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Silens&Silentia シレンス・シレンティア  作者: 宮本葵
第一章「Silensとの出会い」
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ep.14 “入隊試験編Ⅷ”

「全員、集まったな」


 上級生も合わせた計百五十名ほどが集められた大会議室。冷房がついているのか、もしくは地下だからかは分からないが、ひんやりした感じがする。

 上級生の中には重装備をした人も入れば、軽装備でSilensの制服に帽子を被っただけの人もいる。


「今年は昨年までと違い少々人が少ない。特例で普段はもう五人位は入る筈だったが、やむを得ない事情があるため、夏休みまでは許可が降りなかった。二十名という人数の中で出来れば私は全員受かって欲しいが、それは試験生次第だ」


 試験生全員がその言葉に緊張を覚える。


「さて、試験だが、上級生達にも手伝ってもらいながらの試験だ。一日目である今日は感覚を遮断して、生存できるかの試験、実弾対人試験、そして、夜には私と一対一での対面だ。筆記試験もその際行う」


 実弾と言う言葉に試験生達は騒つく。実弾を扱ったこともないのにそれが相手から放たれるなんて……。少し僕は怖くなった。


「さて、もうすぐ試験を始めるが……。試験を辞めたい、ここに居たくないと言う人は今出て行っても構わない。稀にそう言う奴はいるものだ。さあ、どうする、試験生」


 そう言われて、試験生達は、同じクラスの人や、違うクラスの人とも顔を合わせる。みんな、本気の顔をしているが、少し怖そうな表情を見せている。だけど――


「指揮官!」

「……なんだ?」

「僕らは本気です。本気でこのSilensに入りたいんです!」


 試験生全員が頷く。岩城さんも続けて言う。


「指揮官。こんな弱い私ですが、Silensに入って学校に貢献したいと思っているんです」

「過酷な道のりだぞ」

「だけど進めてきたのは指揮官じゃないですか」

「……」

「嬉しかったんですよ。か弱くて、人前に立つのがちょっと苦手な人間でもこう言う場に入てもいいと言われたことが。だから、私も諦めたりしません!」


 岩城さんの言葉に頷く上級生の女子隊員も多かった。


「分かった。では、全員本気で取り組め。それでは私は準備に取り掛かる。誘導係は試験生を最初の部屋へ誘導しろ」


 指揮官の言葉が終わると同時に、上級生の一部の人が動き出す。


「試験生はクラスごとに分かれて移動する。呼ばれた者から前へ出ろ」


 淡々とした声。だが、その声音には迷いがなかった。

 クラスと名前を読み上げられ、最初のグループが動き出す。足音が会議室に響くたび、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


(いよいよ、試験が始まるんだ)


 僕の番が近づくにつれて、周囲の音が少し遠くなる感覚がした。横を見ると、優斗が小さく深呼吸している。岩城さんは両手をぎゅっと握りしめて、目を閉じていた。


「……次、一年A組。岩城、紙山、中村、宮本」


 呼ばれた瞬間、体が少しだけ強張る。だが、足は止まらなかった。僕たちは前へ出て、上級生の誘導についていく。

 会議室を出ると、そこから先は見慣れない通路を通っていく。天井は低く、照明は必要最低限。足音がやけに反響する。


「ここから先は、試験区域だ」


 誘導役の上級生が言う。


「中に入ったら、こちらからの指示は一切ない。助けもしない。だが、完全に放置するわけでもない」


 その曖昧な言い方が、逆に怖かった。


「お節介かも知れないが、一つだけ覚えておけ。この試験は、ゴールを探す試験じゃない」


 扉の前で、上級生が振り返る。


「“どう生き残るか”を見る試験だ。せいぜい頑張れ」


 重たい金属音とともに、扉が開く。中は薄暗く、何もないように見えた。


「入れ」


 促され、僕たちは中へ足を踏み入れる。扉が閉まった瞬間、外の音が完全に遮断された。

 ——静かすぎる。


「……何も、見えないね」

「照明、切れてるのか……?」


 次の瞬間。プツン、と音がして、視界がさらに暗くなった。同時に、耳の奥が詰まったような感覚がする。


「え……? 音……」


 自分の声が、くぐもって聞こえた。


(感覚遮断……)


 頭では理解していても、身体が追いつかない。距離感が狂い、床の感触も曖昧になる。

 ——焦るな。

 僕は無意識にその場で立ち止まり、呼吸を整えた。走れば転ぶ。動けば、判断を誤る。


(今、何が残ってる?)


