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#09ー01 風の日のヒーロー




【ホープライン近郊・風の強い日】


――空は澄み渡り、気持ちのいい風が吹いていた。


『私の名前は、ウェザリー


㈱正義の味方のナンバーナイン ヒーロー


風を味方につけるパイロット女子です!』



「うんうん、いい風です!


今日はパトロール日和ですねぇ!」


『天気良好。

向かい風ややきつめ。

私にとって最高の環境です!』



ウェザリーは、紙飛行機を一枚、ふわっと放り投げる。

それはぐんぐんと、ビルの間を滑るように飛んでいく。



「よ~し!今日も正義の力でみんなを守りますよぉ!」




風に乗ってふわりと舞い上がると街並みが一望できる。

平和な光景を確認――

遠くの通りから響き渡る悲鳴に緊張感が走る。



「ぎゃああああああああ!!!!」


「うおおおお逃げろォォォ!!!」



市民らしき男二人が全力疾走で逃げている。

しかも後ろからスーツ姿の謎の男が、

無表情で銃を持って追いかけている。




ウェザリーの出番とばかりに張り切る。


「市民が追われてます!!

これは……絶対に、正義の出番ですぅ!!」


風を操り、一気に急降下。



「くっそひつこいな!あいつ!!麻酔銃まで出してきやがった。」

「ひぃいいガチじゃないですか?!あれ絶対日頃の恨みとかもはいってますよ!!

ノースさんまじで行い改めた方がいいっすよ!!!つかなんで俺まで?!」

ジョシュもノースも顔面蒼白で街中を走りながら叫んでいる。

珍しくノースも危機感と緊張感の中にいるようで半ば道に迷いかけていた。

「あの女王様まくしか…。」

「俺たち今どこっすか…?」

ジョシュもいまの位置を把握していない様子できょろきょろとあたりを見回す。


「往生際が悪いですね。」

スッと音もなく現れた山田は、無表情だ。

乱れのないスーツ、汗すらかいていない。

その手に銃さえなければ、ただのエリートサラリーマンにしか見えない。


しかし今――


その手には“本物の麻酔銃”が、確かに握られていた。

ノースの頬を一筋の汗が伝った。

「ひ、ひでぇ……涼しい顔して、やってること狩人じゃねぇか……!」

その隣では、ジョシュがもう涙を止める気すらない様子で叫んでいた。

「ノースさん!!俺たちどうすればいいんすかぁぁぁ!!」

「とにかく逃げんだよバカァァァァァァ!!!」

猛ダッシュする二人の叫び声が、街中に響き渡る。

「うわああああ!!!」

追うのは、乱れひとつないスーツ姿の男――山田。

眼鏡の奥で静かに目を細め、麻酔銃の引き金に指をかけた、その瞬間だった。

風を切って、何かが空から降ってきた。


バサァッ!!


颯爽と着地したのは、一人の女性――

凛々しい表情を浮かべ、ヒーローらしいポーズで堂々と立ちはだかる。

「正義の風に乗って登場!ナンバーナインヒーロー、ウェザリーですぅ!!」

その場にいた全員が、あまりの唐突さに硬直する。

ノースは、訝しむようににらみをきかせた。

「……誰だてめぇ」

「ノースさん、助けてくれるかもっす……!!」

能天気なジョシュだけが、期待に満ちた声を上げる。

ウェザリーは眩しい笑顔を浮かべ、ヒーロースマイル(と本人は思っている)で二人を見下ろした。

「大丈夫ですか?!市民のみなさん!!」

ノースとジョシュは、一瞬固まったあと、同時に心の中で絶叫する。

「違ぇぇぇ!!俺たち市民じゃねぇ!!!」

そんな中、静かに背後から山田が現れる。

「……医療従事者です。」

無表情のまま、淡々とそう告げた。

ウェザリーは一瞬、ぽかんとしたあと――


「なるほど………」


間を置いて、大きな声を張り上げた。


「って、そんなわけないじゃないですかぁぁぁ!!!

医療従事者が街中で銃持って患者追い回さないでしょぉぉぉぉ!!」

風にあおられながら、ウェザリーの困惑の声が街に響いた。


「納得したほうが……あなたのためですよ。」




山田が静かに、反対の手をジャケットの背に回す。


その隙間から、一瞬――本物の銃が、チラリと光った。




麻酔銃ではない。


明らかに、実弾用だ。




ウェザリーの表情がわずかに引き締まる。

だが、山田はすぐに手を下ろした。


――その手に、銃はなかった。


どうやら、本気で交戦する気はないらしい。

「とはいえ、今はその二人を確保するのが最優先です。

ご協力いただけると、助かります。」

涼しい声で、山田はそう告げる。

しかし、ウェザリーは――ぐっと拳を握りしめた。

「でもっ……!

