表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

答え合わせ

しばらく沈黙が続いた。


だが――


どうしても一つだけ分からないことがあった。


「でもさ」


俺はウェルを見る。


「それでも理由になってないだろ」


「なんで森で俺を助けたんだ?」


ウェルは一瞬だけ黙った。


夕日が横顔を照らす。


少し考えるように目を細めてから口を開いた。


「助けるメリットがないって話かな?」


「まあ、そうだな」


俺は素直に頷く。


路地裏を見た。


ウェルが良い奴なのは分かった。


でも、それとこれとは別だ。


森で死にかけていた見知らぬ俺を助ける理由にはなっていない。


ウェルは小さく笑う。


「実はね」


「メリットなら僕にもあったんだ」


「メリット?」


「うん」


そう言うと、一度だけ周囲を見回した。


騎士達が少し離れて話していることを確認すると、俺の方へ少し身を寄せる。


そして声を潜めた。


「実は僕――魔眼持ちなんだ」


「魔眼!?」


思わず大声が出た。


しまった。


そう思った時にはもう遅い。


周囲の騎士達が一斉にこちらを向いた。


「あっ……」


ウェルは困ったように苦笑する。


「ほらね」


「だから内緒なんだ」


「す、すまん……」


慌てて声を落とした。


その直後だった。


「ウェルライト様!」


後ろから怒鳴り声が飛ぶ。


振り返ると、騎士達全員がこちらを睨んでいた。


「何を考えているのですか!」


「人前でそんな話を!」


「妙な噂になったらどうするんです!」


一斉に責め立てられる。


ウェルは困ったように笑った。


「ごめんって」


「ごめんではありません!」


王候補が騎士達に怒られている。


……これ、かなり珍しい光景なんじゃないか?


