#04ー01 俺とあいつとトカゲのしっぽ
※ここは、世界征服を”業務”として行う会社の物語です。
初めての方は、入社手続き(#00)からどうぞ!
本日は、快晴。
絶好の銀行強盗日和。
最中、山田は部下に的確に指示を飛ばし、ノースが楽しそうに火薬をセット中。
そのとき。
——ドォンッ!!!!
強烈な爆発音が響き、ビルの前に停めてあった車が吹き飛んだ。
爆風と煙が一瞬の静寂を引き裂き、紙吹雪のように白い半透明の紙片が空を舞う。
山田は思わず振り返った。
「……っ!!」
普段の冷静な表情が歪み、珍しく驚愕の色が浮かぶ。
爆風でめくれたコートの裾を押さえながら、空中に舞う一枚を手に取る。
筆文字で、真紅の文字が書かれていた。
血債血償
「……これは——中国語……?」
ノースが小走りで駆け寄ってきて、紙を覗き込みながら言う。
「うわー、出た。
“血の借りは血で返せ”ってやつ?……うっわぁ、中華マフィア、超本気じゃん」
山田は手の中の紙片をじっと見つめながら、ゆっくりと表情を戻していく。
「……油断は禁物ですね。あの“肉屋”、ただの中間じゃなかった」
悪の組織 作戦会議室
広い無機質な会議室。
中央の重厚な椅子に座ったジョカ様は笑みを浮かべたまま、指先でカップを揺らす。
「ふふふ……やられたね、二人とも。
トカゲにしっぽだけ斬ったつもりが、逆に噛みつかれた。」
総務くんが淡々と資料をめくる。
「“赤蜥蜴”は現在、リトル上海の臓器売買と誘拐を仕切っている組織です。
精肉店も調理場も、奴らの管轄でした。」
山田は目を伏せたまま、静かに言う。
「……判断が甘かったですね。あの段階で“本体”まで追うべきでした」
ノースは椅子にもたれかかったまま、ぼそっと呟く。
「……あの車、乗ってたのは新人のガキでさ……
コーヒーの入れ方クソ下手だったけど、根性だけはあったんだよ」
視線は合わせず、どこか遠くを見るようにして。
「火ぃ点けられたのは、俺たちのミスだ。
……しっぽだけで逃がしてりゃ、そりゃ本体も吠えるわな」
ジョカ様はふっと笑ってカップを置く。
「なら、次は“頭”を踏み潰す番だね。
……赤蜥蜴の心臓を、この手で握り潰しておいで」
総務くんは、資料をたたみ顔を上げる。
「精肉店や調理場を潰したことは、効果的でしたが。
その分警戒されているでしょう。」
山田は静かに立ち上がる。
「今度は逃がしません」
ノースも口角をゆるめながら、ゆっくりと立つ。
「炭にしてやるよ、トカゲの巣ごと」
会議室を出たノースは、人が居そうな場所をきょろきょろと見渡しながら歩きまわっていた。
そしてようやく見つけたひょろっとした男。
あの中華街で一緒に”おつかい”したチンピラ男である。
彼は、あの後(株)悪の組織に入社したのである。
バンッとジョシュの背中を叩いた。
「よぉ!!ジョジュ、次のおつかい行くぞぉ!」
「は、はあぁぁあっ!?」
あまりの声量とテンションに、ジョシュがのけぞって倒れそうになる。
「いやいやいやいや、ちょっと待て!俺、まだ心の準備が……!」
「いらねぇよそんなもん!てかお前ギャングだったんだろ?
銃くらい使えるんじゃねぇの!」
「いや……まぁ……一応……でも当たんないし……」
「じゃあショットガンな!!構えてバン!で任務完了!はい天才!」
ノースは笑いながら、ジョシュと強引に肩を組みながら引きずっていった
向かった先は―――――
装備室 。
壁一面にズラリと並んだ銃器の数々。
ガラスケースには、ナイフやスタンガン、その他
ありとあらゆる武器がずらりと並ぶ。
引き出しには、各種マガジンがぎっしりと詰まっていた。
「待って待ってマジで無理!!
