第74話 甘んじて受け入れましょう
「従騎士マルトレディル。三日間の謹慎を言い渡す」
戻って来た私は、団長であるレクスから謹慎を言い渡されました。
これは甘んじて受け入れましょう。
「引きこもり! ありがとうございます!」
私は敬礼をして、謹慎処分を了承しました。
「それでは魔導師団長から得た情報に関しては、対応をお願いいたします」
グレンバーレルからとんでもない情報を得たので、その精査は上層部にお任せしましょう。
そして、三日間の引きこもり生活をどうして過ごそうかと考えていると、レクスからとんでもないことを言われたのです。
「以前のこともそうですが、謹慎では全く反省することがないようですので、私の屋敷に三日間謹慎とさせていただきます」
「は?」
今、おかしなことを言いましたわよね?
レクスの屋敷で謹慎?
それって意味ありますか?
「宿舎の個室で駄目なら、マルトレディル伯爵家に戻りますが? 何なら、独房でもいいです」
「駄目です」
「団長。御自分が何をおっしゃったか理解しておられます? なぜに従騎士を屋敷に滞在させることが謹慎になるのでしょうか?」
そう、謹慎処分はいいのです。
それだけのことをしてしまったと自覚はあります。
何があったのか。それは……
「ちょっと待て、神出鬼没のラゼンの死体は深い谷底に落ちたから回収していないぞ」
グレンバーレルが烈火のアディフィールの名を出してきましたが、それよりも先に問題に上げるべきことがあります。
先日の野盗討伐で、ゼイエラの生き残りの子孫による痕跡だと解釈していましたが、神出鬼没のラゼンと全く同じ存在の仕業だった可能性が出てきたのです。
「あくまで、これは予想ですよ」
「いや、もう一つ懸念がある。『空言のメアドーラ』だ。あれはセレグアーゼが始末したはずだが……」
その死体の始末はどうしたのかは知りません。ですが、空言のメアドーラは標的の相手を操り、嘘の情報をばらまくという情報操作をしていたのです。
いわゆる精神操作です。
「今回のことも『空言のメアドーラ』の仕業と考えられないか?」
「それ誰です?」
「ちっ!」
魔法のことはすぐに記憶できるのに、人名となるとほとんど記憶しないという性質は何とかならないのでしょうかね。
「嘘の情報をばら撒かれて、暁天のガレイアが討ち死にした件だ。烈火のアディフィールと渡り合えるのは暁天だけだろうと言われていたヤツの死を与えた者だ」
「ああ、私が散々な目にあったやつですね」
「貴様は精神操作の解除をしていただけだろう」
「あれほど、単調でつまらない作業はありませんでした。やってもやっても終わらない日々」
「何を言っている。一日で終わらせたじゃないか」
「それまでのつまらない魔法の開発。あれこそ他の者がやるべきでしたね。はぁ、終わりましたので、戻ります」
いつの間にか目の前には魔導師団の塔がそびえ立っています。
私も後半は無意識で作業してしまっていました。
「グレンバーレル。この魔法陣の仕様を聞いていないのだが?」
急遽、裏切り者をあぶり出すということで、各部隊の建物の扉に魔法陣をしかけました。ですが、これがもし『空言のメアドーラ』の仕業となると、意味がないことだったかもしれません。
この魔法陣がどのようなものかは知りませんが。
「混じり者が通れば……あっ、使い魔が魔剣を見つけたそうです」
「魔剣!」
研究室から引きずり出すときに、グレンバーレルそっくりのメイドの使い魔に魔剣を探しておくように命じてもらいました。
主であるグレンバーレルにです。
私は期待を込めた目でグレンバーレルを見ました。すると、グレンバーレルは空間に手を入れて何かを取り出しています。
空間から出てきた物。それの姿を見た瞬間、私の思考が止まってしまいました。
「以前フェリランが言っていた、魔力増大型に対応して、風魔法の……」
「その前に聞きたいのだが?」
「何ですかね?」
「これはなんだ?」
「どう見ても魔剣ですよね?」
「どう見ても子どものおもちゃの剣じゃないか!」
グレンバーレルが持っているのは、両手を広げたぐらいの長さの木剣です。それも無骨なおもちゃの剣。
グレンバーレルが持つ木の剣を奪い取り、膝蹴りを入れて半分に折ります。
こんな物を魔剣とは認めません!
「それ、魔剣はすぐに壊れると言っていましたので、自動修復機能つきです」
「無駄に機能がいいのが腹が立つ!」
半分に折ったはずが、時間でも戻ったかのように元の状態に戻る木剣。
イラッとして、グレンバーレルに向かって木の剣を振るうと、刃先から風の刃が打ち放たれました。
え?私は何も魔力は込めていませんわよ。
風の刃はグレンバーレルに当たる直前で折れ曲がり、明後日の方向に飛んでいきます。
「なんだ?これ?」
そして斜め後方から響き渡る破壊音。
ええ、見なくてもわかります。騎士団本部の建物の一部が破壊されていることぐらい。
「凶悪過ぎるだろう? これを誰でも使えるなんて最悪じゃないか!」
「誰でもは使えませんよ。魔力が底なしの者ではないと……しかし、あれだけ魔法陣に魔力を注入して、それも使えるとなると、本当にフェリランと変わらない魔力量ということですね。ということは……」
途中からグレンバーレルがボソボソ言い出して、何を言っているのか聞き取れません。
どうやら、思考の海に沈んでしまったようです。
私はおもちゃの剣を見ます。こんな物はこの世にあっていいものではありません。
なので、思いっきり魔力を剣に入れ込みます。
こういうのは大抵、急激な魔力増加に弱いものなのです。
バキバキっと木剣にヒビが入り、木くずが地面にバラバラと落ちていきました。
「ははははは、グレンバーレル。次に作るときは木剣ではなく、金属の剣にして欲しいな」
「あ――――! フェリラン! 貴女という人は、私の傑作をどれだけ壊せば気が済むのですか!」
「貴様の作るものが、おかしいからに決まっているだろうが!」
こうして、魔導師団の塔の前で魔導師団長と騎士団団長の従騎士との、魔法での戦闘が始まったのです。
ええ、私は帯剣を許されていませんからね。
その後レクスがやってきて無言で私を連行するまで、戦いは続いたのでした。




