ただいま×2
「…………………ううん…。」
朝。
窓の外で鳥が鳴いている。
昨日の夜兄貴と小競り合いがあったけど、あの後は何事もなく寝ることになった。
でもその後なかなか寝付けなかったから凄く眠い。
もっと寝てたいなぁ。
今日も学校あるけれど、今だけちょっと寝て遅刻して行くとかじゃダメかな。
でもそれだときっと兄貴に怒られるだろうなぁ。
この起きてすぐに「学校休みたい欲」が出てきてしまう自分が嫌だ。
何かしらの理由をつけて、今日一日だけでも家でずっとごろごろして居たくなってしまうこの感じ。
ダメなのに。兄貴がせっかく行かせてくれてる学校なのに。
こういうとこが、私の直すべき所かな。
「お~い!もうそろそろ起きねぇと遅刻するぞ~!休むつもりか~?」
私の部屋に向けて、遠くから兄貴が大声で呼びかけてくる。
しれっと「休む」って言う単語をわざとらしく用意してくれる兄貴。
ずるいよ。ホントに休みたくなるじゃん。
でも、学校休んだら兄貴と家でいつもより長く過ごせる。
でも、兄貴が頑張って行かせてくれている学校休むのは気が引ける。
あぁもういい、考えるのも嫌だ。
起きる。眠いけど起きる。
急いで学校いく準備しよう。
私はバッと起き上がり、寝間着をするっと脱いだ。
* * * * *
「ったく、また朝飯食う時間ねぇじゃねぇか?」
「ゴメン…。でもさ、昨日は夜遅くまで起きてたから…。」
「それが言い訳になるなら俺もそう言うわ。なぁ?」
「うぅ…。」
兄貴が私に説教混じりに話かけてくれてる。
そうだ、夜遅くまで起きてたのは兄貴も一緒なのに、その兄貴はもう朝ごはんを作り終えてる。
私の気が緩んでいるだけだ。
頑張らなきゃ。
兄貴が応援してくれてるんだから。
軽くシャワーも浴びて、髪を乾かして、髪の毛セットして、着替えも済ませて。
ここまで所要時間約10分。
急げば、案外こんな時間でできる物なんだなぁ。
人間の力って計り知れない。
今日も朝ごはんは抜きだけど、もう出発の準備ができてしまった。
バスの時間まで、まだ余裕があるくらい。
もうちょっとゆったり準備してもよかったかも。
「じゃあ行ってきま~す。」
「おう、頑張ってこい。」
「うん。」
またお尻を叩かれないように警戒しながら靴を履いて。
玄関の扉に手をかける。
でも、兄貴から何もセクハラがないって言うのもなんか寂しいな。
「ねぇ兄貴。」
「お、どした。」
「…………触って?」
私はゆっくり、腰を兄貴の方に向ける。
兄貴もその意図を理解したのか。
静かに、私のお尻を触ってきた。
優しくて温かい兄貴の手。
直にその温もりがあってなんかドキドキする。
「なんかひんやりしてんな?」
「うん……。」
「さぁ、こんなもんかなっ!」
「いった!」
最後に、思い切りベチンッと叩いてきた。
だからなんで叩くのよ。
痣できたらどうするの。
「ほれ、早く行って来い!」
「うん、行ってきます。」
そう言って、渋々私は玄関を出た。
もう、何にも私の事解ってくれてない。
だからいつまでも変態兄貴なんだよ。
でもそう言うとこも踏まえて、兄貴だもんね。
いつまでも、そんな兄貴でいてね?
* * * * *
学校で過ごしてても、私の考えてる事は基本いつも同じ。
勉強の事と、バイトするかどうかについて。
そして兄貴の事について。
兄貴のことが、なんでか頭から離れない。
ちょっと思い返しただけで、兄貴に触られた場所がじわってする。
それがなんか、ゾクゾクして楽しい。
昨日は兄貴に、言いたかったことが言えた。
私にセクハラするんだったら、もっとそれ以上の事もして欲しいって。
そう伝えることができた。
きっと兄貴と「体験」できる日も、そう遠くはないんじゃないかな。
兄妹で「そんなこと」しようとするなんて、変かもしれない。
でも、私は本気で兄貴の事好きだから。
兄貴は私の事どう思ってるかは解らないけど、でもお互いほぼ「両想い」の関係だと思ってる。
だからいいよね?
