いざ潜入④
翌朝、アイラに起こされ、出発する準備をする。今日は10時に荷物を持ってRMIに集合する予定だった。アイラに急かされて荷物を持ち、宿を出る。RMIまでは歩いて少し時間がかかるので、少し早めに出発した。……RMIに着くと、扉の看板はすでに開店を示していた。
「魔法道具の店ってのは結構早くからやってるもんなんだな」
「そうなんですね。朝に来るお客さんって少なそうですけど、ってそんなこと言ってる場合じゃないのです!! 早く入りましょう」
「それもそうだな」
もしかしたらもう待っているのかもしれない。何が待っているのかはわからないが、記念すべき異世界労働の第一歩が始まる。覚悟を決めて扉を開く。しかし、待っていたのは昨日といたって変わらない店内だった。店の奥に進むとカウンターの奥に老婆姿のルシエラが立っていた。
「ああ、来たかい。少し早かったね」
「おはよう、ルシエラ」
「おはようございますなのです」
アイラは律儀にお辞儀をして言う。
「ああ、おはよう。準備はできてるようだね。案内するよ」
ルシエラは店の看板を閉店にして、俺とアイラを店の外に連れ出した。しばらくルシエラについていくと、市場通りの近くまで歩くことになった。
「どこまでいくんだ? もう市場通りまで来ちゃったみたいだけど」
「もう少しさね。……あ、あれさね」
ルシエラが指差した先には大きな古い建物があった。
「店の手伝いをするのではないのです?」
「店員は私一人で足りるさね」
「それじゃ俺たちは何をするんだ?」
「それは中に入ったらわかるさね」
ルシエラはそう言うと古い扉を開けた。扉の奥に広がっていたのは、無造作に散らかった在庫の山だった。
「えーっと。一応聞くけどこれは?」
「もちろん、私の店の在庫さね。あんたたちに頼みたいのはここの整理。大変だと思うけど、給料は弾むし、例の願いも責任持って叶えてやるさね」
「これは大変そうなのです……。でも引き受けたからには頑張るのです」
アイラは猫耳を機敏に動かした後、ファイティングポーズをとった。
「うんうん。頼んだよ。ちなみに一番奥に部屋が何個かあるから、寝泊りはそこでするといいさね。さぁ荷物をそこに置いて作業を開始しておくれ!飯休憩は適当にとってもらって構わないさね。あとは……そうそう、次の魔法教会への商品の搬入は一週間後さね。それを逃すと次は半年後になるから、一週間でここを綺麗にするんだよ。片付かなきゃ潜入はなしだからね」
なんと、二度目のブラック企業勤務か! という気持ちはあったものの、一週間ぐらいなら耐えられるだろうとポジティブな心構えをした。一方アイラは、驚いて目を丸くして声も出ないようだった。
「期間が短いだけに大変だろうけど頑張っておくれ」
「ああ。わかったよ。きっちり商品の搬入までに片付けてやるよ」
「なのです!」
そして、俺とアイラは山のような商品を一週間以内で整理するという大変な役割を背負ったのだった。商品は区別もなく乱雑に置かれていて、整理するのは困難を極めた。
まず、どの棚に何を置くかを決め、同じ種類の魔法道具を集めて運ぶという作業を繰り返しおこなった。膨大な在庫量に一週間という期間。ルシエラが給料を出さないとバチが当たると言った意味がわかった。
「これ本当に終わるのかな……」
「弱音吐いてないで手を動かすのです! まだ一日目なのですよ!」
弱気になっている俺にアイラは叱咤を飛ばすが、アイラもどこか不安そうだ。と言うかこれ、ここに運ぶたびに片付けてたらもっと綺麗だっただろ。
倉庫に在庫を搬入するたびに片付けていればこんなに大変なことにはならなかったんじゃないか?などと言うルシエラへの不満なども頭を駆け巡る。そうして作業をしていると、時間は光のごとくすぎ、一日は早く終わりを告げた。
翌日も、その翌々日も同じ作業を一日中おこなった。あまりの作業量に急いでやらなければ、と言う気持ちが溢れて毎日ボロ雑巾のようになるまで働いた。ルシエラは店を閉める時間になると差し入れを持ってきてくれたりしたが、手伝ってはくれなかった。曰く「私がやると余計に散らかしちまうのさ」だそうである。
