友達
次の日私はマリリンとともに学校へと行った。照美ちゃんに教わったリボン結びのおかげで今日は最高級品のリボンをつけて登校できた。これであの三人組に何も文句は言われないだろうと思って下駄箱へ行った。
するとそこにはやはりあの例の三人組と堀江まゆみがいた。
「あら、堀江さん。髪がめちゃくちゃ乱れておりませんこと」
高橋真理子が言う。あれは髪がめちゃくちゃというか、天パーだからウェーブがかかっていてぐちゃぐちゃになってしまっているのだ。彼女だってしかたないだろう。
「ほんとこんなめちゃくちゃじゃ、ここの生徒だなんて思われたくありませんわ」
「一緒の生徒の私達が迷惑よね」
水倉綾と三浦美紀が口を揃えて言う。
そして彼女達はどこからかもってきたブラシとヘアムースを手に、堀江さんの頭をいじくりまわそうとしている。
「さあ、私達がとかしてあげるわよ」
「こっちきなさいよ」
とかすかとか言いながら、ますますぐちゃぐちゃにしようというのが見え見えだ。
「えっ、でも私ほんとにいいんです。これはもともとの髪質ですから」
言われっぱなしの堀江さんがおずおずと言い出す。
「まあ、遠慮なんてしなくていいの」
「そうよ、そうよ」
私はそんな四人のやりとりを尻目に教室に向かおうとした。その時、マリリンが言った。
「このまま放っておいていいんですか、お嬢様。あれはどうみてもいじめですよ」
「いつものことよ」
そうして無視して行こうとすると、またしてもマリリンが言った。
「照美ちゃんの時は男の子から守ってあげたのに、あの女の子はいいんですか」
そう言われると、なんだか痛いところをつかれた。唯ちゃん助けてと言っていた幼い頃の照美ちゃんの姿が浮かぶ。
「さあ、お嬢様」
昔のことを思い出し、私の胸に熱いものが蘇る。
「ちょっとそこの三人」
「あら、白井さん。今日はリボン付きなのね。今日のあなたに用はないわ」
「そうよ、そうよ、邪魔しないで」
「堀江さんが嫌がってるじゃない。やめなさいよ」
「そんなことないわよ」
「堀江さんは感謝しているのよ。だって私達髪をとかしてあげようとしているのだもの」
「それが余計なお世話だっていうのよ。彼女の髪質をいじめてどうすんのよ」
「嫌だ、いじめてなんていないわよ」
三人はむっとした様子で私を見る。私はすかさず、堀江さんの手を取るとこう言った。
「遅刻しちゃ大変だから、これで失礼するわ。行くわよ、堀江さん」
彼女の手をぎゅっとにぎりしめると私は猛ダッシュで教室まで走った。
思わぬ展開で堀江さんも驚いていたけど、息をきらしながら、彼女は言った。
「白井さん、ありがとう」
堀江さんの目から涙がこぼれる。私の胸はぱっと熱くなった。なんだかいいことをしたような気がした。
無事に意地悪三人組から危機を脱した私達は何事もなかったかのように授業を受けた。そして授業の合間の休憩時間中に、堀江さんが私の席までやってきた。
「あの、白井さん。さっきは本当にありがとう。助かりました」
そう言って彼女は頭をさげた。そもそもあの時マリリンが何も言わなければ私は何もしなかったろう。正直今までの身勝手さに居心地が悪い。それで私は言った。
「ううん。あの時助けろって言ったのは、このメイドのマリリンなの。お礼ならこのマリリンに言ってちょうだい」
私がにっこり微笑むと、堀江さんはめがねに手をやりながら、マリリンをじっと見た。
「そうだったんですか。ありがとうございます。マリリンさん」
マリリンは照れながら
「そんなことないです」
と言った。
堀江さんは私の手元にある本を見ると叫んだ。
「あっ、その本私も好きなんです。白井さんも好きなんですか」
「えっ、ええ。私もこのシリーズ好きなの」
「ほんとですか。奇遇ですね。もう一つシリーズもありますが、あっちも面白いですよね」
「うんうん。そうだね。面白いよね」
えっ、堀江さんと私って実は趣味が合うの?
「あの、もしよかったらお友達になってくれませんか」
堀江さんはとても真面目にそう言ってくれた。
「もちろん、いいわよ。帰り一緒に帰りましょう」
私はそう言いながら、心臓が口から飛び出しそうだった。だって照美ちゃんと別れてから、友人と呼べる存在がいなかったのだから。これはほんとにビッグニュースだ。ああ、マリリンありがとう。私がそう思った瞬間、またしてもマリリンの周りに光の輪がたった。そして
『マリリン。人の役に立つ二つ目の仕事もクリアーしたようだな。それなら妖精界に帰ってこい。戻って来るのはいつでもよいからな』
妖精界の王の言葉が伝えられた。
マリリンは嬉しそうに跳びはねた。
「私、やりました。これで妖精界に帰れます」
えっ、マリリンが妖精界に帰ってしまうなんて…。ふいに私の心にすきま風が吹いた。せっかく仲良くなれたのにもう帰ってしまうのかと思うと、急に寂しくなった。
堀江さんと一緒に学校から帰ってくると、私は急いで自分の部屋へと入った。そうしてマリリンを自分の机の上にのせた。
「ねえ、マリリンほんとに妖精界に帰っちゃうの」
「そうですねえ。王様からもお許しが出たし、帰れますもんね」
「もうちょっとこっちにいない」
私の意外な言葉にマリリンはびっくりした。
「私も実はお嬢様とせっかく仲良くなれたのに、すぐに帰ってしまうのはなんだか切ないと思っておりました」
マリリンの目にはきらきらと光るものがあった。
「でも私はメイドらしいことのできないメイドなのですが、それでもよろしいのでしょうか」
「もちろんよ、マリリン。せめて強君達と会うまでいてくれない」
「お嬢様がそうおっしゃるなら、私はかまいません」
マリリンは嬉しそうに言った。
「ねえ、またあの歌を歌って」
「はい、かしこまりました。歌いましょう」
そんなことでマリリンは私が強君達と会うまではいてくれることになった。マリリンがいるといろんなことがよくなっていくような気がするのだ。いてくれるのなら、ずっといてくれてもいい。そんな気持ちに私はなっていた。