから感謝だけしておこう。


 それより重要なのは、この世界はどハマりした乙女ゲーム『七つの罪は白百合に溺れる』ではないかということ。

 だって今までの私の中にあった記憶の中の人物ととゲームの中の登場人物が同じだもの。


 そのゲームはダウンロード専売のインディーズ乙女ゲームでボイスはなし、七つの大罪の各罪を攻略対象の男性の性格テーマにした超安価ゲームで、本編は4つの罪モチーフの攻略対象がいた。

 

 それがまたかなり塩対応なメンズたちで、はっきり言って私はまったく興味がなかった。喪女だし、塩対応は……ねえ、ゲームの中でも抉られたくないし。

 それが不評だったのかメーカーはダウンロードコンテンツで残りの三つの罪の攻略対象たちをだしてきた……!


 そのダウンロードコンテンツの中の一つの隣国からの留学生である『暴食』の彼が私のドンピシャだったの!

 彼は甘い囁きという甘い果実をこれでもかと与えてくる砂糖男子。顔も柔和でいつも笑っていてハニーオレンジ色のふわふわな髪の毛が素敵なの! あと……はっ! 語っていたら一日が終わってしまうくらいだからこれくらいするけど、要するに沼った。

 インディーズで声もないから脳内ボイスで自給自足したし、スクショから自作でアクスタを作ったりかなり充実していたわ。

 もちろん生誕祭はケーキを手作りしてろうそくを立てたりして盛大に祝った。


 ダウンロードコンテンツだけではプレイできないから本編も購入した。でも本編は一度も触れることなくダウンロードコンテンツの彼を繰り返し攻略する毎日だった――。


 そっとサイドテーブルの引き出しに入っていた鏡を取り出して自分の顔を見る。

 この少しふっくらした顔……会話ウィンドウの横にずっといた顔だわ。

 はい、確定。この世界は『七つの罪は白百合に溺れる』だわ。


 ………………はぁ。前世の私は『暴食』の彼の背景のモブになって彼の糖分を供給されたかったですけど、『ヒロイン』になりたくなかったんですが――!


 この作品のヒロインの『シエラ・リリーディアン』に転生とか嫌すぎです! 神様! なんとかしてください。

   


♢ ♢ ♢



 支度したのち家族と会って、涙目で私を天使と溺愛する両親とグウェンお兄様にとても怒られたし、義姉であるクリスティナ様には白い目で見られた。結果、倒れるときにはブラッディオレンジジュースは禁止になった。

 これから倒れるかどうかなんて、私にはわからないので実質禁止ですね。心配をかけたので仕方ないわ。

 そして今日は部屋でおとなしくしていることを厳命された。理不尽……。


 部屋にいても特にやることはないから、五個目の我が家の自慢の料理長特製のマドレーヌを優雅にかじりながら、この世界について考えた。


 9月から貴族の義務として通う学園でこのメンズたちに塩対応で嫌われているため、同調圧力による学園中からの腫れ物扱いと陰口で過ごしながら聖夜に学内で行われるダンスパーティーで告白されるというのがハッピーエンドの大筋。

 ――でもバッドエンドは塩対応メンズたちが私に与える過酷な死と実家の没落だった。

 

 いや、おかしいよね。私、公爵令嬢だよ? なんで学園で陰口言われて腫れ物になるの? いくら塩対応メンズが高スペックだからって酷いでしょ。女一人を追いやるために権力を使うとか色々小さいでしょ。

 しかも没落ってなに? あんな優しい家族を路頭に迷わせると? 修羅なの?


 いやだ、絶対にいや! 私はもっと平和に寿命を迎えたい! 前世は女子大生で死んだんだよ? そりゃ喪女だったかもしれない。でもその当たり前な生き方を主張するのも当然だと思う!



 ……………………はっ! そういえばダウンロードコンテンツの『暴食編』はこの本編終了後の冬を舞台に隣国から留学してきた彼だけを攻略するゲームだわ。

 そして本編キャラの塩対応メンズからの嫌われは解消されてる設定――。 

 

 つまり、この聖夜のイベントを全員友好で終わらせれば、推しとの砂糖まみれの生活を満喫できる……ってこと?


 いい! 塩対応を耐えた先に待っているご褒美が砂糖生活。めちゃくちゃいいわ。 私はどうでもいいことに対しては飽きっぽいから達成できるか少し不安だけど、推しとのラブラブ砂糖生活のため頑張れる。

 

 たぎるわぁ。たしか本編は『攻略メモ』というアドバイスがステータス画面にあるってSNSにかいてあったから、それの通りに攻略すればいいんじゃないかしら。余裕余裕、塩対応メンズたちの声なんてそよ風と思って乗り切ればいいんだし。


 ……ん? ステータス画面? そういえばこれってどうやって確認するの?

 ふむ……これをやる時が来たようね。

「うなれ! ステータスオープン!!!!!」


 ……………………何も起こらない。


 異世界転生の鉄板を叫んだのに駄目みたい。

 ……詰んだ。本編やっておけばよかった。そうすれば攻略くらいわかったはず。後悔先に立たず……。

 失意から打ちひしがれていると、突然光に包まれた。


『まぶしいわ、目が焼かれる!』と思っていると突然「ぷぷぷ。ステータス画面見れるようにしてあげたよん。がんばー」って女性のだるそうな声が聞こえてきた。

 私は「え?」と思わず口に出して、キョロキョロと半目で見渡すけれど誰もいない。そうしている間にいつの間にか光は弱くなっていって消えていった。


 なんだったんだろうあれ、変質者? いや、さすがに公爵家の警備を潜り抜けるなんてありえないよね。しかも笑ってた? やる気をまったく感じなかったけど。でも異世界転生の鉄板は女神様……のはず! きっと、そうに違いない。幽霊は勘弁……!


 あの声によるとステータス画面見れる様にしてくれたんだよね。『ありがとうございます、女神(仮)様!』と心の中で感謝して、「ステータスオープン」と意気揚々に叫んだ。 そうすると間髪入れず、かなり背景が透過されたステータス画面のパネルが目の前に出てきたのでそれをタブレット感覚で動かし始めた。


 ――全部グレーアウトしてるんですけど! なんで? しかもちょっと文字も見えにくいんですが!


 あ! 今は二月でまだ本編開始前だから?

 色々考えをめぐらせつつも今は見れないので諦めて閉じた。きっと9月の学園入学のときには見れるはず、そうであってくれ。


 ちなみに後日「ステータスオープン」と叫ばなくてもステータス画面を見たいと思えば開くことがわかったし、他人にはこのパネルは見えないということが判明した。

 ……あのノリノリでやっていた「ステータスオープン」の姿を思うと恥ずかしいけど、攻略はしやすくなったと心に整理をつけ、ポジティブに考えることにしたのだった。


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