第82話 背後霊化をやめるように言ったはずだが?
「侍女長に代わりまして、私。エリアーナ・クレアラズが、仕えさせていただきます」
そう言って私に頭を下げているのは、新たにつけられた侍女です。
アリアは兄のハイヴェーラに、私と接触禁止を言い渡され、何処かに連れていかれてしまいました。
そしてアリアの代わりにきたのが、エリアーナという二十代半ばほどの女性です。
きっとこの方も別の組織に所属していたのでしょうね。
ちなみに昨日、別の侍女をつけると言われていましたが、何故かアリアがそのまま継続していたのです。
これは侍女長権限をつかったのでしょうか。
「エリアーナさんはここに配属される前はどこにいたのですか?」
「魔導師団ですね。主な研究は毒物です」
……恐ろしい人が侍女として側にいるようです。
「正確には尋問するために有用な毒の開発です」
これは遠回しに脅されています?
私の印象は、はっきり言って悪いと思います。
この屋敷の主にフェリランと名乗って近づく愚か者だと。
過去の人物が生まれ変わるということなど論外というべきもの。考えることもないでしょう。
主を誑かす害虫と思われているかもしれません。
このエリアーナさんではない、別の人に代わってもらうことはできませんか?
淹れられたお茶が怖くて飲めません。
「朝食の用意が整いましたので、ご案内させていただきます」
……朝食。食べて大丈夫なのですか?
私は解毒魔法とか使えませんよ。
そうです! 今日はドレスを着なければならないので、フルーツだけ食べるという手を使いましょう。
食べ過ぎるとドレスを着るときに吐きますからね。
あと二日間、頑張ればいいのです。
そう……二日です。二日ぐらい食べなくても生きていけますわ。
これ本当に罰になっていますよね。
だって、使用人の方々が普通ではないのです。
それとも鈍感力を身につければ、気にならないのかもしれませんが。
そして、私は新たにつけられた侍女のエリアーナさんの後をついていきます。
「マルトレディル様にお伺いしたいことがございます」
「なにでしょうか?」
この屋敷の主のレクスにタメ口を聞いて、足蹴にした自覚はあります。
どんな死に方が望みだとか聞かれたりするのでしょうか?
いったい何を聞かれるのでしょうか?
「あの、地下の住処から出てこない名前だけの魔導師団長を、どうやって穴蔵からだしたのでございましょうか?」
「は?」
「夫が副魔導師団長を務めているのですが、全く役に立たない魔導師団長をどうぶちめそうかと、あの手この手を使ってみるものの、ことごとく返り討ちに遭うのです。穴蔵から出せば勝機はあると申しているのですが、御教示を願いますでしょうか?」
……今、とんでもないことを色々言われましたよ?
これグレンバーレルのことを言っているのですよね?
確かに魔導師団長を何故しているのかと疑問に思いましたが、悪影響がかなり出ているではないですか。
「そうですね。取り敢えず、その夫という副魔導師団長という人はファングラン家に仕える人ですか?」
これは私の興味本位です。この話が本当だと魔導師団もファングラン家の手中に……。
「はい」
これは……ファングラン家に逆らうと消されるという噂は、本当のことなのかもしれません。
「その人はレクスより強いですか?」
「ファングラン公爵家の力を扱える旦那様のほうがお強いでしょう」
「それでは無理ですね。恐らくレクスでもグレンバーレルの魔法に対応できないでしょうから」
あの魔法馬鹿の魔法はかなりえげつないのです。
本人がやる気がないので、無害のようになっていますが、謎にスペックのいい魔剣を創り出すように、普通から逸脱しているのです。
戦うことを強要すれば、王都ぐらい簡単に落としてしまうでしょうね。
グレンバーレルと私の相性は最悪です。しかし、その実力は認めていました。
「それは私が、グレンバーレル魔導師団長より弱いと?」
すぐ背後からレクスの声が聞こえてきました。
だから! 声をかけるように言っているではないですか!
