第71話 そんな不具合の塊は必要ありません!
「貴様ら! 私が言っていることがわかるか?」
凍りついた室内で私はタバコを吹かしながら言いいました。
その私の前に団長二人を床に座らせてだ。
「人がわかる言葉しか話していないぞ」
あまりにも二人の団長が自分勝手なことを言うので、両腕を振り上げて、私の腕を掴んだ二人を床に叩きつけたのでした。
そこに座れと言って。
「しかし……」
「しかしもカカシもあるか! グレンバーレル! 私は研究は後にしろと言っただろうが! 貴様は今から魔法陣の設置だ!」
私はタバコを持った右手で、開けっ放しの出入り口を指す。
「それからレクス! 今日の未処理が山のようにあるのが見えないのか! さっさと仕事をしろ!」
反対側の手でレクスの執務机の上にある書類の山を指す。
「さっさとやれ!」
私は右手の親指を立てて首の前で一線を引き、下に向けながら言う。
「うわぁ。どこの戦場に部下を送り出す気だ? マルトレディル」
「ラドベルト。覗き見しながら何を言っているのです? 戦場なんてどこにもありませんよ?」
「いや、どうみても嫌がる部下を戦場に行けと叩き出す隊長の姿だと。ここに残るならぶっ殺すぞと。あと寒くて入れねぇんだよ」
ラドベルトが近づいてきているのはわかっていました。独特の義足の足音が聞こえましたからね。
あと、そんなことを言って叩き出すのはダラニアールのおバカぐらいです。
始業開始の時間になってしまいましたので、仕方がないので凍らせた部屋を解呪しました。
「はぁ。で、ラドベルト。何のようだ?」
「いや、その前にグレンバーレルの団長までいるじゃないですか。また、無理難題を言ったのですか?」
ラドベルトは氷が溶けていく床をガン見しているグレンバーレルの横に膝をつきました。それも丁寧な言葉を使ってです。
こう見ると本当に動きにぎこちなさがありませんわね。
「前から言っているじゃないですか。隊長に頼み事をするなら、手土産が必要だと」
「ラドベルト。それは私が物に釣られる馬鹿みたいじゃないか」
物を渡されたからと言って、簡単に魔力装置になることはありません。
「そうですか。魔剣の試作品でも持ってくれば……」
「あ、そっちにいっちまったか。そうじゃなくて……」
……今、なんと言いました?
私はグレンバーレルの前に行って、視線を合わせるようにしゃがみ込みます。
「魔剣の試作品があるのか!」
「以前、作るように言ったのを忘れたのですか?」
「いや、断ってきたじゃないか」
フェリランのときに剣に魔力を保持できないのかと言ったことがあるのです。できないことはないのですが、金属の劣化が早まるので、実用化できなかったのです。
「食いついちまった……あ、ファングランの団長。今回の報告書です」
ラドベルトはここに来た目的を思い出したように、先ほどからピクリとも動かないレクスに近づいていきました。
それよりも、私が気になるのはこっちです!
「魔剣の試作品を使わせてくれるなら、魔力装置になって……」
「しなくていいです。隊長」
何故に、私はレクスに抱えられているのでしょうか?
あの? 従騎士を抱える団長ってないと思います。
「ちょっと待て、レクス! 魔剣だぞ! 魔剣! 世に出ている不具合の塊じゃないヤツだ」
私はレクスの腕から降りようとしましたが、がっしりと掴まれていて動けません。
「ラドベルト部隊長。どちらの味方か聞きたいのだが?」
「何言っているんですか? ファングランの団長」
ラドベルトの呆れた声が聞こえますが、私はそれどころではないのです! いい加減に離しなさい!
「発掘してきます」
「ちょっと待て! 発掘に消えたら一週間は引きこもりだろうが!」
グレンバーレルが床を凝視したまま、光の中に消えてしまいました。
あれは、絶対に別のことを考えていますよね。
私は斜め後ろを見上げます。
「レクス。離せ」
「隊長。魔剣なら私が買ってさしあげます」
「ちっ! そんな不具合の塊は必要ありません!」
「うっ!」
レクスの手が離れたので、ダッシュで執務室から飛び出ました。
流石に一週間も時間をかけられません!
今すぐにでも動いてくれないと、後々の工程に響いてきます。
私は騎士団本部を出て隣の敷地の塔に向かったのでした。
団長執務室side
「あー。ファングランの団長。隊長の魔剣関係に関わっちゃ駄目ですよ。隊長は変にこだわりがあるんで」
床にうなだれている騎士団団長に声をかけるラドベルト。
だが、レクスイヴェールは反応を見せない。
「はぁ、団長。フェリラン隊長の機嫌取りに物を渡すとしたら何ですかね?」
「ケーキや甘い物」
「それが正解なんですよ」
ラドベルトは呆れたように言う。
誰に呆れているのか、それは勿論ここにいるレクスイヴェールにではない。
「このパターン。喧嘩して周りに被害が及ぶので、早めに止めたほうがいいです。あとでハイラディ団長……あ、元団長に怒られるやつなんで」
これは魔剣に妥協できないフェリランと魔法に関して妥協できないグレンバーレルとの意見の相違により、争いが起こるのだろう。
「それから、団長。昨日渡されたコレ、カミさんから怒られたんですけど」
そう言って、ラドベルトは豪華な装飾がされた封筒を取り出した。
「これ明日じゃないですか。こんなの無理ですよ」
「それは私の意向ではない。そもそも同じように行動をしていたのだ。それを用意するのも、予定を組むのも無理だ」
レクスイヴェールは立ち上がりながら、横目で差し出された封筒を見ながら言う。それは騎士団団長としての意は入っていないと。
「はぁ、わかっているんですが、『あなたはいいよね。騎士の隊服を着ていればいいのだから』って嫌味言われたんですけど」
「元々あったところに、割り込ませたのだろう。奥方同伴でなくても、何も言われないと思うが……陛下が、わざわざねぎらいの言葉を言いたいということだ」
「うわぁ、それカミさん同伴じゃないとヤバいやつじゃないですか」
「いや、お忍びで来られるらしいから、構わないだろう」
レクスイヴェールはラドベルトと話しながら、腰に剣を差し部屋から出ていこうとしている。
それも殺気をまとってだ。
「団長。止めにいくんですよね? やり合っちゃ駄目ですよ」
ラドベルトがそう声をかけるも、レクスイヴェールは振り向きもせず、足早に執務室を出ていったのだった。




