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Silens&Silentia シレンス・シレンティア  作者: 宮本葵
第一章「Silensとの出会い」
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ep.8 “入隊試験編Ⅱ”

 五月一日。月も変わり、五月に入った今日だが…。今日も今日で訓練がある。試験までは後一週間もない。寮のドアを開ける時に、手紙を一通見つけた。内容は「エラーが解消した。地下通路を使って行け」というもの。システムエラーがようやく解消されたのか。


「あ、おはよう、優斗。今日は地下通路でいいって」

「そうか、エラー解消したのか」


 僕らは顔を洗い、少し朝食をとって、歯を磨いて出発する。エレベーターで五階から地下一階へと降りる。空調設備やら電気設備の音でうるさいが、そんな中、立ち入り禁止とかかれたドアの横にあるカードを読み取る機械にカードをかざす。ドアは解除され、僕らは通路へと出る。出るのが早かったので、少しゆっくりと本部へ向かう。女子寮入口も通り過ぎ、もう少し歩くと、本部のドアが見えてくる。


「あ、蒼くん達やっと来た」

「あれ、岩城さんと中村さん、待ってたの?」

「早く着きすぎちゃったから待ってたんだよ〜。少し寒かった」

「だから中に入ろうといったのに…」


 岩城さんと中村さんと合流したところで中に入る。まだ誰も来ていないようだったが、桐生先輩がそこに居た。


「あ、蒼くんじゃない!久しぶりだね〜」

「お久しぶりです。桐生先輩」

「そんな改まらなくていいのよ。それよりも訓練どう?」

「まあまあです。だけど銃を使った戦闘でA組だけ全員生き残れましたよ」

「それは凄いじゃない!」


 なんだか、岩城さんが震えている。なんでだろう?


「私なんか、最初銃の使い方なんて…」


 すると、隣で岩城さんが小さく震えていた。とくに寒いわけでもなさそうだが、僕の腕にそっとしがみついてくる。


「先輩とはいえ……蒼くんを取らないでくださいねっ……!」

「「えっ!?」」

「…?」


 桐生先輩も目をぱちくりさせている。


「あらやだ、もしかして…彼女さん?」

「ち、違いますよ!岩城さん、どうしたの?」


 問い詰めても岩城さんは「むぅ〜〜……」と頬をふくらませるばかりだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「さて、全員集まったことだし。早速行きますよ」


 桐生先輩が候補生をまとめながら、部屋へと向かう。


「さあ、今日はここで、私と指揮官とでみっちり訓練するわよ〜!」

「え?」


 「武道場」のドアの前で皆が驚愕する。


「お、来たか、桐生。お前ら、今日は体術をやるから怪我しないよう準備運動は各自でやっておけよ。十分後始める」


 片浜指揮官がそう言って武道場の中へ入っていく。体術。聞いたことはあるがやったことはない。確か武器を使わず、自分の体だけで戦う方法だったような…。大抵兄弟喧嘩でも武器と言う名のクッションを使っているし。


「蒼、体術できるか?」

「できないよ、優斗は?」

「そりゃぁ、出来るわけがない」

「ちなみに私も無理」

「私は空手やってたからできるわよ」


 中村さん、昨日は銃の扱いが上手かったし今日も空手やってたとか言うし…。Silensに入るために来てるようにしか見えない…。


「桐生はSilensの中で一番体術に優れている。各クラス一人でも桐生を倒せたら訓練は終わり。いいな?」

「誰か一人でも…でいいんですか?」

「そうじゃないと一週間どころか、一ヶ月かかってしまうしな。誰かでいい」


 ザワザワと騒がしくなる。「そこまで強いのなら、もう少し弱い相手でも良かったんじゃ…」と優斗も言っていたが、多分、敵は先輩よりも強い人達なのかもしれないし…。


「いちいち喋るな。とにかく、午前は基礎を学べ。午後は一斉に、全クラスで一人に取り掛かってみろ。できれば一時間以内にはやってもらいたいが…。桐生もやりすぎるなよ」


 と言い残し、指揮官はその場を後にする。


「じゃあ、まずは、基礎から!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ただ殴り合ったり蹴り合ったりするんじゃない、相手の隙を見るんだよ」