4日ほど経つと、ようやく終わりが見えてきて、最初に思っていたより早く作業が進んでいることに気がついた。そこで俺は休憩がてらアイラを再び貧民街につれて行き、子供達と遊んだりして息抜きをした。そんな日々が一週間続き、とうとう片付けは終わり、子供達ともより一層仲良くなり、魔法教会支部への商品の搬入の日が訪れた。
「いやー、まさか本当に終わらせちまうとはね。驚いたよ」
いや終わらせれると思ってなかったのかよ。
「私が優秀だったからなのです」
アイラは鼻を高くしているので、肯定して頭を撫でてやる。
「おーおー、アイラはよくやってくれたよ」
俺もな。
「それで商品の搬入なんだが……これが商品のリストだ。倉庫の前に荷車を置いてあるからそれに積み込むさね」
そう言うとルシエラは商品のリストを俺に渡した。
やはり商品の搬入の作業まで全て俺らの仕事になるのかとため息をつきつつ、商品を荷車に積み込んだ。積み込みが終わるとルシエラは倉庫に鍵をかけ、荷車に乗った。
「……あの。動力が見当たらないんですが……」
荷車はあるが、それを引くものが見当たらない。
「いや、あんたらが動かすに決まってるさね」
このアマ。使えるからってこき使いすぎだろ。そう言いたい気持ちを押さえつけ、アイラの方を見る。
「……私は力が弱いのです……」
はい。押し付けられました。しれっと荷車に乗り込むアイラだが、よく考えてみよう。おかしくないだろうか。
「ちょっと待て、ルシエラとアイラは歩けばいいだろうが!!!」
女二人分余分に力使わなくちゃいけないのは辛すぎる。
「女二人も背負えないとは小さい男さね」
「全くなのです」
「俺に運ばせるくせに態度おかしいだろーー!!」
理不尽に怒りを感じた。
「大声を出さないでください。目立ってしまうのです」
アイラの言う通り、市場通りで騒いでいた俺たちは注目の的になっていたので、仕方なく気持ちを落ち着けて荷車を引いた。商品の多くは魔法陣だったため、見た目よりは軽かったが、それでも長距離を運ぶのは肉体的に辛かった。そもそもこういうのって魔法でどうにかならないのか。
「おい、ルシエラ。これ魔法で運べないのかよ」
「ん? どうした? 藪から棒に」
「いや、これ魔法で運べるなら俺が頑張る必要ないだろって話」
「うーん。運べないことはないんだけどねぇ。魔力を感じた魔法陣が誤作動しないとも限らないからできるだけ魔法では運ばない方がいいんさね」
誤作動することなんかあるのか。初耳だった。
「それじゃ、竜とかあるだろ。商人が使っていたようなやつ」
竜は市場通りでは商品を運ぶ姿をたまに見かけていた。
「竜はレンタル料がバカにならんさね。買うのはもっとバカ高い金がかかるさね。いつもは竜をレンタルしてるんだが、お前たちに払っている給料を考えるとあんたに運んでもらった方がはるかに安上がりなんさね」
理屈的には通っているが、頑張った俺らに少し楽させてくれるとかいう発想はなかったのか。
「わかったよ……」
渋々荷車を引くことに納得し、魔法教会支部までの道のりを荷車を引いて歩いた。荷車を運ぶ俺が珍しいのか、街を歩く人は揃って俺のことを凝視していた。俺は見世物じゃないんだよ!と言ってやりたかったが、そもそもそんな元気もなく、黙って支部までの道を行った。
そしてとうとう魔法教会支部に到着した。ルシエラは門の前に行き門番と話をして、何か紙を見せたあと、荷車に戻ってきた。
「これで入れるさね。中に入ったら私が商品を搬入しとくから、あんたらは調査をしな。入ったら認識阻害の魔法をかけてやるから。ただし! あまり奥まで行くんじゃないよ。魔法教会さんの中には認識阻害を阻害する魔法を使えるやつもいるから。せいぜい下っ端の話を聞くぐらいにしとくんだよ。見つかったら私の店まで被害を被っちまうからね」
ルシエラはそう念を押すと付いてくるよう言った。そしてとうとう俺とアイラは魔法教会支部への潜入を果たすことになった。




