#04ー5 嵐のその後にヒーローは、静かに献花する。
【現場:元・ウェンルーのオフィス】
——ガシャンッ。
扉が自動で開くと同時に、細く鋭い機械音が床を駆けた。
「……どうやら、もう“片付いた後”か」
フルフェイスのマスクに、無骨な機械アーム。
その姿は“ヒーロー”というより、どこか整備技師のようだった。
――(株)正義の味方 正社員ヒーロー
マキナ・オプスは、静かに歩を進める。
床には、砕けた鏡と血痕。
天井には崩れたシャンデリアの残骸。
破片が床一面に散らばるなか、彼の両足はわずかに地面から浮かび、
浮遊ブーツからはかすかに機械音が鳴っていた。
「ナンバースリー。さすが早いご到着ですね」
情報端末を片手に、一人の女性刑事が現れる。
ダークブラウンの髪をお団子状にまとめた、鋭い眼差しの女——スタイン刑事。
彼女は無言でカシャ、と現場を撮り続けながら言う。
「最近の誘拐事件、臓器の密売……きな臭い噂だらけのこの会社。
やっぱりビンゴでしたね」
「警察も、ようやく介入できて良かったですね。スタイン刑事」
マキナ・オプスはそう返しながら、床を滑るように移動し、
ひときわ大きな破片の前で静かに止まった。
それは、割れたマジックミラーの一部。
その奥には、血の跡と、焦げた金属片が転がっていた。
「僕たちも、全部が分かってるわけじゃありません。
たまたま、“何かを終わらせようとした誰か”がいただけです」
「……株式会社 悪、ですか」
スタイン刑事は端末を下ろし、マキナ・オプスのマスクを見上げた。
その目には、探るような色が浮かんでいた。
「……ただの悪党同士の抗争だったのかも、と思ったんですが」
その瞬間、ギアのマスク越しの視線が、まっすぐ彼女を捉える。
“そうだ”という圧。言葉はなかったが、それだけで十分だった。
スタイン刑事は一拍おいて、再び写真を撮り始める。
「……スタイン刑事! こちらに来てください!」
別の捜査官の声が飛ぶ。
彼女はギアに軽く一礼してから、呼ばれた方へと歩き出した。
その背に向けて、ギアが静かに声をかける。
「スタイン刑事。もし、生存者がいたら……お願いします」
返事はない。ただ、足音だけが遠ざかっていった。
ギアはひとつ息を吐くと、背面に格納されていたモジュールが音を立てて開いた。
——カシャン、ガキン。
音と同時に、鋼鉄のアームが四本、タコの足のように滑らかに展開される。
その一本一本がまるで意思を持っているかのように空を撫で、
制御コードに従って、自律的にバランスを取る。
金属製の関節は幾重にも重なり、
先端は鉤爪にも、指先にも変化可能な多機能構造。
ただの補助アームではない——“戦闘にも対応可能な機構”だった。
が、今はただ静かに、優しく、遺体のそばに降りていく。
一本のアームが器用にシーツを持ち上げ、
もう一本が静かに遺体の上に広げる。
まるで生きているかのような動きで、布の角を微調整しながら被せていく。
その様子は異様でありながら、どこか敬意に満ちていた。
“敵であっても、死者は死者”。
マキナ・オプスの無言の哲学が、機械の腕に宿っていた。




