#03ー02の後 おまけ小話
————————————————————————————————————————————————
その後の小話
夕暮れどきのチャイナタウンは、魅惑の香りに包まれていた。
空腹を誘惑するのは、料理だけではない。
ノースはその中でも、特に艶っぽい笑顔の屋台の姉ちゃんに吸い寄せられるように歩き出す。
「おねーちゃん、肉まん。めっちゃうまそうじゃん」
下品なニヤつきと一緒に席に着くと、山田がため息まじりに後ろへ続く。
例のチンピラ男ジョシュ・モンもついてきたが、ノースの隣に座るか山田の隣に座るかを散々迷った末、
最終的に山田の隣にストンと座った。
「何がうまいの?おすすめある? おねーちゃん以外でさ」
ノースの軽口に、姉ちゃんは柔らかく微笑み、無言でメニューを指す。
「……あんたら、よく食えますね……」
ペットボトルの水を握りしめながら、ジョシュがぽつりとつぶやいた。
「……“あんなこと”があったのに……」
「楽しかったなぁ。
でもよぉ、調理場も燃やしておけばよかったんじゃねぇの?」
ノースが椅子にもたれかかりながら笑う。
「今の手持ちでは、ちょっと燃えないかなと思いまして」
山田は淡々と答え、メニューに視線を落とす。
そこへ、“屋台の姉ちゃん”が次々と料理を運んできた。
いつの間にかノースが、ほぼ全部のメニューを注文していたようだ。
「へへへ、ちょっといってこようかなぁ、このあと」
姉ちゃんにさりげなく肩を撫でられてニヤけるノースを、
山田の鋭い蹴りが止める。
「調子に乗るな」
「……はいはい、女王様怖っ」
そのやりとりの横で、“屋台の姉ちゃん”が無言でテーブルを拭いていた。
ジョシュは、水をちびちび飲みながら目をそらす。
ふと、山田がネクタイをゆっくりほどく。
「……邪魔なので」
とだけ呟いて、丁寧にネクタイを外すと、シャツの第一ボタンを外し、
そのままネクタイを膝にかけるように置いた。
ふとした拍子に胸元が開き、汗ばんだ肌と、うっすら浮かぶ筋肉のラインが覗く。
箸を持った手が少し迎え舌気味に麺を啜り、熱で火照った頬に汗がつたう。
その姿にノースが一言。
「……なぁ、お前さ、マジで誰意識でそうなんの?」
山田は意味が分からないという顔で首を傾げる。
「……は?何言ってるんですか」
ジョシュは思わず水を噴きそうになり、ノースも一瞬言葉を失ってからニヤリと笑う。
「お前さあ……そっちが誘ってるって言われても文句言えねぇぞ?」
「は?」
ジョシュが震える声でツッコミを入れる。
「なんか……俺、今とんでもない空間に座ってる気がするんですけど……!?」
ノースはふっと肩をすくめ、からかうように笑う。
「おい、山田。ネクタイ持っててやろうか?喰いにくいだろ」
「触んな」
——夜の屋台に、いろんな意味で熱い空気が立ち込めていた。