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magi code  作者: 城宮 斜塔
1章 始まりの街、ルクス編
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サラ先生の魔法講座②

 アイラが帰って家の中にはサラと俺の二人だけになった。


「さて。それじゃ、とりあえず……晩飯の準備しよっか」

 サラに言われてから気づいたが、もう日が暮れかけていた。初めて教わる魔法というものに集中していて時間が経つのを忘れていたようだ。


「ちょっと裏口から出て薪をとってきてくれないか? なぁに。山積みしてあるのを取ってくるだけさ」

 サラに言われた通り、裏口から出て薪を探す。言っていた通り裏口から出てすぐのところに薪が山積みになっていた。積んである薪を何本か拾い、部屋に戻った。すると驚くことに裏口から外に出てから時間もほとんど立っていないのに、さっきとは全く部屋の様子が違っている。机は移動しテーブルクロスが敷かれ、ろうそくに日が灯っていた。


 サラはというと座ったまま、何やら指を動かしている。その動きと連携して部屋の模様が変わっていく。どうやらサラの魔法で支度をしたらしい。


「あの。薪、どうすればいい?」


「暖炉にくべてくれ」


 言われた通りに暖炉に薪を並べると、サラは指をパチンとならした。直後、暖炉に火が灯った。

 万能じゃん。てか詠唱とか何やらの話は?? そんな疑問が浮かんでいるのを分かったのか。


「自動化だよ。あとで説明してあげるから。とりあえずちょっと待ってな」

 サラはそう言うと指を巧みに動かし、その動きと同調して包丁がリズムを刻んだ。


「いちいち指を動かさないといけないのが不便なんだけどねぇ」


 ウルセェ。ニートか。普通に料理する方がしんどいだろ。と内心で思う。やはり指を動かしているだけなだけあって、料理はあっという間に出来上がった。サラは一歩も動くことなく料理をテーブルに並べた。気づかなかったけど、複数の品を同時並行で進めていたのか。一歩も動かず。


「さぁ、たんとお食べ?」

 サラがニヤリと笑う。幼女にも関わらず、『魔女』と呼ぶにふさわしい艶美さがあった。


「い、いただきます」

 口をつけてみると、見た目だけでなく味も見事だった。

「うまい!」


 正直な感想を述べるとサラは今度は幼い感じの満面の笑みで答える。

「それは良かった!」


 こうしてみると300歳以上の魔女という感じはしないのだが……。


 料理はどれもしっかりと仕込まれていて、しっかり下準備からされているようだ。面倒くさそうにしている割にそういうところはちゃんとしているのか。


「ん、今失礼なことを考えなかったかい?」


 図星。


「い、いやそんなことはない」


 心でも読めるのか? と思いながらそう否定した。


「ふむ。まぁいい。それでは本題に入ろう。君をわざわざ一人残したのは他でもない。君に色々聞きたいこと、話したいことがあったからだ」


「魔法講座は切り上げたのに?」


「それはアイラがいたからさ。アイラは魔力の量も魔法のセンスもある。わざわざ道を違えさせる必要はない」


「それってつまり俺は道を違えさせようってつもりなんですかねぇ!?」


「おっと口が滑ってしまった。忘れてくれ」


「忘れられるかぁ!?」

 俺のツッコミを受けてサラは再び笑みを浮かべた。


「うん。まぁ話を進めようか」


 よくないんだが、話の先が聞きたかったので黙る。


「ふむ。では、まず魔法教会が定める三大禁忌について教えようか。魔女に魔法を教わってはならない。魔法教会が認めた魔法陣しか使ってはならない。魔法教会が定めた魔導士(ストレーガ)魔道士のランクに応じた魔法しか使ってはならない。全くどれもこれも自己中心的なものだよ。魔法教会はストレーガを管理していないと気が済まないのさ」


 話をまとめると、魔法使いは魔導士(ストレーガ)魔道士って呼ぶ、魔法教会は一番偉いってとこか?


