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magi code - 俺だけが読める魔法文 -  作者: あまた せい
1章 始まりの街、ルクス編

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深い森の洞窟②2026

 洞窟の中はより一層空気が悪くなっていた。魔法の素人でも澱んでいることがわかる。換気されていない喫煙所のような感じだ。


「これが瘴気ってやつなのか……? いるだけで気分が悪くなるな」


「魔力溜まりというのは良くないものを引き寄せるのです……だから気分が悪くなるのも当然なのです。……それにしてもこの瘴気の濃さ。ここで一体何が……?」

 アイラはぴくぴくと猫耳を動かしながら警戒しながら歩いていく。

 良くないもの……想像したくもない。

 足場は思った以上に歩きやすかった。自然にできた洞窟には不自然すぎるほどに。

「わからないのです……それにしても、この洞窟……何か変じゃないです?」

 アイラの言うことはもっともだった。


「確かに。綺麗すぎるな。足場も整えられてるし、まるで人が入れるように作られているかのようだ」


「こんな森の奥にですか?」


「そうだな、おかしな話……か?」


「そうですよ……こんな洞窟に通う理由なんて普通ないはずなのです」


「普通……ね」

 普通じゃない理由があれば話は別だが……考えたくもなかった。歩きやすい洞窟内をどんどん奥に進んでいくと瘴気はどんどん濃くなって行く。しばらく歩くと、人が倒れているのが見えた。急いで駆け寄ってみると、紋章の入ったローブのような服を着ているのがわかった。

「おい! 大丈夫か!」

 声をかけてみるが返事はない。


「この人が着ているローブに書かれた紋章……魔法教会の者である印なのです……」

 アイラは眉間に皺を寄せて倒れた人を見つめる。


「魔法教会の人がなんだってこんなところで倒れているんだ?」


「それはわからないです……」


「どうする?」

 俺は倒れた人の脈を手首で取ってみた。弱いが鼓動を感じる。生きてはいるようだ。助けに一旦戻るべきか迷っていると、黒いもふもふから声が聞こえる。


「……進め……! ……そいつは大丈夫だ……それにそいつは……関わらないほうがいい」

 どうやらサラの声のようだ。黒いもふもふは通信機のようにも使えるらしい。


「どういうことだ?」


「……魔法教会が関わっているなら……これはヤバイ案件だ……わざわざ顔を見られてやる必要はあるまい……」


「なるほどな……」

 サラの言い分は筋が通っているし、その通りにしたほうがいいかもしれない。しかし……。


「お師匠様がいうなら大丈夫そうなのです。先に進みましょう」

 アイラはそういうが妄信的すぎやしないか?

 サラは自分の興味のためになら興味のない人間ぐらいなら切り捨てそうだぞ?俺が疑いの目で見ているのに気づいたのか、アイラは言い訳のように説明する。

「お師匠様は医学にも詳しいしお優しい方なのです!! 心配しなくてもこの人を見捨てたりしないのですよ!!」

 熱弁だ。


「医学にも詳しいってすごいな。伊達に長く生きてないんだな」


「そうです! 伊達に長く生きてないのです!!」

 俺につられてアイラは選ぶ言葉を間違えた。


「あ」


「あ」


「……お前ら……帰ってきたら……罰を与えるからな……」

 黒もふから無慈悲なお知らせ。アイラは口を滑らしただけなのに、かわいそう。俺は確信犯だが。


「そんなことをしてる場合じゃなかった。行こう」


「そうですね、奥に進むのです」


 俺たちは姿勢を改めた。

 ふざけてる場合ではない。この異常なまでの瘴気の原因を突き止めなければならない。洞窟の奥には扉があった。明らかに人工のものである。


「これは……扉……だよな?」

 俺は警戒しながらそれを指差す。


「なのです」

 アイラは俺の隣で一緒にそれを眺めた。 見るからに重そうな暗い色の金属。人工の扉、となると作ったのは魔法教会か。扉には大きく魔法陣が描かれている。


「なんだ? これ。どうやって開けるんだ?」


「わからないですけど……そのまま魔力を注ぐ、とかじゃないですよね?」


「……その通りだ……よくわかったな……」

 黒もふから再び通信が入る。なんだ、サラはなんでも知ってるのか?

「……なんでもは知らないさ……この魔法陣を読んだだけだ」

 また心を読まれた。そんなに顔に出やすいのか俺は。

 とか考えたらこれもまた読まれていそうだが。


「魔法陣を読む……?」

 俺は復唱する。読むとはどう言うことなのだろう。


「……ああ……詳しいことは帰ってきたら教えてやるが……魔法陣は読めるんだ……あ……アイラはダメだ

ぞ……」


「な、なんでなのです!? この男は良くて私はなんでダメなのです?」


「……お前魔法教会に追われたいのか……?」


「ぐ……」

 アイラは渋々納得した。いや俺は魔法教会に追われていい前提で話が進んでいる気がするのだが。大丈夫なのだろうか?