 完全に失われているわけじゃない。微かな空気の流れ。床の冷たさの差。そして、自分の心拍。


「……落ち着け……」


 誰かが小さく呟く声が聞こえた気がした。それが本当に聞こえたのか、想像なのかは分からない。そのとき、床がわずかに傾いた。


「っ……!」


 誰かが体勢を崩す気配。反射的に手を伸ばしそうになって、僕は止めた。


(助けたい。でも——)


 この試験は、そういう衝動も含めて見られている。僕は一歩も動かず、ただ周囲を“感じる”ことに集中した。時間の感覚が、少しずつ溶けていく。その静寂の中で、はっきりと理解した。


——これは、体力の試験じゃない。

——心が折れるかどうかの試験だ。


 そして同時に、どこか冷静な自分がこう思っていた。


(……Silensは、簡単に人を前に進ませない)


 一日目の試験は、まだ始まったばかりだった。


 〜 〜 〜 〜 〜


 どれくらい時間が経ったのか、もう分からなかった。視界はほぼ闇。音も、完全に信じられるほどではない。自分の呼吸音すら、他人のものではないかと心配になる。

 足元の感触が、少しずつ変わっていくのが分かる。硬い床から、ざらついた何かへ。さらに進むと、冷たく湿った感触。


(床材が変わってる……?)


 いや、床そのものが動いているのかもしれない。ここが固定された空間だという保証は、どこにもなかった。

 すると突然、遠くで鈍い音がした。


「……っ!」


 誰かが転倒した音だ。反射的に身体がそちらを向くが、距離が分からない。


「だ、大丈夫か……?」


 返事はない。代わりに、荒い呼吸だけが、断片的に伝わってくる。


(助けに行くべきか……?)


 頭をよぎるが、すぐに別の考えが浮かぶ。


(行って、僕が怪我をしたら? 二人とも動けなくなったら?)


 正解なんてない。でも、今の僕には「確実な行動」しか選べなかった。

 僕はその場にしゃがみ込み、床に片手をつける。床の振動を拾うためだ。


 ——微かに、規則的な揺れ。


 人が動いている。ゆっくりだが、確実に。


(生きてる……)


 それを確認しただけで、胸の奥が少し軽くなった。次の瞬間、今度ははっきりとした悲鳴が上がる。


「痛っ……! くそ……!」


 別の方向だ。声の震え方からして、ただの転倒じゃない。


「足、やったかも……」


 空間のどこかで、試験生がうずくまっている。この空間には、罠がある。


(段差……いや、落とし穴か)


 僕は立ち上がらず、這うようにして移動を始めた。一歩ずつ、床を確かめながら。

 ――やがて、指先に不自然な“縁”が触れた。


(……ここか)


 その先は、何もない。恐らく、意図的に作られた落差。


「……誰かいるか」


 声を張らず、しかし確実に届く音量で呼びかける。


「無理に動くな。そこ、段差がある」


 一瞬の沈黙。次いで、少し掠れた声が返ってきた。


「……ありがとう。危なかった」


 僕はそれ以上近づかず、距離を保ったままその場を離れた。助けすぎない。だが、見捨てもしない。

 それが、この試験での最適解だと感じていた。

 時間が進むにつれ、疲労が蓄積していく。水もない。座り込んだまま動かなくなる者もいた。


「……もう無理……」


 小さな呟き。心が先に折れ始めている。


(ここで諦めたら、終わりだ)