「君が脳内でバカなまとめをしてそうな感じがしたけど続けるよ? 魔女に魔法を教わってはならないっていうのが一つだけ魔法教会と関係ないように思えるよね? それはなぜか。はいアキヤマくん答えて」


 突然講義形式に戻ったようだ。頭悪いわけじゃないし……。


「えっと……魔法教会がいい顔したいから?」


「半分正解だね。魔法教会が魔女より偉いということを示したい、というのがまず一つ。もう一つは、魔法陣について勉強されるのを防ぎたいということがあげられるね。魔法教会はおそらく魔法陣のことについてそこまでの知識を持っていない。それはあのお粗末な魔法陣を見ればわかる」

 サラは腕を組み歩きながら説明する。手振りなどもはさみ、まるで本当の講師のようだ。


「魔法陣にお粗末とかあるのか?」

 思わず途中で口を挟んでしまった。


「ああ。魔法教会のお墨付きの魔法陣は全部魔法が発動するのに必要な魔力よりはるかに多くの魔力を必要とするようになっている。明らかな欠陥品だ」


「そんなものなんでみんな使ってるんだ?」

 俺の問いにサラはため息をつきながら答える。


「魔法教会の命令だから。魔法教会は世界中の国の生活を豊かにしている。みんな魔法教会には逆らえないんだよ」

 サラはやれやれといったジェスチャーをして言った。


「そんな……」


 どこの世界でも上には逆らえない。従うしかないってのか。言いようのない悲しみが押しよせてくる。ここに来る前の世界ではそれが原因で気を病んだっていうのに、せっかく違う世界に来ても結局同じじゃないか。そんなことを考えた。


「おそらくもう一つの狙いは魔法を誰もが使えないようにしたいってのもあるだろう。相当の魔力量の持ち主じゃないと魔法が使えないようにしている、とも考えられるね。ま、これは憶測だが」


「魔法教会って嫌な感じ」


「はは、嫌な感じ、か。確かにな。でも町のものは魔法陣がそんな仕組みだとはつゆ知らずに生活を豊かにしてくれる魔法教会様と崇めているのさ。滑稽だろう? あ、ちなみにこの話は間違っても町でするなよ。死にたくなければな」


 さらっと恐ろしいことを言う。あ、これもダジャレじゃないよ。


「サラっと怖いこと言うな」


 口に出てた。しかもいかにもダジャレって感じで。


「ふむ。まぁでも真実だ。気をつけたまえ。あと君、私200歳以上くらい年上だよ? 本当に分かってる?」


 今地味にサバ読んだなこの人。


「ごめんなさい。それで、なんでそんな話を俺に?」


 この世界の裏側みたいなものをわざわざ初対面の俺に教える理由はなんなのか。下手をすると身に危険が迫る類の話なのに。


「ふむ、それは、君がこの世界の住人ではないからだ」


 思わず体がビクッとしてしまう。


「その反応、やっぱり本当なのか……?」


「な、何をおっしゃいます〜」


 図星を突かれたことで思わず口調が変わってしまう。


「だいたいこの【世界】だとか、世間のことを知らなさすぎたりとか不審な点が多すぎるんだよ」


 ……あ。言われてみれば。口を滑らしていたようだ。


「でも、それなら腑に落ちる。魔法という概念を知らないことも、言葉さえ知らないことも」


「……ばれちゃいました?」


 結局この人に隠しきれるとも思わなかったので俺は正直に打ち明けてみることにした。……それから、これまでの経緯をサラに説明した。突然この世界に飛んできてから今に至るまでのことを。


