061 披露会前夜 (下)
「来たよー」
元気に女王の部屋に登場の冬である。
「はい。こっちがエカちゃん、こっちがおばさんの」
袋を渡された女王、袋にエカちゃんと大書してある。言葉がない。
「エカちゃんのほうがマシだ」
おばさんと書いてある袋をもらった侍女長が呟く。ご丁寧に似顔絵付きだ。おばさんはあちこちにいると気づいたらしい。
「これはね。時間停止の収納袋だよ。エカちゃんのは特別大きくて屋敷くらい。おばさんのは一軒家くらいの大きさだよ。食事と水が入っているよ。食べてね。おばさんのにはトイレテントも入れてあるよ」
「ああ、よかった」
エカちゃんの感想である。
「あ、これかあ。不味いと言う肉」
マロンとドラが匂いを嗅いて鼻をしかめ前足で鼻を擦っている
「ふうん。これは大変な肉だねえ。手をかけて熟成したつもりなんだろうけど少し腐っているよ。こっちは南で暑いからねえ。食べた?」
「食べた」
「ええー、中毒するよ。これ飲んで」
コップに液体を注いで二人に渡す。
「これは?」
「愛人持ちおじさんのところで見た解毒薬が効きそうにないので作った解毒薬。おじさんの一級より効くよ」
二人はもちろん飲んだ。
「おじさんを呼んでこの肉はやめさせたほうがいいよ。明日の披露会に使われたら大変だよ。みんな中毒、死人が続出。おじさんは食べたかなあ」
「あれは丈夫で毒に当たったことがない」
「そっか。それじゃ別働隊が危ないな。もう食べたろうなあ。数が多いと液体だと面倒だな。ううんと、丸薬にしよう」
「はい、できた。肉を食べた人に一錠づつ飲ませてね。この肉の毒に特化した錠剤だから他には効かないけど」
瓶をおばさんに渡した冬、じゃあねーとマロンとドラと消えた。
「すぐ弟を呼んで」
侍女長が急いで出ていく。
「なんだ」
本部長が侍女長と戻ってきた。
「お前、この肉食べた?」
「ああ、あまり味が良くなかったな。においは臭いだった」
「腐っているってよ。死人がゾロゾロ出るそうだ。お前は大丈夫かもしれないが、別働隊で肉を食べた人に急いでこの丸薬を飲ませて。一錠でいいと言っていた」
誰が作ったとは聞かない本部長。
「わかった。俺には」
「余ったらね」
「ひでえ」
本部長は瓶を持って急いで出ていく。別働隊の大半は城門の外で野営だが、女王の護衛として宿にも宿泊している。その別働隊全員に一錠づつ飲ませる。すでに腹が痛くて横になっていた隊員もいた。吐き気もすると言っていた。危なかった。
余ったので自分も一錠飲む。症状はまったくないが。
「発症していなかった兵で女王の部屋を守ってくれ」
本部長に言われるまでもなくすぐ隊長が指示して副隊長が発症していなかった兵十数人を連れて女王の部屋に向かった。
それから宿の主人を呼び出した。超賓客である。すぐ本部長の部屋に来た。
あいさつを始めた。
「挨拶はいい。今日出された肉があるな。まだあるのか」
「はい、明日みなさんに出そうと思ってちゃんと取ってあります」
「今日の肉は傷んでいた」
「傷んでいるなんてとんでもない言いがかりです。料理人が精魂込めて仕込んだ肉です」
「お前食べたか」
「いえ、上物なので手をつけませんでした」
「食べてみろ。魔物の腐った肉だ。一時間しないうちに結果はわかる」
憤然と出て行った主人、厨房に向かった。
厨房には誰もいなかった。
「誰かいないか」
返事はない。
「どこに行ったんだ」
帳場に戻って従業員に料理人を探させた。
従業員が駆け戻ってくる。
「大変です。料理人がトイレで倒れています。亡くなっています。大量に吐いたようです。それからトイレが足りなくなったようで裏庭で倒れている料理人もいます。こちらも息がありません」