一般市民を守るのが、ヒーローの務めですぅぅぅ!!!」

強風にぐらつきながらも、叫ぶ彼女。


山田は、ため息ひとつ。

「あなたには、人間に見えているのでしょうが――」


冷たい声で告げた。


「……彼らはれっきとした、獣です。」


その瞬間。

ノースが顔を引きつらせた。

「ちょっとぉぉぉぉ!!

ノースさんはまだしも、俺も!?俺も獣なの!?!?」

ジョシュ、地味に傷つく。

「違ぇよ!!夜だけだよ!!!」

ジョシュの絶叫がこだまする。

「どうでもいい情報言うなぁぁぁぁぁ!!!」

ウェザリーもパニック状態だ。

「えぇぇぇぇ〜〜〜獣?!えええなにそれ?!?!?わかんないよぉぉ!!?」

山田のよくわからない言い訳にただただ混乱する状況は、

ヒーローの一撃でさらに混沌となる。

「もうわかんないよぉぉぉ!!

ペーパーエアプレインストーム、発射ぁぁぁぁぁ!!!」


バサバサバサバサッ!!


強風に乗った大量の紙飛行機が、

ノースたちをめがけて空を切り裂くように飛んでくる。

山田は、ただの紙だろうと軽く身を引いた瞬間。


スッ――。


腕を通り過ぎた紙飛行機が、

彼のスーツの袖に、細い切れ目を作った。

「これ、マキナオプスくんが開発してくれた特製ペーパーなんですぅ!!

すっごくよく飛ぶし、すっごく切れるんですぅ!!」

ノースもジョシュも予想外のことに顔を覆い、手を大きく振りながら払う。


「いってぇぇぇぇぇ!!!

ただの紙飛行機じゃねぇぇぇぇぇ!!!」

「めっちゃ痛い!!

容赦ない!!こわすぎぃぃぃぃぃ!」

ノースもいつものマチェーテもなし

ジョシュも当然丸腰だ。

――――――――もう、これは、頼るしかない。

ノースもジョシュも、ちらりと

無表情で紙飛行機をいなし続ける山田に視線を向けた。


「ミゲル~…」

「や…山田さぁん。」



その時だった。


「悪党に告ぐ!!!」

場違いなほど元気な声が、紙飛行機地獄に響いた。


「君たちの行い!

全部ブーメランだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ド派手にバク転しながら登場したのは―――――


赤と黒のビキニパンツ姿

そして異様なドヤ顔


ナンバーテン ヒーロー

ブーメラン!


「よけいなのがふえたぁぁぁぁぁぁ。」


「あぁぁぁまたヒーローがきちゃったぁぁぁ」

ノースとジョシュの絶叫がまた響くなか山田だけは、ずっと冷静だった。


「わぁーブーメランさん!!

ダブル攻撃ですね!!」

ウェザリーが純粋な笑顔で叫ぶ。

その笑顔は、どこか勝ち誇ったような顔だ。


「yes!

俺の筋肉反射で!紙飛行機の威力は、倍だ!!!」


「やっちゃって下さーーーい!!」


ウェザリーの声援にブーメランは、勢いをつけて紙飛行機をその腹に受ける。


バチィィィィィィィィィン!!!


跳ね返された紙飛行機たちは―――――


四方八方に飛び散った。


それは、敵も、味方も、関係なく。


「ぎゃぁっぁ!!勢い増してんじゃん!!」

「ぎゃぁぁぁ?!?!?!」

ノースの背中にザクっと刺さる紙飛行機。

ジョシュの髪がパラパラと散っている。

そんな中

山田は、ゴミ箱のふたを手に取り

勢いよく飛ぶ飛行機を静かに受け止めた。


「えぇぇぇぇぇぇ!?!?ちょっとぉぉぉ!!!

ブーメランさぁぁぁん!?!?」

「こっちも飛んできてるんですけどぉ!?

いたいっ?!」

風に乗りながら、ウェザリーも必死で自分の紙飛行機から逃げ回っていた。

が、数枚は容赦なく肌をかすめる。


ヒラッ、ピシィッ!