……俺、今日オフのはずだったよね!?オフだよね!?」
その横で山田がスッと現れ、ため息混じりに一言。
「……そう言ってた彼、前回も死にかけてましたよね。3回くらい。」
「い~のい~の!こいつ死なねぇから!たぶん能力“ギリ生存”とかそんなん!」
「そんなライトノベルの主人公みたいな設定あるわけ……」
ジョシュはぐずぐず文句を言いながらも、結局その場から逃げられなかった。
準備エリアの壁際で、山田が静かにジャケットを脱いだので
ジョシュは、ぎょっとした。
その下から現れたシャツ越しの体つきは、無駄のない線で引き締まり、
隠しようのない“鍛錬”の証を滲ませていた。
彼は無言でショルダータイプのホルスターを肩にかけ、前でストラップをカチリと留める。
チェストストラップが胸の下に走るたび、そのラインに沿って、自然と盛り上がった胸筋が浮き立った。
それを見たノースが、いつもの軽口で口を開く。
「まじでお前、着痩せするタイプよな~」
山田はちらと視線を向けるだけで、特に反応を返さない。
「自分では、よく分かりません」
「めっちゃ乗ってんじゃん。肩こらないの?」
ノースがニヤつきながら顎をしゃくると、山田は小さく首を傾げて言う。
「? 銃を保持するための、必要な装備です」
「いやホルスターじゃなくて。胸筋が、必要以上に主張してんじゃんって話~」
言いながら、ノースは自分の胸を指で突きながら笑う。
「……うるさい、駄犬」
鋭い声を返しつつも、山田の耳の端がわずかに赤く染まっているのをノースはしっかりと見ていた。
「へいへい、そっちが見せてきたんじゃ~ん。俺様、見たまま言っただけぇ~」
――――――そのやり取りを聞いていたジョシュは、
そっと距離をとりながら、心の中でつぶやく。
(…何を見せられているんだ俺は)
装備を整えた三人は、地下駐車場に降りてきた。
そこに佇んでいたのは、小ぶりなジムニー。
だが、そのボディには傷ひとつない。
“ヘレン”——ノースが偏愛する、ちょっと無骨で頑丈な子だ。
「……今日はステルスで行くぞ、お嬢ちゃん」
ノースが撫でるようにボンネットに手を置き、ぽつりと呟いた。
キーをひねると、エンジンは驚くほど静かに目を覚ます。
そのまま音もなく、影のように滑り出すジムニー。
「防弾。強化タイヤ。……そして無駄に愛着。」
山田が助手席で一言。
後部座席で、ジョシュがガチガチに緊張している。
「なんで車に話しかけてんすか!?なんなんすかこの出撃……!」
「黙って乗ってろ、今から“狩り”に行くんだよ」
ノースは笑いながら、ハンドルをきった。
ジムニー“ヘレン”の中。
静まり返った街を抜ける途中、助手席の山田がタブレットを見ながら、淡々と口を開く。
「これから向かうのは、赤蜥蜴の中枢…
やつらの ”心臓部” です。」
「うっ……めちゃやばそうなんだけど……」
後部座席のジョシュがショットガンを膝に抱えたまま固まっている。
山田はちらりと後ろを振り返り、
「大丈夫です。
あなたの役目は、サポートです。
……荷物持ちに専念してください」
「サ、サポートって……
いや、でも、俺自身が荷物ってことになってません!?」
「違います。
あなたは、“撃たれない範囲”で“素早くリロード”して“隠れる”。
それが最も期待されています」
「うわー、地味に重圧ぅ……」
そのやりとりの横で、運転席のノースは口笛を吹いてご機嫌。
「なぁ山田~、そこってヤバい連中いんの?
それとも爆弾だけで終わる?」
「爆弾使用の予定はありません。
ですが、警備は強化されているでしょうね。
赤蜥蜴のボスも金もそこにあるようですから。」
「うっし、なら強行突破の構えで。
了解~。俺様、全部壊してこ~。」
「……作戦を無視する気満々ですね」
「おぉ、俺の中の作戦は“突っ込んで暴れて帰る”が基本だからなァ!」
ジョシュが震えながら小声でつぶやく。
「……ほんとなんで俺これ乗ったんだろ……これ社用車?棺桶じゃないよね?」
ノースはそのままアクセルを踏み込み、前を見据える。
「ついたら即突入な。
ジョシュ、ビビってもいいけど、弾とマガジンはちゃんと持てよ!」
「ビビる前提かよ!」
山田が静かに一言、締める。
「では、任務開始です。」