「本当だった・・・。今日の肉をお出ししたお客はわかるか」
「今日の宿泊者には全員お出ししたような、ないような」
「わからないのか」
「すみません。料理長任せですから」
「宿泊代の高いところから確認しろ。いい肉と思っていたから宿代が高いお客には出したかもしれない。今日の賓客関係はよい。もし食べてなかったらすぐ回収しろ。おかしかったらすぐ知らせろ。一刻を争う。みんな死んでしまう」
総動員で宿泊者の確認である。
上客で二組倒れていた。まだ息はあった。
急いで本部長の部屋に行く主人。ドアを開けてすぐ、
「申しわけありませんでした。料理人は死にました。皆さんは具合はいかがでしょうか」
主人は、治る薬はない、お客が食べてしまっては自分は死罪だと思った。
「薬を飲んだから大丈夫だ。肉を食べてまだ生きているなら薬をやるぞ」
「生きてはいますが、魔肉の食中毒で一時間もたたないで死ぬような強い毒に効く薬はありませんが」
「どこだ。案内しろ」
治るはずはないと思いながらも賓客の剣幕に押されて案内した。
案内された部屋では宿泊客三人が倒れていた。すでに意識はほとんどない。
「おい、水でも何でもいいからもってこい」
宿の従業員が水を持って戻ってきた。
「起こせ。水を口に入れて一度流せ」
言われたとおりにする従業員。
錠剤を喉の奥に押し込んだ。少しコップの水を男の口に流し込む。
「飲め、飲まないと死ぬ」
口を塞いで顔を上を向けたら飲み込んだ。
「お前、コップの水がなくなるまで飲ませろ。次」
次々と同じように飲ませる。
呼吸が回復してくる。
「効いた」
宿の主人と従業員は仰天である。
「これはあの肉の毒に特化したエリクサーだ。他にいるか」
「あと一組、四人です」
「行くぞ」
宿の主人が本部長を宿泊者の部屋に案内し、同様にして四人に薬を飲ませた。客は回復してくる。
「もういないな」
「はい」
「従業員の家族はどうだ」
「こんな高い肉ーーーあ」
宿の主人は必死に走り出す。
本部長もついていく。
主人は宿の裏の自宅らしい家に走り込んだ。
女性と子供二人が吐瀉物の中ですでに息絶えていた。
「く、薬、薬をください」
「無駄だ。すでに息はない」
「薬、薬」
「死んだ者は生き返らない。だから命は大切だ」
涙を流している主人を置いて、別働隊の隊長のところに行く本部長。
「俺たちは薬を飲んだから助かったが、料理人、宿の主人の家族が亡くなった。ただの食中毒と思うが、宿を引き払う」
「どこへ」
「姉上に相談してくる。すぐ出られるように準備をして玄関で待っていてくれ」
「承知しました」
本部長はすぐ女王の部屋に向かった。
女王の部屋は別働隊副隊長と兵十数人が守っていた。部屋に入る。
「姉上」
みるとすでに冒険者の出で立ちである。
「野宿する。宿を調べて食中毒以外何も出てこなければ明日の会場は天気が良ければ広場だ」
「野宿の場所は?」
「別働隊の野営地でよい」
「荷物は?」
見覚えのある袋を女王と侍女長が持っている。エカちゃんとおばさんと書いてある。おばさんの袋は似顔絵付きだ。それは見なかったことにした。
「すぐ出る」
「承知」
本部長と副隊長と兵が女王と侍女長を守り玄関に行くとすでに宿に宿泊していた別働隊が玄関前に整列して待っていた。さすが軍隊である。
「遅くにすまない。聞いたと思うがこの宿で中毒の死者が多数出た。街を出て別働隊の野営地に行って野宿だ」
「は」
女王の馬車が玄関先についている。別働隊の隊長の馬車だが。乗ってもらって本部長が御者になり松明を掲げた兵が前後を守り出発した。
連絡を受けた衛兵が多数宿に入った。
宿の主人はすでに自害していた。




