第77話 話の振り方を間違えました?
ものすごく強引な理由をつけられて、レクスの屋敷にやってきました。
何が謹慎なのでしょうね。
レクスは団長としてやることがあるでしょうと、騎士団に残したままです。
「お嬢様。おかえりなさいませ」
「エストさん。それおかしいです」
私は、騎士団の服装ではなく、私服で騎士団団長の屋敷の門の前に到着しました。そこにはレクスの侍従のエストさんが待ち構えていました。
それも嫌々ながら来たので、私はタバコを吸いながら歩いてきた不審者です。
「ふぅ〜。お嬢様扱いしないでください。あと、おかえりなさいではないです」
私は白煙を吐きながら言います。
団長の屋敷で謹慎ってなに? という不満感を出してです。
納得はしましたが、この状況が嫌なものは嫌です。
そう、使用人の方々がずらりと並んで待ち構える状況がです。
私は客人ではありませんよ。
「主から、従騎士殿を最上級対応で迎えるようにというご命令ですので」
「はぁ、マルトレディルと呼んでください。あと私は謹慎処分を受けているので倉庫でいいです」
「そういうわけにもいきませんので、こちらにどうぞ」
「はぁ〜」
私はため息を吐きながら、エストの後をついていきます。
思いっきり態度の悪い客です。
ここの使用人の方々からは悪い印象しかないでしょうから、今更いい子ちゃんぶっても仕方がないですからね。
「こちらです」
通された部屋は、私の部屋の倍ぐらいの広さがありました。それもゴテゴテもキラキラもしておらず、必要最低限の物しかないシンプルな部屋です。
良かったです。もしキラキラした部屋でしたら、キラキラした物を二階の窓から全部捨てていたかもしれません。
私は部屋の中央にある長椅子に座り、エストに声をかけます。
「王都周辺の地図は手にはいりますか?」
「ございますが、どういう用途でしょう?」
「今、問題が起こっていまして、その調査範囲を調べたいのです。特に水辺が書き込まれたものがいいです」
「かしこまりました。それから、御用がある場合は、そこに控えている者に声をかけてください」
……指し示された壁側を見ます。何かいるではないですか!
私、部屋に入っても全然気配に気が付きませんでした。
「侍女長を務めさせていただいております。アリアと申します」
髪を一つにまとめた女性が、私に向かって頭を下げてきました。
ふと、思い出しましたが、この方どこかで見た記憶があります。
どこででしょうか?
歳は五十ぐらいですかね? 紺色の髪に白髪が混じっています。
しかし、記憶の彼女はもっと若い姿です。
レクスの付き人はエストという記憶はあるので、彼女がレクスの付き人ということはないと思うのですが。
「アリアさん。よろしくお願いします」
まぁ、考えても思い出せないものは放置していいです。
エストは部屋を出ていき、アリアと二人っきりです。マルトレディル家では使用人はいるものの、私が侍女をつけなくていいと言っているので、こういう感じは慣れません。
というか人はいるのに、気配を全く感じないのが怖すぎます。視覚と感覚の不具合が起きているような感じです。
新しいタバコを取り出して、火をつけました。
すると、灰皿とお茶がテーブルの上に置かれます。
思いっきりビクッと肩が揺れてしまいました。
私からすれば、突然灰皿とお茶が湧いて出てきた感覚です。
使用人として気配を感じさせないというのは優秀なのでしょうが、常に周りの気配を警戒している私からすると怖いです。
「あの」
「はい、何でございましょうか」
私は視線を上げて、アリアを捉えます。
やはりどこかで見た顔です。
「セレグアーゼの部下か」
ふと記憶が繋がりました。特殊部隊の情報部隊で見た記憶があります。
「騎士セレグアーゼは工作部隊ですので、正確には違います。私は情報部隊に配属されておりました」
「とても有能な人材がこんなところに!」
なぜレクスのところで働いているのですか? こういう人材が今欲しいところです。
レクス、ここで侍女長をさせているなんて、もったいないです。
あ……でも、彼女の人生ですから、騎士を辞めたかったのかもしれません。
しかし、彼女の意見を聞いてみたいです。
「そこに座ってくれないですか」
私は目の前の長椅子を指し示します。しかし、アリアは首を横に振ります。
「私は使用人ですので、席につくことはありません」
「そうですか」
それはそうだと、私は立ち上がりました。
が、対等に話すには身長差がありますけどね。
「今、問題が起きていましてね」
「私のような外部の者に話すことはなりません」
「情報部隊にいたアリアの意見を聞きたいのです」
「意見でございますか?」
「『空言のメアドーラ』」
その名を出した瞬間に、存在感のないアリアが殺気立ちました。これは当たりです。
「ということで、『空言のメアドーラ』の存在を疑っているのです。潜伏しているとすれば、どこだと思いますか?」
すると、ギリリという歯ぎしりが聞こえてきました。
これは話の振り方を間違ってしまいましたか?
殺気をまといながら目に光が宿っていないです。
「ガレイア様を亡き者にしたゴブリン以下のクズが、まだこの世界で息をしていると」
あ、これはドラゴンの尻尾を踏んでしまったかもしれません。暁天のガレイアのファンだったのですかね?
彼も生前よくモテていましたからね。




