第69話 キュンキュンしちゃうじゃない
「マルトレディルくーん!」
「うぐっ!」
翌朝、朝食をとって騎士団本部に出勤をしようとしたところで、メリッサさんの肉肉しい胸に捕獲されてしまいました。
あの? 私は出勤しなければならないのですが?
「昨日は教育中のメイドが迷惑をかけたようね。ごめんなさいね」
これ謝罪する態度なのですか? ただ単に肉肉しい胸に押し付けられているだけかと思います。
「態度を改めるように指導しても納得できないようなのよ。このままだと従騎士には成れないわよと言っているのだけどね」
貴族としてのプライドが邪魔をしているのでしょう。
そしてメリッサさんはとんでもないことを聞いてきました。
「それでマルトレディル君。魔導師団長ともできているって聞いたのだけど、それは団長を裏切るということかしら?」
「……何のことですか!」
え? もしかして宿舎中で、その噂が広まっているとかないですよね?
「私は仕事の話を魔導師団長としていたのです。このことは魔導師団長に確認してもらっても構いません!」
別のことも話はしましたが、グレンバーレルは魔道具を外に出したであろうという人物を教えてくれました。
そこに間違いはありません。
「口裏を合わせることぐらい可能よね? それで、マルトレディル君としてはどっちが好み」
それは口裏を合わせることは可能ですが、私の好みは全く関係ないですわよね?
「どこから好みの話になったのですか?」
「だって、昨日その話を聞いて、気になって気になって眠れなかったのよ。あの誰にでも厳しいファングラン団長がメロメロだし、決して塔から出てこない魔導師団長がマルトレディル君を待ち構えていたのでしょう? もう、キュンキュンしちゃうじゃない!」
凄くハイテンションで『キュンキュン』と言われても困ります。凄く勘違いされています。
あと、お肌はツヤッツヤですよ。
寝不足という感じには見受けられません。
「はぁ。今回訪問した要件で重要な証言をいただいただけです。それを今から団長に報告しなければなりませんので、私を解放していただきたいです」
「今のところ団長が優位と言うことね?」
「あの? 勝手に三角関係に仕立て上げないでください」
「だってお姉様公認の仲なのでしょう? おねーさん応援しているわ」
は? 姉公認の仲?
おっしゃっている意味を理解するのに数秒かかってしまいました。
「はっ! 待ってください! その設定はないですから!」
私が呼び止めるのも虚しく、メリッサさんは廊下を足早に去っていかれました。
何故に団長と弟がBとLであることを姉の私が認めている話になってしまったのですか!
こうして話が歪められて噂話になっていくのですね。
私はこの噂話を払拭するためにはどうすればいいのかと、頭を悩ませながら騎士団本部に向かったのでした。
「ということで、魔導師団長から過去に魔導師団にスパイがいた証言を得られました。そしてその件は前任の魔導師団長が追跡しているというので、内々に処理をしなければならない事案だったと推測されます」
私は出勤してきたレクスに昨日得た情報を報告しました。
前任者が退任したあと、どこでどう行動しても魔導師団の関わりにはならないことになります。
この案件は外部に漏れるとそうとう危険だという認識です。
以上のことを、席について仕事を始める前に、これは言っておかねばなりません。早めに対応すべき案件ですからね。
私は席につくレクスの正面に立っています。
ですが、報告が終わったというのに、何も反応を示さないレクス。
「先に騎士団内部でも調査を行うべきです。以前は身体調査という名目で魔導師団に協力要請を行いましたが、今回はどういたしましょうか?」
もし洗脳をされているのであれば、個人個人で調べなければわかりません。
そして同時にスパイかどうかの判定を下します。
ですが、どうやら穴あるようで、それを前回失敗したとグレンバーレルが言っていたのですよね。
それで騎士団団長として指示を出していただきたいですね。
「隊長」
「隊長呼びになってますよ」
「次のデートはいつがよろしいですか?」
「……何の話をしてるのですか? 団長?」
私はデートの話などこれっぽっちもしていませんよ。
「私がいない間に逢引していたということですよね?」
「違うわ! 言い忘れていたと、グレンバーレルが言いに来ただけだ!」
私はレクスの執務机の天板を両手でバンと叩いて、レクスの言葉を否定したのでした。




