あとがき
――ここからは、哲太の著書ではなく、この物語そのものを書いた、作者としての言葉である。
この物語を書き終えた今、私は、改めて、一つのことを考えている。
「患者」という言葉は、本来、誰かを助けるための言葉であるはずだ。だが、その言葉は、時に、誰かを黙らせるための道具にもなりうる。この二つの側面は、表裏一体でありながら、その境界線は、驚くほど曖昧だ。
この物語に登場する人々――山本哲太、山本修司、陽子、波多野五郎、深田源一郎、富山紘一、そして西村悠人――は、それぞれに、弱さと強さを併せ持つ、一人の人間として描いたつもりだ。誰も、完全な悪人ではなく、誰も、完全な英雄でもない。
巨大な黒幕は、存在しない。それぞれの人間が、自分の立場、自分の弱さ、自分なりの正義の中で、選択を積み重ねていった結果として、あのシステムは生まれ、そして、少しずつ、崩れていった。
もし、この物語を読んで、誰か一人を「悪」と断じることで、安心してしまいたくなったとしたら、それは、この物語が最も伝えたかったことから、少しだけ、遠ざかってしまっているかもしれない。
私たちの社会には、今も、形を変えた「P-0」が、どこかに存在しているだろう。それに気づき、声を上げること。そして何より、誰かの声を、簡単に無効化しないこと。それこそが、この物語が、最後に、読者に託したかった、ささやかな願いである。
(完)