「隙ってどこを見れば…」

「それは自分で見つけないと。毎回誰かに隙を教えてもらうわけにも行かないだろうし」


 基礎を学んだ後は、ひたすらペアで戦っていた。僕は優斗と戦っていたが、意外と隙をつかれて、倒されまくっていた。


「蒼、大丈夫か?」

「大丈夫かって…、優斗がやってきてるんでしょ」

「そうだよ…っ!」


 僕が戦えなさそうだと見せかけ、その隙を狙って、一発入れた。


「お、意外とやるじゃねえか、蒼」

「そっちも隙を見せたのが悪いんだよ」


 そうして、どちらもボロボロになりながら午前を終えた。

 昼休憩。昨日と同じように昼ごはんは配布され、クラスごとに食べる。


「女子たちはどうだった?」

「論外としか言えないわね。岩城さんが弱いって言うか、他の女子がか弱いと言うか…」

((中村さん鬼畜すぎる…!))

「男子の方はどうだったの?」

「まあまあかな、優斗が結構強かったよ」

「蒼も凄かったじゃん」


 と楽しみながらお昼を楽しむ。今日はカツカレーとサラダで、バランスが取られていながらもすごく美味しい。


「午後は桐生先輩との対戦かぁ〜」

「倒せるかな?」

「まずどのくらいかわからないから他のクラスが戦っているのを見るしかないようだけど…」


 他のクラスも同様、桐生先輩の実力はまだ見たことがないから、どう戦えばいいか。なんてわかるわけがない。


「全クラスで協力って訳でもないけど、全クラス一気に戦闘するんだしなぁ」

「それで一時間って……!」

「化け物?」

「誰が化け物だって、蒼くん?」


 後ろに桐生先輩がいたことも知らずに、僕は化け物と言ってしまったせいで…、なぜかこちょこちょされた。


「悪い子にはお仕置きだ〜ぁ」

「先輩、やめてくださ…い!」


 くすぐりは意外と弱い方なので、是非ともやめてもらいたかったが、さらに続ける先輩。


「へぇ〜、蒼くんってこちょこちょ弱いんだ〜」

「意外ね。強そうなのに、弱っちい面もあるもんだね」


 中村さんと岩城さんから容赦のない笑顔を向けられ、優斗だけが「がんばれ……」と苦笑してくれた昼休憩だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 遂に午後。桐生先輩vs二十人の戦いが始まろうとしていた。昨日とは違い、戦う場所は何もない空間。強いて言えば、事件が作られ、草が少し生えている、と言うくらいだ。


「じゃあ、ルールは簡単っ!私を一クラス一人だけで倒せたら終了。倒れたの定義は、地面に転ぶというもの限定で!それじゃあ——スタート!」


 桐生先輩が手をひらりと上げた瞬間、空気が弾けたように二十人が一斉に走り出した。大地を蹴る足音が重なり、砂埃がふわりと舞う。


「行けぇっ!」


 クラスの男子数人が先頭に立ち、左右から包囲する形で飛び込む。だが——。ふっと、視界から桐生先輩の身体が消えた。


「え?」

「待て、どこ——」


 次の瞬間、背後で乾いた音がする。


「っぐ……!」


 一人が後ろから肩を押さえられ、体勢を崩し、地面に転がる。その動きは速さというより“予測不能”だった。空気が少し揺れたと思ったら、先輩はすでに別の位置へ移動している。


「速……!」

「まだ来るぞ!」


 体勢を立て直すよりも早く、桐生先輩が踏み込み、懐へ滑り込むように低い姿勢を取る。その一動作だけで二人が同時に崩され、柔らかく地面に転がされた。


「え、なんで!?避けられたのか!?」

「読まれてる……!」


 先輩は攻撃を受け流すことに徹しているようで、一人ひとりを倒す動作も滑らかだ。肩や腕、重心を軽く押すだけで体勢を奪っている。倒しているというより、“進もうとした勢いを利用されて転ばされている”ようだった。