「とにかく! 魔力を注げばいいんだな!」

 俺は黒モフを通してサラに問いかける。


「……ああ……ただしおそらく相当な魔力を必要とする……魔法教会でも相当な実力のものしか開けれないようになっているようだ……」

 次々と恐ろしい情報がわかっていく。ということはこの先には魔法教会の相当な実力者しか見れない何かがある。しかもその実力者も深手をおうほどの脅威が存在するというのだ。これは……覚悟が必要だ。


「ラン!」


「ええっ!?」

 俺は情けない声を上げる。

 アイラは早速魔法陣を作動してしまったようだ。覚悟決めてからはいろうと思ってたのに……。


「……気を引き締めろ……画面越しでも相当な魔力を感じる……おそらくそうとうな脅威だ……」

 サラが相当な脅威というと相当な気がする。

 気を引き締め直し、俺たちは中に入った。中は床はすり鉢状、天井はドーム状の空間になっていて、その中央にはドロドロに溶けているように見える何かがいた。


「プープー!!!」

 後ろについてきていたプニタローが声を上げる。


「なんだ!? あれ!?」俺は眉間に皺を寄せて叫ぶ。


「ギガプニリン……だった何か……かもしれないのです」

 アイラは静かに言った。


「ギガプニリン!? あのドロドロしたのがか? プニリンって名前が付いてることからしてプニリンの親戚か何かか!?」

 俺は臭気に思わず手で口を塞ぐ。


「いえ、本来はギガプニリンはプニタローのようなプニリンが巨大化した姿をしているのです。そしてプニリンとは違い、頭に王冠のような形状の棘があるのです」

 アイラは魔物の頭を指した。


「王冠のような棘?」

 距離があるが、確かにドロドロの何かの頭には棘と思われる部分があった。


「本当だ」


「プープー!!!」

 さっきからプニタローが必死に声を荒らげている。そしてドロドロの何かの方にぴょんぴょんと近づいていく。


「おい! プニタロー! 迂闊に近づくな! どうしたんだ!?」

 引き止めに近づこうとすると、アイラに引き止められた。


「もしかしたらあのギガプニリン……元はプニタローの親だったのかもしれないのです。プニリンは成長するとギガプニリンになるものなので……」


「あいつ成長したらあんなにでかくなるもんなのかよ……。それより……、親……?だからあんなに騒いでいたのか……?」

 俺は困惑の中、様子を見守ることしかできない。

 しかし、あの状態でプニタローを認識できるのか……?


「ブォォォォォォォォォ!!!」

 プニタローが近づくとギガプニリンだったものは大きく叫び、プニタローを弾き飛ばした。プニタローは壁にぶつかって動かなくなってしまった。


「プニリン……。くそっ。やっぱり……あいつ、もう普通の魔物じゃないみたいだな」


「そうなのです……どうやらあれが瘴気の原因のようですが……あの姿は……」

 アイラは鼻の前を手で仰いだ。臭気も強い。

 魔法教会が何かしてたのは間違いないが、一体何があったのか。


「ふむ……あれは……もしや……」

 そのとき、サラからの通信が入った。


「何かわかるか? サラ!」


「……いや……まだわからん……だが一つだけわかることがある……この瘴気溜まりを解消するにはあいつを倒すしかない」


「そんな!? プニタローの親かもしれないのですよ!?」

 アイラはいつのまにかプニタローの味方になっているようだ。


「……あんなドロドロの姿になって……子だともわからず殴られて……もはや親と言えるかは疑問だぞ……」

 サラの言うことは正しいかもしれない。でも理屈ではそうでも割り切れるものなのだろうか。特に魔物に於いては人間と同じように考えていいのかもわからない。


「元に戻す方法はないのか?」


「……わからんが……どうせ今を逃すとおそらくそこに入り込むチャンス自体がいつ来るかわからん……しかも……街の方にも使い魔を出したのだが……どうやら魔法教会はそこの実験を失敗とみなしたようだ……倒さなければ……処分されるだけだろうさ……魔法教会の人材の圧倒的な損失を出してな……」

 そんなことができるならアイラに調査頼まなくても良かったじゃんと言うツッコミは置いておいて、それならやれることは一つしかなさそうだという現実を受け入れる。


「倒すしかないのか……」

 言葉にすると重く感じる。いや、あんな化け物倒せるの?

 しかし、どうせ俺らがやらないと被害が増えるだけだ。倒すまでに何人犠牲になるのかわからない。


「そのようなのです……」

 アイラも魔法陣を構えて戦う気のようだが、魔法教会が手こずるような相手に勝てるものなのか……?


 黒モフからサラの声が聞こえる。

「……勝てるかは正直賭けだな……ここまでのものがいるとは予想してなかった……別に逃げても構わんぞ……これはさすがにいずれ魔法教会が処理する……何が行われているのかはわからないままだが……」


 迷いが生まれる。

 濃厚な死の匂い。

 どうする……また逃げるのか……俺は。

 強いものには逆らわない。

 逃げて逃げて逃げて。

 それでここまで流れてきた。

 生きる意味を見失って、この世界にたどり着いて、やり直すチャンスが来た。

 ……もう逃げてたまるか。


「やる。戦おう」

 俺は蚊の鳴く様な声を絞り出した。

 自分が戦う意味があるのかはわからない。

 それでもなぜか、ここで逃げたらダメだと本能が告げている。


「アキヤマさん……。はい。やりましょう」

 アイラもあっさり同意してくれた。いや君は勇気すごいね。


「よく言った! ……まずはあいつの攻撃の仕方を探るぞ……近づいて攻撃……逃げるを繰り返して攻撃のパターンを見極めろ……」

 サラの指示は昔やっていたゲームのボスの攻略法と一緒だった。


「やっぱこういうのは王道があるのか」

 ゲームの時は攻略サイトを見れば弱点がわかった。そこまで真剣にやり込んだこともなかった。少し、ゲームにさえ情熱を注いでこなかったことを後悔する。しかし後悔するのはあとだ。

 命がけの戦いが今、始まる。


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