そういえば兄貴は「体験」したことってあるのかな。
私は実はもう「体験」済み。
なにせ「虐待」されてたからね。
嫌でも、知識はある方だと思ってる。
もし兄貴がまだなら、私が色々教えてあげないと。
いつも兄貴にペース持って行かれっぱなしだし。
私がリードするんだ。兄貴を。
もう私ったら、学校で何考えてるんだろ。
やっぱ私も変態さんなのかな。
兄妹そろって変態って、ヤバい。
私くらいはしっかりしないとね。
* * * * *
「バイバイあや~!」
「うん、バイバイ。」
「また今度遊ぼうね~!」
「うんっ。」
期末テスト直前なのに、この高校の雰囲気はなんだか緩い。
勉強せず、カラオケだのゲーセンだのに行こうとする人達が多い気がする。
まぁ高校って割とこんな感じなのかな。
あんまり固い感じなのも嫌だし、これくらいが丁度いいかも。
でもだからと言って、私も気が緩んじゃいけない。
私もそろそろしっかり勉強しないと。
もしテストで悪い点数なんてとったら、兄貴に怒られちゃう。
頑張らないと。
そう決めて、私は帰りの学生バスに乗り込んだ。
バスの外からは、野球部のリズム感のある掛け声が聴こえてくる。
あんな掛け声出して恥ずかしくないのかな。
でもその分、一生懸命なんだろうな。
なんかカッコイイなって思ってしまう。
何かに精を出す男の人って輝いてるから。
でも、男の人なら私は兄貴一筋。
もしこの高校で誰かに告白されても、絶対断る。
たぶん兄貴以外に私にぴったりな人、絶対いないから。
所詮この年頃で告白してくる男子なんて、体目当てに決まってる。
この私の体は、兄貴の物なの。
ほかの男になんてあげないもん。
そんな風に野球部の男子を嘲笑っていたら、バスが出発した。
* * * * *
家に着いた。
なんか今日一日早かったなぁ。
それもこれも、学校で兄貴の事ばっかり考えてるからかな。
変なこと考えてると、すぐに時間が過ぎていく。
「ただいま~。」
家の中に呼びかける。
あれ、兄貴いないのかな。
そう言えば兄貴の靴がない。
どっか買い物にでも行ってるのかも。
ってことは、ただいまのキスは無し?
なんか寂しいな。
兄貴が帰ってくるまでお預けか。
私は口を尖がらせながら、仕方なく自分の部屋に戻った。
兄貴帰ってくるまで、勉強でもしておこう。
早く帰ってこないかな。
* * * * *
「うっす~ただいま~。」
玄関の扉がガチャリと開いて、兄貴が帰って来た。
私は勉強道具を置いて、駆け足でお出迎えに行く。
「おかえり兄貴~。」
「おう、お前もおかえり。」
「……ん。」
チュッ
いつもの、帰ってからのキス。
今回はいつもより長い「二人分」のキス。
私のただいまと、兄貴のただいま。
短いキスじゃなく、じっくりと甘いキス。
兄貴と体が密着して温かい。
ドキドキしてくる。
「…………。」
「…………。」
でも。
これはさすがにちょっと長い気がする。
兄貴が全然、唇を離してくれない。
私の体をガシッと抱き寄せて、完全に拘束されている。
ヤバい。
変な気分になる。
兄貴、早く離してよ。
軽く兄貴の体をポンポンと叩いて、もう充分だと伝えても。
口を離してくれない。
ちょっと待って。
何なの。
意地悪しないで。
「……………っ……っ。」
「………………。」
体が火照ってきて、息ももう限界。
今更気づいたけど、お尻に手を廻されているし。
もうムリ。
兄貴もう限界。
もうわかったから。
兄貴とのキス好きだから。
私が体をもじもじして兄貴の拘束を解こうとした所で。
ようやく兄貴が口を離してくれた。
「ぷはぁっ!……はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。」
「はぁ………はぁ………。」
私は息切れして、軽く涙が出てくるくらいドキドキしてる。
兄貴は、割と平気そう。
でも兄貴も、顔を赤くしてちょっと苦しそう。
「…はぁ……なんで…こんな意地悪…するのよっ!」
「…悪い…ついな。」
「…はぁ……もうっ!」
私は兄貴のお腹を思い切り殴った。
でも固くて、全然効かなかった。
腹筋固すぎ。
「悪い悪い…嫌だったか?」
「途中でポンポンってしたのにっ!」
「いやな、何か抵抗するお前が可愛かったからさ?」
「意地悪!変態!」
「そりゃドーモ。」
ヤバい。
あんなに長いキスしたの初めて。
まだドキドキしてる。
兄貴とのキスってこんなに甘かったんだ。
もう、馬鹿。
意地悪な変態兄貴。
こんな凄いキスしてくれるなら。
もっと早くして欲しかったな。