私は振り返って斜め上を睨みつけます。
「レクス。背後霊化はやめるように言ったはずだが?」
「おはようございます。隊長」
「背後霊化する前に言って欲しいものだ。あと、朝の挨拶はされたと思ったのだが?」
アリアが変な気遣いをして、私のベッドにレクスがいた件です。これは後ほどきっちりと話し合わなければなりません。
団長と従騎士の怪しい関係の噂がこれ以上広まらないようにです。
「隊長と暮らしているという幸せを噛みしめるために、何度も言ってもいいと思います」
「ただの謹慎中だからな」
私はこの屋敷で暮らせるとは思っていません。多分三日が限界だと思います。
「それよりも、私がグレンバーレル魔導師団長に負けるとは、やはり隊長はグレンバーレル魔導師団長のことが好きだと……」
「レクス! 気持ち悪いことを言うな」
私がグレンバーレルのことを好きだなんて、全身に鳥肌が立ってしまったではないですか。
それは絶対にないです!
(アリアエリス会長の報告会:23 years ago)
「定例会議を始めたいと思います。それでは『暁天の乙女の会』の会長様、挨拶をお願いします」
外から光が入らない薄暗い部屋の中に十数人の者たちが円卓を囲っている。
光を抑えた魔道灯の光に照らされた様子から、女性たちが集まっているようだ。
「皆様ごきげんよう」
その中、一人の女性が声を上げる。先程挨拶をするように言われた、会の会長なのだろう。
「「「「ごきげんよう」」」」
そして、紺色の髪を一つに丸めて姿勢がいい女性の挨拶に応える女性たち。これがいつもの光景なのだろう。
「まずは先日お亡くなりになられた『黒鴉のオフィレア様』の御冥福をお祈りし黙祷を捧げましょう」
恐らくとても大事な者が亡くなったようだ。静かに祈りを捧げている中、鼻水をすする音が聞こえてくる。
「我々は戦地で戦うことはありませんが、騎士様たちを推すことで、これからも陰ながら支えていくべきです」
何かおかしなことを言っていないだろうか。死者への哀悼の意を捧げる言葉というには思えない。
「なぜなら、我々の活動は、騎士様たちの力となるはずです。では、今月の報告会を始めましょう」
どの辺りが、戦地にいる騎士たちの力になるのか理解不能なのだが、ここに集まっている女性たちは一様に深く頷いていた。
「ではまずは、私からさせていただきます。今月の『暁天の乙女の会』の活動ですが……」
挨拶を頼まれた二十歳ぐらいの女性が、活動報告というものをしていく。
どうやら、これは各会の代表が集まった報告会のようだ。
だが、その内容がどうかと言えば……
「ここ一月ほどガレイア様は国境沿いに詰めておられまして、王都でのお姿を拝見することが叶いませんでした」
報告することなのだろうかという内容。だが、その言葉を聞いている女性たちは誰もが真剣に耳を傾けていた。
「ですが!情報部隊の情報網を使い、ありとあらゆる情報を得てきました。それを同士たちに共有!ですが、ここに来て今年騎士に叙任した騎士ヨシュレアが身をわきまえることもなく、ガレイア様につきまとっているという情報があり、これは許されざる行為です。ありとあらゆる手を使ってそのクソ女を……」
「アリアエリス様。私怨はご法度でございますわよ」
瞳孔が開きながら報告という名の怒りを口にしていた『暁天の乙女の会』の会長であるアリアエリスの言葉を止める者がいた。
「申し訳ありません。少し冷静さを失っておりました」
謝罪の言葉を口にするアリアエリスだが、少しという言葉が似つかわしくないほどの怒りが心頭という感じであった。
「その方が王都に戻ってきしだい、我が会に勧誘し同士として迎え入れたいと思っております。報告は以上です」
言葉では同士として迎え入れると口にしているが、その目には殺意がこもっていた。
「では次、『氷姫の会』の会長様。お願いいたします」
(今回はほんの少しですが、アリアの過去のお話でした。次回セレグアーゼ伯爵令嬢の報告…いつ書けるかわかりませんが)