そんなことを考えていると、一人の騎士が今度は俺を指差した。


「というか、大声を出したのはお前だ!」


「うっ」


反論できない。


完全に俺だった。


「すまん……」


素直に頭を下げる。


騎士は深いため息を吐いた。


「本当に勘弁してくれ」


「いや、お前達の怒り具合で反射的に謝ったけど……そんなにまずい話なのか?」


俺がそう聞くと、バルカンは呆れたように肩をすくめた。


「お前は異世界国出身だったな」


「そこでは魔眼の話は聞かされなかったのか?」


どうやら本当に"異世界"という国の出身だと思われているらしい。


異なる世界なんだけどな。


訂正するのも面倒だ。


また余計なことを言って、自分の首を絞めるのも嫌だった。


俺は適当に首を振る。


「聞いたことないな」


「そうか」


バルカンは腕を組んだ。


「魔眼は珍しい」


「……いや、そもそも本当にあるのかも怪しいがな」


俺は思わずウェルを見る。


本人が今さっき持ってるって言ったんだが。


だが騎士達は誰一人として信じていないようだった。


「じゃあなんで怒ってるんだ?」


俺が聞くと、バルカンはため息を吐く。


「変な連中が寄ってくる」


「変な連中?」


「魔眼は不思議な力を持つと言われている」


「だから狙う連中もいる」


「狙う?」


俺が聞き返すと、一人の騎士が静かに答えた。


「魔眼ハンターだ」


なんだその名前。


めちゃくちゃかっこいいな。


だが周囲の空気は真逆だった。


誰一人笑っていない。


俺は少し首を傾げる。


「そんなに有名なのか?」


騎士達は顔を見合わせた。


「有名というか……」


「子供でも知っていますよ」


一人の騎士が苦笑する。


「悪い子は魔眼ハンターに連れて行かれるぞ、ってな」


別の騎士も頷いた。


「俺も子供の頃は本気で怖かった」


なるほど。


鬼とか妖怪みたいな存在か。


でも――


それなら余計に分からない。


「いや待て」


俺は聞いた。


「誰も見たことないんだろ?」


「ない」


「実在するかも分からないんだろ?」


「分からん」


「じゃあ、なんでそんなに警戒してるんだ?」


その瞬間。


バルカンの表情が少しだけ真面目になる。


「噂だからだ」


「……は?」


「分からないから怖いんだ」


そう言って肩をすくめる。


別の騎士も続けた。


「魔眼持ちを集めて仲間にしているとも聞く」


「殺しているとも聞く」


「目を奪うとも聞くな」


話がどんどん物騒になっていく。


俺は腕を組んだ。


「じゃあ魔眼ハンターを名乗った泥棒とか殺人鬼の話なんじゃないのか?」


その言葉に騎士達は少し黙った。


やがてバルカンが頷く。


「それも否定はできん」


「実際、そう名乗った犯罪者の話もある」


「ほらな」


俺は少し納得した。


だがバルカンは続ける。


「だからこそだ」


「本物がいるのか」


「偽物しかいないのか」


「誰にも分からない」


「分からないから怖い」


俺は少し考える。


だが正直――


俺にはそこまで恐ろしい話には聞こえなかった。


それより気になったのは別のことだ。


騎士達は本気で魔眼を信じていないらしい。


本人が目の前で持っていると言ったのに。


だが。


俺には信じる理由があった。


森で助けられた。


王の前で庇われた。


牢屋から出された。


今日だってそうだ。


魔眼があるから。


そう言われた方が全部説明できる。


少なくともウェルが嘘をついているようには見えなかった。


魔眼ハンターの話も気になる。


だが――


今の俺が一番知りたいのは、それじゃない。


「それと俺を助けた理由がどう繋がるんだ?」


俺は騎士達の話を遮るように聞いた。


魔眼ハンターも気になる。


でも今はそれ以上に知りたかった。


どうして俺を助けたのか。


ウェルは少しだけ空を見上げる。


夕日が頬を赤く染めていた。


そして静かに口を開く。


「最初に君と目が合った時」


「未来が見えたんだ」


「未来?」


「うん」


ウェルはゆっくり頷く。


「君を助けた未来」


「助けなかった未来」


「その両方が見えた」


俺は思わず息を呑んだ。


未来を見る魔眼。


思っていたより何倍もすごい能力だった。


「もちろん」


「助けない選択肢なんて最初からなかったけどね」


ウェルは優しく笑う。


「でも確信したんだ」


「君はこの国を――」


そこで一度言葉を止める。


少し考えてから、静かに言い直した。


「いや」


「君が関わる未来に、僕の理想の世界があった」


「そんな未来が見えたんだ」


その瞬間、世界が軋んだ。


頭の奥で“何か”が弾ける音がした。


――カチリ、と。


ばらばらに散らばっていた欠片が、強制的に組み上がっていく。


ああ、そうか。


そういうことだったのか。


この世界は最初から、俺を中心に回っていた。


選ばれた存在。


特別な人間。


俺以外に、この役割を担える者などいない。


「この世界を変える」


いや違う。


最初から“そうなるようにできている”。


俺がここにいる理由。


この異世界に呼ばれた意味。


――この世界は、俺を必要としている


そんな確信にも似た感覚が、胸の奥に落ちた


――ならば。


抗う必要はない。


「これは運命だ。」


思わず声が漏れる。


ウェルは少し困ったように笑った。


「未来は絶対じゃないよ」


「だから僕も頑張らなきゃいけないんだけどね」


だが、その言葉は半分も耳に入っていなかった。


魔眼。


未来視。


理想の世界。


世界を変える未来。


頭の中をその言葉だけがぐるぐる回る。


気付けば口が勝手に動いていた。


「ウェル」


「いや――」


俺は姿勢を正す。


「ルードウェルライト様」


ウェルが目を丸くした。


周囲の騎士達も驚いたような顔をしている。


俺は真っ直ぐウェルを見る。


「今まで疑って悪かった」


「助けてもらった」


「薬まで用意してもらった」


「街も見せてもらった」


「俺はずっと失礼なことばっかり考えてた」


言葉が止まらない。


「だから」


「俺はお前の役に立ちたい」


「必ずだ」


しばらく沈黙が流れた。


ウェルは俺を見つめている。


そして――


今日一番嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「うん!」


その一言だけだった。


だが、不思議とそれだけで十分だった。


俺の胸の中にあった不安や疑いは、いつの間にか消えていた。


その時だった。


案内人の少年が空を見上げながら言った。


いつの間にか太陽は傾き、辺りは夕焼け色に染まっている。


「暗くなる前に帰らないと、この辺は危ないから」


その言葉に騎士達も頷いた。


「今日はここまでにしましょう」


「そうだね」


ウェルも頷く。


俺達は再び案内人の少年の後ろを歩き始めた。


さっきまでと同じ道のはずなのに。


俺の中では何かが変わっていた。


ウェルのこと。


魔眼のこと。


そして――


俺がこの世界に来た理由。


その答えが、もう目の前まで来ている気がした。

ご覧いただきありがとうございます。次回は【来週か再来週あたり】に数話分を貯めて戻ってくる予定ですので、気長に待っていただけると嬉しいです。少しでも続きが気になったら、ブックマークや下の☆から評価をいただけると嬉しいです。執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