「なるほど、なるほど。面白い。本当に面白いなアキヤマくん。だが、そんな君だからこそ魔法教会のことを話したんだよ。君はこの世界のしきたりに縛られる必要はない」

 サラは片手で顔を覆い、笑みを隠そうとしているが、指の隙間から見える彼女の顔はこれまでにないほどニヤついていた。


「でも、もし本当にそうじゃなかったら魔法教会のことを話してしまってよかったのか?」


「いや、その時は……アキヤマくんが困るだけじゃないか。大丈夫だ」


 全然大丈夫じゃないんですが。この人、自分の興味でしか動かない上に無責任すぎやしませんかねぇ。そんなサラはというと相変わらず俺をみながらニヤニヤしている。


「ふふ、面白いものを見つけてしまった。よし! 君には魔法を陣から教えてやろう。どうやら君、魔法用語に聞き覚えがあるようだしね?」


「なんで、そのことも……」


「だって単語を聞いた時、瞳孔が動いていたよ? 動揺している印じゃないか」

 サラは当然のような顔をしてそう言ったが、普通喋っている時人の瞳孔まで見ないだろ。伊達に長生きしてないようだ。


「教えてくれるなら、ありがたい。でも俺の魔力の出力は弱いんじゃないのか?」


 ケツの(以下略)


「そうだね? ケツの穴が……ぷ」

 サラは笑いを噛み殺し、涙まで出していた。この人はいつまで同じネタで笑えるのだろうか。

「しかし、大丈夫。魔女の魔法は魔力変換効率が段違いでいい上に、発動までに必要な魔力も少ない。魔法教会なんかの魔法陣とは違うのだよ。ほれ、この魔法陣なんかどうかな?危ない魔法じゃないからちょっとここで使ってみな。使い方は魔法教会の魔法陣と一緒さ」


 そう言うと、サラは魔法陣の書かれた紙をこちらによこしてきた。言われる通りに、紙を受け取って、唱える。

「ラン」

 力を込めると魔法陣が光り--そして、光り続けた。

「へ?」


「成功だ。それは光る魔法陣さ。暗いところで便利だぞ?」


 どうやらこれが正解らしい。光っているだけだが。生活には便利かもしれない。


「これで使えることがわかったな。よし、今晩は魔法パーリナイだ! アキヤマくんの魔力の総量も知りたいし。ちなみにさっきのは五つの魔素とは関係ない、光素というものを利用したものだ。これについてはまた必要しよう」


 そこからサラ先生の魔法講座(実験と言った方が正しいかもしれないが)は夜遅くまで続いたが、俺の魔力が枯渇寸前になったことで終わりを告げた。どうやら魔力が枯渇する、ということは生命活動に影響するらしく、端的に言うと死にかけた。サラの手当てによってことなきを得たが、肉体的な疲労も凄まじく、すぐに眠りについてしまった。


 そして翌日、初めて見るベッドで起きると目の前にサラの寝顔があった。どうやらベッドで俺を看病した流れで一緒に寝てしまったらしい。寝ていると姿に相応で可愛らしいんだけど……。でも超年上なんだよな。

 寝顔を見つめていると、サラは目が覚めたようで眠そうに目をこすりながら体を起こした。


「ああ、おはよう。アキヤマくん。美しい私の寝顔に見とれていたのか。ああ、そうだ体力は回復したかい? いや驚いたよ。昨日は。あんまり魔力が多いもんだから調子に乗って遊びすぎちゃって」


「遊んでたのかよ!!」


 自画自賛はスルーしてツッコミを入れる。


「いやいや悪いね。でも魔法の総量もわかったことだし、これから魔法のなんたるかについて教えてあげるからさ。許して」

 サラはぺろっと舌を出して謝ってきた。この若い姿でこんなポーズをとられては許さざるを得ない。ロリコンではないのだが。一般的な見解として。


「それはまぁそうなんですけど……サラに魔法教わって本当に大丈夫なのか?」

 恐る恐る尋ねる。


「それはまぁ、わからんがね。この世界の住人じゃないなら、大丈夫じゃない?」


 適当すぎる返事にため息が出た。僕に対しては一切の責任を取らないというスタイルらしい。それからアイラが来るまでは、サラの家事の手伝いを過ごして過ごした。

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