 僕は再びその場に座り、呼吸を整えた無駄な動きはしない。だが、完全に停止もしない。


 ――心拍、呼吸、床の温度。


 それらを意識し続けることで、思考を保つ。


 ――どれくらい経った頃だろう。


 突然、空間全体に低い音が響いた。ゴウン、という重い駆動音。同時に、わずかな光が戻る。


「……?」


 完全な明かりではない。だが、輪郭が見える程度には、視界が回復した。


 床を見ると、至るところに段差や傾斜、偽装された穴があった。転倒していた者の一人は、足首を押さえて座り込んでいる。


 ――怪我人、数名。


 そのとき、天井から声が降ってきた。


「――感覚遮断・生存判定テスト、終了。動けない者はその場に座れ。医療班を入れる」


 指揮官のアナウンスで、安堵と疲労が、一気に押し寄せる。その場にへたり込む者も多かった。

 僕は、ゆっくりと立ち上がる。膝が少し震えたが、まだ踏ん張れた。


「医療班、入れ!」


 重い扉が開き、白と黒の混ざった制服の上級生たちが次々と入ってくる。その動きには一切の迷いがない。


「足首だな。無理に立つな」

「担架、こっち!」


 足を押さえていた試験生が、苦しそうに息を吐いた。


「……すみません……」

「謝るな。生きてる。それで十分だ」


 そのやり取りを、蒼は少し離れた場所から見ていた。自分の身体を確認する。擦り傷も、痛みもない。


(……本当に、誰も死ななかった)


 胸の奥で、ほっとする感情が広がる。だが、周囲を見渡せば、明らかに消耗しきった顔が並んでいた。座り込んだまま立ち上がれない者、放心したように天井を見つめる者。


「……思ったより、きつかったな」

「これ、一日目だよな……?」


 誰かの震えた声が、静かに漏れる。

 僕は、とっさに岩城さんの姿を探した。少し離れた場所で、彼女は壁に背を預け、静かに呼吸を整えている。目が合うと、彼女は小さく頷いた。無事だという合図だろう。それだけで、十分だった。


 怪我人は三名。一人は足首の捻挫、もう一人は肋を打って呼吸が浅い。もう一人は転倒時に肩を強く打ったらしい。

 全員、担架で運ばれていく。


「……脱落は、なし」

「全員、続行可能だ」


 医療班の報告に、空気がわずかに緩む。


 〜 〜 〜 〜 〜


 その頃、少し離れた観測エリア。ガラス越しに試験場を見下ろしながら、上級生数名が会話を交わしていた。


「今年の一年、質が高いな」

「特に……あれだ」


 一人がモニターを指差す。そこに映っているのは、蒼の行動ログ。


「移動量、最小。心拍の乱れもほぼなし」

「他人を助けに行かず、でも情報は落としてる」

「……判断が冷静すぎる。だが、他人を見捨てると言う判断がな……」


 別の上級生が、腕を組む。


「A班に放り込むには、少し惜しいな」

「だが、表向きはAだろう。ああいうのは前線に置かないと周りが納得しない」


 少し間が空く。


「――S班候補、か」

「可能性は高い」


 その言葉に、別の一人が静かに笑った。そうして視線は再び、試験場へ。


 〜 〜 〜 〜 〜


 僕は、床に座ったまま、静かに手を握りしめていた。

 理由は分からない。


 ただ、自分がここに“選ばれている”という感覚だけが、確かにあった。


「——次は、実弾対人試験だ」


 指揮官の声が、場内に響く。


「一時間半の訓練だったので、少し休憩し、30分後に再集合。装備を受け取れ」


 試験生たちが、ゆっくりと立ち上がっていく。誰一人、逃げ出す者はいない。僕もまた、立ち上がった。


(……ここからが、本当の試験だ)


 そして僕はまだ知らない。自分が既に、A班とS班の候補の境界線に立っていることを。

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-著者 宮本葵-
茨城県南部出身。中学2年生。鹿行地域とは違ってメロンをたくさん食べれないところに住んでいる、メロン好き。バナナも好きだがやはりメロン。最近、つくばの祭りに行った際、メロンが入ったメロンソーダに目を引かれてしまい、購入。めちゃくちゃ美味しかった。

宮本葵の全作品
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僕の中学校生活がループしているので抜け出したいと思います。
Silens&Silentia シレンス・シレンティア
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