「団子になれ!包囲だ!」


 誰かの叫びで全員が散開し、半円状の包囲網を作る。それでも、桐生先輩は微動だにしない。風のように軽く逆方向へステップし、一瞬で包囲の“死角”へ抜ける。


「こっちだ!」


 男子二人が同時に飛びかかる。しかし桐生先輩は片方の腕を手の甲で軽く払うと、その勢いを逆に利用し、足を絡めてやんわりと倒す。もう片方は体重を預けた瞬間に腰を押され、前のめりに転がった。


「なっ……全然触れない……!」


 周りに残っていたメンバーが焦り始める。もちろん僕も、ほんの数メートル先にいるはずの先輩が“つかめない空気”みたいに見えていた。


「桐生先輩、倒す時、少しだけ体勢が低くなる……!」


 僕が呟くと、隣の優斗が頷く。


「その隙……狙えるか?」

「中村さん、いける?」

「やってみる!」


 中村さんが前に出て構える。桐生先輩をじっと見据え、タイミングをうかがう。その目は真剣そのものだった。


「……来なさい」


 桐生先輩は薄く笑い、軽く手招きする。挑発というより、実力を試すような柔らかい笑み。


「今!」


 中村さんが踏み出す。素早い踏み込み、鋭い回し蹴り——

 だが桐生先輩はそれを“予測していた”かのように首をわずかに傾け、空気が切れる音だけが残る。空振りした足が着地する瞬間、その足首の裏に軽く触れられる。


「——っ!」


 そのわずかな接触だけで体勢を崩され、中村さんは受け身で地面を転がった。


「くっ……すご……!」

「まだまだいくよ〜?」


 桐生先輩の声と同時に、残ったメンバーが再び突撃する。しかしもう先輩の身体は完全に“戦闘の流れ”に乗っていた。肩を押されて倒される者、腕を取られてくるりとひっくり返される者、踏み込みの勢いを利用されて柔道のように抑え込まれる者——

 だが誰一人、痛みを伴う倒され方はしていない。桐生先輩の動きは徹底して安全で、相手の勢いを奪って転ばせるものばかりだった。


「……これ、勝てる気しない……」

「でも蒼、何か考えないと——うわっ!?」


 僕が言葉を発する間にも優斗が背後から軽く押され、バランスを崩して転がっていく。気づけば、立っている人数は片手で数えられるほどに減っていた。

「よし、これで——全クラス、ほぼ終了かな?」


 桐生先輩が優しく手を払うような仕草をすると、残りの数人も緊張の糸が切れたように崩れ落ちた。まるで嵐のあとみたいに、しんと静まり返る訓練場。僕は立ったまま、ただ呆然とつぶやくしかなかった。


「……あれを倒せって、無理だろ……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「桐生。手加減というのはこういう事じゃないんだが…」