「いたぁぁぁぁっ!!」

ウェザリーも風に乗りながら自身の飛行機から逃げているが

かすかに紙飛行機が肌をかすめる。

「安心してください!!いてっ

コントロールしてます!!」

「できてませんよ!!!!いったい」

ブーメランも、勢いを増した紙飛行機が腹に深々と突き刺さっていた。


誰ひとりとして正気ではいられない中、

山田は片手で、のたうち回るジョシュに麻酔銃を構えた。


パンッ。


乾いた音とともに弾丸が放たれた――が、

その銃口は、紙飛行機に軽く押されてわずかにずれる。

銃弾は狙っていたジョシュを外れ、

まっすぐノースの脚へと吸い込まれた。


「がぁっ?! マジか!!」

ノースが悲鳴を上げ、脚を抱えてのけぞる。

薬が回ったのか、彼の身体はぐらりと揺れた。

「そこでギリギリ発動すんのかよ……!」

悪態をつきながら、ノースはふらついた拍子に

横にいたジョシュの首をぐいっと締め上げた。

ジョシュは目を白黒させながら必死にもがく。

「ぎぃぃぃ!! ノースさん!? なんで俺、絞められてるんすかぁぁぁ!!?」

だが、その力は、普段のノースに比べれば明らかに弱かった。

山田はため息をひとつ漏らすと、

無表情のままもう一発、麻酔銃をジョシュの足に向けて引き金を引く。

再び、パンッと鋭い音が響いた。

今度こそ正確に命中した弾は、

ジョシュのふくらはぎに吸い込まれるように突き刺さった。

ジョシュは呻き声を漏らすと、がくりと膝をつき、

そのまま意識を手放して地面に倒れ込んだ。

ジョシュを庇うように、まだ朦朧としながら立ち続けるノース。

山田は無言で近づき、手早く二人を捕らえた。


紙飛行機の嵐はまだ止まない。


ビュウッ、ビュウッ、と

風に乗った刃が飛び交う中、

山田は持っていたゴミ箱を構え、

飛来する紙飛行機を完璧に受け止めながら、

あくまで冷静に、すべてを処理していく。


ぐったりと力を失ったノースは、ふらりと揺れながら、

ぼそりと呟いた。

「……さすが、ミゲル……」

それを聞いた山田は、少しだけ口角を上げた。

「あなたもさすがですね。

――馬も眠る麻酔なんですが。」

そう告げると、

再び無表情に戻って、ノースとジョシュをずるずると引きずり始めた。

まるで、落ち葉でも片付けるかのように。

正義も悪も、もはや区別がつかない。

そんな中で、ただ一人、冷徹に役目を果たしていく。

それが、株式会社悪の組織の参謀――山田だった。


ブーメランとウェザリーは、

紙飛行機を数枚突き刺したまま、場の中央に立ち尽くしていた。

荒れ狂った風は、

いつの間にかすっかり止んでいる。

ふわりと降り立ったウェザリーは、

ぐったりした様子で地面に足をつけると、ぼそりと呟いた。


「なんか……疲れました……。」


隣で、

腹に紙飛行機を刺したままドヤ顔を崩さないブーメランも、

やがて小さく答えた。



「安心してください。俺も……。」



静かになった街に、

二人のかすれた声だけが、ぽつりと響いた。


――END――



【株式会社 悪の組織・医務室】




 




ひんやりとした空気の中、


白いベッドに並べて寝かされた二人の男。




ひとりは、服をボロボロにされたまま脱力して眠るジョシュ。


もうひとりは、意識をうっすらと保ったままうわ言を漏らすノースだった。




 




「……へぇ……なんか……手ぇ、握られてんじゃん……」




ノースは夢の中で、誰かに手を取られている感覚を味わっていた。


その表情は、珍しくほんの少しだけ――うれしそうだった。




 




(ふわふわの指先……ああ、


絶対これ、可愛いおねーちゃんだわ……)


(……ヒールで踏まれてぇ……)




 




現実では、


その手を無言で押さえつけていたのは山田であり、


理由はただ一つ、「逃げられると面倒だから」でしかない。




 




隣では、完全に眠ったジョシュに


ドクター・グレースがさっさと注射を打っていた。




 




「寝てるなら話が早いわね。」




 




次に視線を向けたノースに対しても、


グレースは慣れた手つきで注射器を構える。




 




「じゃあ……この隙に、もう一人もね。」




 




ぷすりと刺さった注射に、ノースの体が一瞬ぴくりと跳ねる。




 




「……いって……でも、いい……」




何が「いい」のかは本人にもわかっていない。




 




「はい、おしまい。」




カルテを閉じ、グレースはさっさと退出していく。




 




誰もいなくなった医務室。




静かになった空間に、


ジョシュの寝息と、ノースのうわ言だけが、ぽつりと残っていた。




 




「……やべぇ……


なんか、めちゃくちゃ癒されてる気がする……」



だらしなく緩んだ笑みのまま、


ノースもようやく静かに眠りに落ちた。



――END。


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