表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

チュートリアル1

 扉を抜けると、鬱蒼とした森の中に辿り着いた。その草木は、霞がかかっているように見え、幻想的な雰囲気を感じさせてくれる。


 近くにあった、10メートル以上はありそうな巨木に手を触れようととすると、その手は触れることなく、真っ直ぐすり抜けた。


「ふふふ…えいっ」


 そんな俺の首筋に、ひんやりとした棒状の何かが触れた。びっくりして思わず「どわぁ!?」と間抜けな声を出しながら、体が地面に倒れた。


 顔を上げるとそこには、ピンクのボブショートに、色っぽさを感じさせる艶やかな唇が特徴的な美少女が、嘲笑うようにこちらを見下ろしていた。


 普段の生活では見慣れない、赤紫色のローブを羽織っており、非日常的な世界へやってきたんだという実感を掻き立ててくれる。


「こんにちは。私、ベント様の異世界案内を任じられております、サヨカと申します。今後ともよろしくお願いします」


 予想外に礼儀正しかった彼女の態度に、ついこちらも立ち上がり、軽くお辞儀をしてしまう。


「はぁ〜、やっぱこういう堅苦しい口調って疲れるわね〜。あ、今からはこういう軽い口調でいくからよろしくね〜」


 お辞儀をして損した。先ほどの恭しい態度は仮のもので、これが彼女の本性のようだ。


「ここは異世界に実際に存在している、森の一部をコピーしたバーチャルスペースよ。ま、不完全なコピーなんだけどね。所詮チュートリアルで使うためだけの部屋だからこれでもいいかなって」


 すり抜けたりしたのは、不完全なコピーだからということだろうか。


「で、チュートリアルよね?どうする?リセマラ中なら飛ばしてもらって構わないけど?」


「いや、初めてだから。リセマラとかしてないから。むしろやってもいいのか?」


 やっていいものなら、強い魔法を引き当てるまで何度でもやるが。まぁ、俺の場合はリセマラとか必要ないわけだが。現に、生前は無数のゲームに手をつけていたが、一度もやったことはない。


「いいわけないじゃない。でもチュートリアルは別に飛ばしてもいいのよ?」


「あんたが面倒くさいだけだろ。やるから」


 原作のAAはプレイしているが、あくまで原作であって、今回の『SCORE7×7』とは勝手が違うだろう。


「仕方ないわね…。それじゃあ順を追って説明していくわよ。まず、手引に書いてあるような基本的なものは飛ばしていくとして…」


 サヨカは露骨な溜息を織り交ぜながら説明を始めた。


 まずは移動手段について。


 原作ではキャラクターにスタミナが設定されており、待合スペース(町の内部など)以外の場所に出歩くときは、スタミナが消費されていく。それが0になると、アイテムを使って一気に回復させるか、時間経過で徐々にスタミナが戻っていくのを待つしかなくなる。


 が、このゲームではスタミナについての設定はされておらず、スタミナはプレイヤーの実際の体力に委ねられることとなる。


 次に装備。


 最初は全員が、木で形作られた一本の剣と、布でできた服・ズボンを装備している。装備は宝箱から入手できる可能性があるほか、装備屋に行けばお金を払って購入することもできる。


 お金には『ゴールド』という単位が用意されており、入手方法としては、宝箱から得る、ギルドから受理したミッションをクリアするなどがある。


 最後に、先ほどインストールされたアプリ『異世界ツール』について。


 全部で5つのページがあり、それぞれが異世界で暮らしていく上で大切なものとなっている。


 1ページ目は、地図・現在地の詳細である。現在はERRORと表示されている。また、魔物との戦闘中に使えば、その魔物の名前やレベルも確認することができるようだ。


 2ページ目がステータス。レベル・能力値・所持している魔法が表示されている。



 ベント:LV.1

 HP 24/24      

 MP 15/15   

 攻 14

 防 10

 早 11



 レベルは1で、ステータスは低く、特筆すべき部分はない。


 3ページ目が、現在獲得しているSCOREと、ミッションの一覧。ミッションは、眩暈を起こしてしまいそうになるほどの量があり、さらに随時追加もされていくらしい。


 4ページ目はヘルプだ。ゲームの手引もここから見直すことができる。説明が及んでいないところもあるだろうから、暇があれば読んでおいてほしいと言われた。


 最後の5ページ目。ガチャを回す上で必要なページらしいが、詳細はチュートリアルの最後、ガチャを回す時に説明するらしい。


 そんなに頻繁に使っていたら、途中でバッテリーが切れるのではないかと心配になって質問してみたが、バッテリーには特別な措置を施すので、途中で切れる心配はないらしい。いちいち充電をする必要さえないそうだ。


「と、こんなところね」


 サヨカは一仕事終えたというように息を吐き、カンペとなっていたと思われる紙を乱雑に地面に叩きつけ、自身も地面に座り込んだ。高そうなローブが汚れてしまうんじゃ…と一瞬心配になったが、そういえばバーチャルスペースだった、と安心した。


 正直なところ、俺も疲れた。思い返せば、車に轢かれてからずっと、一方的に説明を聞いているのみだ。サヨカの話の間も、何度か集中力が切れていたと思う。ヘルプを見れば聞き逃した部分はなんとかなるんだろうがを


「さて、それじゃあ実践よ」


 その『実践』という言葉に、俺の心臓は少し跳ねた。


 サヨカが、何かに合図するように腕を振り上げる。すると森の奥から、丸い形をした小さい水色の何かが飛び出してきた。


 スライムか。RPGにおいて、一番弱い、最も基本的な敵キャラとなることが多い。AAにおいても例外ではなく、序盤のダンジョンに登場することが多い、雑魚キャラクターだ。こちらがLV.1であっても余裕で倒すことができるため、序盤でのレベル上げには欠かせないキャラクターだ。


「それじゃあ、貴方にはこいつの相手をしてもらうわ」


 気づけば俺の右手には、木で作られた剣が握られていた。いや、剣というより棍棒といった方が正しいかもしれない。形としては剣に見えるものの、刃の部分の削りが甘く、指を刃に強く押し付けても、血すら出る気配はない。これでは切るというより叩くといった感じになりそうだ。初期装備にクオリティを求める方が間違いか。


 しかし相手は最弱魔物・スライムだ。しかも、異世界ツールの1ページ目を使って確認したみたところ、そのレベルは1であった。こいつ相手なら、こんな剣でも十分なのかもしれない。


「じゃ、私は寝てるから終わったら起こしてね」


 そう言って、サヨカは横になって、腕を枕にしながら眠り始めた。


 嫌な予感がしていた。これってつまり『寝るほどの余裕があるくらい時間がかかる勝負になる』っていうことじゃ….。


 とにかくやるしかないだろう。


 俺は不器用に剣を構えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