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クールで冷徹な『氷の令嬢』、なぜか俺の心の声(ダダ漏れ)だけは聞こえるらしい。  作者: わわわ


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第3話:氷の令嬢は素直になれない

 手繋ぎ事件から一夜明けた、昼休み。

 俺、春トは憂鬱な気分で購買のパンを握りしめていた。


(昨日の今日で、冬月さんに話しかけるとかハードル高すぎだろ……)


 昨日の授業中、あろうことか『氷の令嬢』と手を繋いでしまった(事故で)。

 クラス中の噂になっているし、冬月さんには迷惑をかけたに違いない。

 今日の彼女は朝からいつも以上に冷ややかなオーラを放っており、俺は一言も挨拶できていないのだ。


(あーあ。冬月さんと一緒にご飯食べられたら、昨日のパンも三ツ星レストランの味になるのになぁ……)


 俺は自分の席で、袋に入った焼きそばパンを寂しく見つめる。

 なんて、高嶺の花相手に望みすぎだ。

 俺は溜息をつき、袋を開けようとした。


 ガタッ。


 不意に、隣の席で物音がした。

 見ると、冬月さんが自分の机の前で立ち上がり、なぜか俺の机の周りをウロウロしている。

 手には可愛らしい巾着袋を持っている。


(……え? 何? どうしたの冬月さん?)


 彼女は何か言いたげに口を開けては閉じ、またウロウロする。

 その視線は、チラチラと俺の方(正確には俺の焼きそばパン)に向けられている。


(も、もしかして、俺が邪魔? ここで飯食うなってこと? それとも貧乏ゆすりしてた俺!?)


 冬月さんの眉間には深いシワが刻まれている(ように見える)。

 俺は戦々恐々とする。

 まさか、昨日の件でまだ怒っているのだろうか。


(ご、ごめんなさい! 俺の焼きそばパンのソースの匂いが不快なんですね!? すぐ消えます!)


 俺が慌てて席を立とうとすると、冬月さんが「っ!」と声を漏らし、悲しげに目を伏せた。


(――違うのに……! ただ、一緒に食べたいだけなのに……っ!)


 ……ん?

 今、何か聞こえたような?

 俺は動きを止める。

 冬月さんは涙目になりながら、俯いて小刻みに震えている。

 その手にある巾着袋を、大事そうに抱きしめている。


(……待てよ。冬月さん、怒ってるっていうより……なんか、お腹すいてる子犬みたいな顔してないか?)


 俺の観察眼(対冬月さん専用)が、彼女の微細な表情の変化を捉える。

 あれは威嚇じゃない。困惑と……焦り?

 そして、あの巾着袋。どう見てもお弁当だ。


(まさか、箸を忘れたとか? いや、それなら購買で貰えばいいし……)

(もしかして……一緒に食べる相手がいなくて探してる、とか?)


 いやいや、そんな馬鹿な。彼女なら引く手あまただろう。

 でも、もしも。

 万が一、俺と一緒に食べたいと思ってくれているなら。


(……よし。玉砕覚悟だ。もし違ったら、俺の卵焼き半分あげる勢いで謝ろう)


 俺は心の中で決意を固め、強く念じた。


(冬月さん。もしよかったら……一緒に、食べる?)


 その瞬間。

 冬月さんがバッ! と顔を上げた。

 その表情は、ぱぁっと花が咲いたように明るくなる――直前で、またフイッと強張った。

 そして、無言のままドン! と俺の机に巾着袋を置いた。


「……これ」

「え?」

「……作りすぎたから。……責任、取って」


 え、責任? 昨日の? それとも作りすぎたことの?

 混乱する俺をよそに、彼女はさっさと袋を開け始めた。

 中から出てきたのは、二段重ねの立派な重箱弁当だった。

 しかも、俺の焼きそばパンが霞むほど豪華で、彩りも完璧だ。


(すげぇ……! これ冬月さんが作ったの? 家庭的すぎない? てか『作りすぎた』ってレベルじゃねーぞ!?)


 俺の心の称賛が聞こえたのか、冬月さんは耳まで真っ赤にして、小さく「……ん」とお箸を渡してきた。


 ◇


 結局、教室だと目立つので、俺たちは屋上のベンチに並んで座っていた。

 青空の下、美少女の手作り弁当を食べる。

 前世でどんな徳を積めばこんなイベントが発生するんだ。


「い、いただきます……」


 俺は震える手で、タコさんウィンナーを口に運ぶ。

 ……美味い。

 冷めているのに、味がしっかりしていて、噛むほどに旨味が広がる。


(うっっっま!! 何これ天才!? 冬月さん料理上手すぎでしょ! こんなの毎日食べられたら死んでもいい……いや、生きててよかった!)


 俺がお世辞抜きで心の中で絶賛すると、隣でモグモグと食べていた冬月さんが、むせそうになった。

 横目で見ると、彼女は口元を手で隠し、茹でダコみたいに赤くなっている。


(あ、赤くなってる……。自分の料理褒められて照れてるのかな? 可愛いなぁ……)

(こんな美味しいお弁当作ってくれるお嫁さんがいたら、俺は世界一の幸せ者だよ、本当に)


「……っ、ぅ……」


 冬月さんが限界を迎えたように、膝に顔を埋めてしまった。

 え、どうした? 俺、なんか変なこと思った?

 心配になって覗き込むと、彼女は消え入りそうな声で呟いた。


「……明日も」


「え?」


「……明日も、作りすぎちゃう、かも……しれない」


 顔を上げた彼女の瞳は、潤んでいて、とろけるように甘い光を宿していた。


(――っ!? それって、まさか……!)


 俺の心臓が爆発しそうになるのと同時に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 あーあ、もう少しこの時間を味わっていたかった。

 でも、明日もまた、この幸せな時間が来るのかもしれない。

 俺は空になったお弁当箱を、宝物のように大事に抱えて教室に戻った。

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