#08-04
激しい風を巻き起こし、
黒いヘリは夜空へと消えていく。
スターヴォイドは、その姿を睨みつけながら、
屋上に立ち尽くしていた。
手のひらに揺れていたブラックホールが、
音もなく、すっと消えていく。
「……逃げられちゃった」
軽快な足音が、背後から近づいてくる。
だが、彼女は振り返らずに呟いた。
その背中には、戦いの熱と――
消えきらない興奮が残っている。
「株悪の双翼ね。さすがだったわ。……あと一人、誰か知らないけど」
「そうね。中々、厄介よね」
落ち着いた声が返る。
スタイン刑事は、拳銃をホルスターに戻しながら、
そのまま隣に立った。
そのとき。
スターヴォイドは、手をあげて、
ゆっくりとマスクを少しだけずらした。
真っすぐに、スタイン刑事の方を向く。
「……怪我は?」
声のトーンが、さっきまでとはまるで違っていた。
硬さが抜け、どこか優しさを帯びている。
スタイン刑事は少しだけ驚いたように目を見開いたあと、
ふっと笑った。
「大丈夫よ。……まったく、過保護ね。ふふ」
ふたりの間に、静かな風が流れる。
ヒーローでも、刑事でもない。
ただ、モナとグロリア。
その二人だけの時間が、そこにあった。
【同時刻・警察署内 応接室】
散らかった書類、倒れた備品、白煙の名残。
まだ喧騒の残るエントランスとは別の場所――
警察署の一角、応接室。
鏡の前に座るラブリータが、
お決まりのキラキラした声で言った。
「もぉ~っ!!せっかく、らぶたんの1日署長イベントだったのにぃ!!」
手にしたマスカラをぶんぶん振りながら、
ふてくされたように頬をふくらませる。
「台無しぃ……っ。メディアも中継も……もう、最悪……っ」
ふぅ、とわざとらしく深呼吸して鏡に向き直ると、
そこには作り笑顔を張り付けた、自分の顔。
その瞳の奥で、
ほんの一瞬だけ――ギラッと光が走った。
(……あいつら、マジ許さんし)
唇の端が、微かに吊り上がる。
「らぶたんに恥かかせたら……どうなるか、教えてあげるからね~?」
鏡の自分にウィンクして、
再び笑顔をつくる。




