第100話 私の隊長への想いは変わりません
魂が抜けかけている私は、会場の近くの個室までエリアーナさんに誘導されてきました。
どうしましょう。
私がレクスの婚約者に?
長椅子に腰掛け、タバコを取り出し一服します。白煙が上る天井を見上げて、どうしたらいいのか考えて……。
ん? ちょっと待ってください。
冷静になって考えると、おかしなことになっています。
レクスは私をアルバートと思っているはずです。使用人たちから、私が女だとレクスに言っている様子がないのです。
「エリアーナさん」
「何でございましょう」
「使用人の方々は、レクスに私の正体を報告していないように思われるのですが、なぜでしょう?」
普通であれば、主であるレクスに報告するはずです。
アルバートが実はシエラメリーナなのだと。
「それは、エスト様のご指示です。冷静になって物事を見ればわかることを、熱に浮かされて盲目になっているとは、なんと愚かしいと」
あ、レクスへの教育ですか。
相変わらずエストはフェリランのことには厳しいようです。
主を無能にする邪魔者だと。
「しかし、旦那様のあの感じでは……」
エリアーナさんが言葉を止めて、扉の方に視線を向けました。
扉がノックされ、エストの声でレクスが来たことを報告されます。
「どうぞ」
私は入室の許可を出します。
どうやらエストが扉の前にいたので、レクスも立ち止まったところでしょう。
「シエラメリーナ! 陛下から婚約の許可をもらってきました!」
嬉しそうに報告するレクス。
私は床を蹴り飛び上がりながら、レクスに向って蹴りを繰り出します。
もちろん私の足には凶器が装着されたままです。
「もらってきて、どうするのですか!」
ですが、横に避けられ、レクスの手が出てきたのでそれをかわそうとしましたが、ドレスの布に邪魔をされます。
動きにくいですわ。
「恋は盲目といいますが、こうも我が主の目を曇らせるとは、本当に邪魔でしかありませんね」
エストの冷たい視線が飛んできます。
私が悪いように言わないでください。
私は従騎士としか接して……まぁ、偉そうにいうこともありますが、この状況は望んでいません。
って、またしてもレクスに抱えられています。
「もちろん、隊長と結婚するためです」
「はぁ〜」
きっぱりと言うレクスに、ため息がこぼれ出ます。隊長呼びになっていますし、私は結婚の話はそもそもしていないといいましたのに。
「ファングラン団長様」
「……レクスと呼んで欲しいです」
「はぁ、私は誰ですか?」
「隊長です」
これ駄目ですわ。私の前世はフェリランで合っていますし、私がシエラメリーナというので何も問題はないのですが、現状では大問題なのです。
「団長の従騎士は誰ですか?」
「隊長です」
「……エスト。私では無理です」
凄くにこやかに私を隊長と呼ぶレクスは、国王陛下から婚約許可をもらったことで頭がいっぱいのようです。
「何をご心配されているのかわかりませんが、安心してください。隊長も隊長の姉上も私が幸せ……に?」
自分で言って何かおかしいことに気がついたようです。
瞳をオロオロさせて何か考えているようです。
「取り敢えず父に許可をもらってください。話はそれからです」
「はい……」
全て父に押し付けましょう。言い出したのは父なのです。その責任はとっていただきたいものですわ。
しかし、どう転んでも私がレクスに嫁ぐことは避けられないようです。
あのジークフリート殿下! 昔から一言多くて人の癪に障ることも平気で話すのは、二十年経っても治らなかったのですか!
あ。国王陛下ですね。
「しかし、私の隊長への想いは変わりません」
ちょっと近いですわ。それから下ろして欲しいです。
「隊長が王太子の婚約者になるなど、耐えられません。それならば、私の婚約者にと思ったことが口に出てしまいました。すみません」
「言ってしまったことを取り消すことはできません。それもあのような国王陛下がいらっしゃる場で、口にしたことをなかったことにはできません」
「はい、軽率でした」
レクス自身が悪かったと、理解できたのでしたら、私はもうこれ以上は問い詰めません。
あと、手紙でこのことを伝えれば、父から『いいよ』と、返されそうなので、直接レクスから言ってもらうことにしましょう。
「父が王都に到着してから、直接このことをファングラン団長から言ってください」
「……レクスと呼んでいただけないほど、お怒りに……」
今はシエラメリーナですからね。どこに耳や目があるかわかりません。
ただでさえ、私はファングラン公爵家の使用人の方々の気配を掴めないのですから。
「そうですか。やはり、隊長に血を流させたコーネリアヘルデラ・ファングランと、隊長に恥をかかそうとしていたメアトリーゼアリス・ファングランを始末するべきだと」
「どうして、そうなるのですか!」
私は彼女たちに対して全く怒っていませんわ!
どちらかというと、ジークフリート陛下にイラッとしました。
「隊長に血を流させた報いは受けるべきと、私が判断したからです」
「我が主が直接始末されなくとも、それであれば我々のほうで処理をいたします。ご命令を」
レクスを盲目と言っていたエストが、スッと頭を下げて従者の姿を取りました。
今のファングラン公爵家に不満があるのでしょうが、本家の令嬢に手を出すのは駄目だと思いますわ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
100話もお付き合いいただき感謝です。
いつもであれば、100話ごとのおまけ話を追加するのですが、今回は101話の同時投稿とさせていただきます。
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まだまだ物語は続きますので、よろしくお願いいたします。
第1巻の発売が約一ヶ月後となっておりますが、そちらもよろしくお願いいたしますm(__)m




