サラ先生の魔法講座③終2026
アイラが来るまではゆっくりしていよう。そんな風に考えてソファに横になってダラダラしていると、予想以上の早さでアイラが戻って来てしまった。何も朝から来なくても良かったのに。
「おはようございます! お師匠様! ……ああ、それとアキヤマさん」
アイラは昨日一人で帰らされたことがよっぽど気に入らなかったのか、俺はお払い箱という感じの塩対応だ。
「ああ、おはよう。アイラくん、昨日は悪かったね?」
「いや、全然大丈夫なのです。気にしてないのです」
いやいやめちゃくちゃ気にしてるだろ。
「それでだな。アキヤマくんなんだが」
サラはぽりぽりと頬を書きながら言った。
「はい? このどこの馬の骨ともわからない男の人がどうかしましたか?」
アイラは笑顔で聞いた。めちゃくちゃ棘のある言い方だ。やっぱり、間違いなく気にしている。
「うん。そのアキヤマくんだが。私の弟子にしようと思う。あと少し気になることがあるので調べて来てほしいことがあるんだがいいかな?」
一瞬の沈黙。
アイラは怒涛の勢いで喋り出した。
「ちょっと待ってください。弟子ってこの馬の骨をですか? いやもちろんお師匠様のお決めになったことなら異論などあるはずがないのです? が、しかし、え? どういうことです? だって私に魔法を教えてくれるようになるまでどれだけ大変だったのです? あれ? というか私のことは一切弟子にしてくださらないのになんでその男なのですか???」
よく噛まないで言えるなぁなどと呑気に構えて見ていると、アイラの射殺すような視線がこちらに注がれた。危うく怒りの矛先がこっちになりそうだ。
「いやぁ、どうやらこの男は私にとって特別な存在になりそうだからね。早いとこ唾をつけとこうというわけさ。というかアイラくんを弟子にしないのはアイラくんの社会的な地位を案じてのことだからねぇ。その点この男はどこでのたれ死んでも責任を感じなくて良さそうだから。あと面白そうだし」
サラは大口を開けて笑い、俺に流し目を向ける。
何やら聞き捨てならないセリフが含まれた気がするのだが。しかも全然フォローできていない。むしろ焼け石に水を注いでしまってるよ、それ。
「と、特別な存在!? そんなっ! で、でも……ッ!! 私は別に人からどう思われようと平気なのです……」
反論しようと息巻いていた気持ちが行き場を失い、とうとう反論の余地がなくなったのか、とうとう肝心の猫耳もしょんぼりと垂れてしまう。
「そう簡単な問題じゃないだろう? 魔女の弟子なんてことが知れてしまえばこの世界では生きる場所を失ってしまうだろう。君は魔法教会にだって入れるかも知れない逸材だ。将来を棒に振ることはあるまいよ」
サラは優しく諭すように言い、背伸びしてアイラの頭を撫でた。
それって俺の生きる場所はこの世界にもなくなっちゃうってことなのでは?
「それなら……。わかったのです。お師匠様が私の身を案じてくれているのは理解したのです……」
よしよし付きのサラの言い分に渋々納得したようだ。
「それでだね、最初のセリフちゃんと最後まで聞いてたかな? 最近ルクスの東の森の奥に瘴気溜まりができていてね。何が原因かわからないんだ」
「そうなのですか? それは気になるのです……」
しょんぼりしていたアイラの耳がぴょこんと立つ。
「だろう? それでだな……少し街で聞き込みをして来てくれないかな? アイラくん」
「私……ですか?」
「ああ。アイラくん。君にしか頼めないことなんだ」
サラはさらっとジゴロなセリフと共に、アイラの頬にすっと手を添える。
「私にしか……なのです? それはもちろんやらせていただきますなのです!」
興奮して敬語がおかしくなっているしちょろすぎるでしょ猫耳娘。
「そうかそうか! それでは頼んだよ! 何か掴めたらまた来てくれ給え。魔法の修行はいつも言ってある通りにしてくれたらいいからね! その間この男は邪魔だろうし預かっておくよ」
うまいことアイラ抜きで俺で実験する気満々の言葉だ。しかもアイラが自然に俺を預けていけるように誘導している。
伊達に長生きしてないなこの人は。
「はい! 了解なのです!」
アイラはまんまとサラの思惑通りに元気よく返事をすると、ピューっと街に帰って言った。
アイラが帰るとサラは俺をじっくりと舐め回すように眺めた後、ニタァと悪意のある笑みを浮かべて言った。
「さて。それではおもちゃになってくれるか」
「もはや本音しか出てないぞ……」
せめて実験をしようかぐらいにしといてくれよ。
その日からアイラが情報を掴んでくるまでの間、俺はサラのおもちゃとなり、魔法の練習をさせられる日々が始まった。