「え、間違えましたか?」

「いや、合ってはいるんだが、力を抜けと言っても、こういう事ではないような気がするのだが…。まあいい。全員立て!」


 指揮官と先輩の会話を聞いて、気づいた。桐生先輩は結構な天然かもしれないという事だ。手を抜け=怪我しないように倒すと考えている時点で勝てるわけがない。


「指揮官、これは流石に…」

「ああ、これは誰もどうしようもなかったから大丈夫だ。だが、軽傷なのに、倒れたままなのはみっともない」


 みんな、絶望していた。こんな最強キャラがもう登場してしまって、ボコボコに、だけど怪我なく軽く終わってしまったことに。


「明日はナイフの使い方を学んでもらいたいんだが…。よし、今日はもう本部に全員泊まっておけ。桐生、あとは頼む」

「え…?あ、はい!指揮官」


 俺たちはまだ床に座り込んだまま、互いの肩を貸し合いながら立ち上がった。体に大きな怪我はない。ただ、訓練で押し倒された衝撃が残っている程度だ。


「みんな、ごめん! あの…ちゃんと、気をつけて、やったつもりだったんだけど…」


 桐生先輩があたふたしながら頭を下げる。その姿があまりに必死で、思わず笑ってしまった。


「いや、先輩。僕たちのレベルが低いだけなんで…」

「そ、そうだよ。悪いのはこっち…!」


 みんなでフォローするように声を出すと、桐生先輩はますます困った顔になった。


「うう…優しくされると逆に痛む…」


 先輩のそんな言葉に、場の空気が少しだけ和らぎ、笑いが起こった。だがその直後、指揮官が振り返り、釘を刺すように言った。


「ああ、そうだ。明日はまた“模擬戦”も入れる。今日より楽とは思わないことだ」


 一瞬、空気が緊張する。桐生先輩が気まずそうに手を挙げる。


「あ、あの…明日の模擬戦、また私が担当なんですか?」

「当然だ。お前の技を近くで見て学ぶのが最も早い」

「わ、わかりました…!」


 桐生先輩がちょっと泣きそうな顔で返事をしたのを見て、僕たちは気づいた。――明日も絶対に地獄だ。しかし、逃げるわけにもいかない。これは“自分の身を守るための訓練”なのだ。


「じゃあ、行こう。仮眠室は奥だよ」


 桐生先輩が案内する。本部の廊下を歩きながら、優斗が小声で僕の耳元で囁いた。


「蒼…なぁ。俺ら、本当にこんな世界でやっていけんのかな…」

「さあ。でもやるしかないでしょ」


 そう返しながら、ふと、訓練場の遠くにあった観察室のライトが気になった。誰もいないはずの部屋で、わずかに光が瞬いた気がした。胸に、冷たい予感が走る。今日の訓練なんて、まだ“序章”にすぎない気がした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 仮眠室へ向かう途中で女子組と別れ、俺たち男子10人は、いかにも「合宿所の大部屋」みたいなスペースへ案内された。先輩に夕食の弁当を人数分もらい、部屋に入った瞬間、優斗が叫ぶ。


「めっちゃ広いじゃん! 今日ここ全部使っていいの!?」

「おい、走るなよ。怪我したら明日の模擬戦が…」


 そう言いかけた瞬間、ベッドへダイブするやつが3人。


「うおーーーー! 柔らけぇ!!」

「俺このベッド好きになったわ!」

「お前ら絶対あとで怒られるからな!」


 怒鳴りながらも笑ってしまう。個別の二段ベッドがいくつか並び、その端にはシャワー室。小学生の修学旅行を思い出すテンションだ。


「てかさ、さっきの桐生先輩、マジで強くね?」

「強いとかいう次元じゃないだろ…」

「いや、俺、あれ“手加減”って言われたら、もうどうしようもないんだけど」


 みんなで一斉に笑う。恐怖と緊張でぐちゃぐちゃになっていた気分が、一気にほぐれた。


「蒼、お前どう思った? あの人、天然っぽいよな!」

「うん、多分あれで真剣なんだと思う」

「なにそれ、可愛…いや違う、危なすぎる」


 優斗が取り繕ったように咳払いし、みんながどっと笑う。

 しばらく騒いだあと、だれかが持ち込んだカードゲームが始まり、「絶対声出すなよ!」と言われたくせに、結局みんなで叫んでしまった。訓練生としての緊張と、普通の中学生っぽい楽しさが混ざって、不思議な一体感が生まれていた。


「明日、起きられるかなぁ…」

「無理。絶対誰か寝坊する」

「いや全員だろ」


 そんなことを話しながら、消灯時間が近づき、騒ぎも落ち着いた。誰かがぽつりと言う。


「でもさ…明日、どうなるんだろうな」

「さあ。でも、みんなでいればなんとかなるだろ」


 そう言って笑うと、暗い天井の向こうに、自分でも説明できないざわついた感覚が広がった。――ただの勘であってくれ、と願う。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その頃、本部のさらに下。“立ち入り禁止”と表示されたフロアの奥で、黒いパーカーの影が、コンソール前に腰を下ろしていた。


「ふふ…訓練生の初日か。いいね、順調に混乱してる」


 モニターに、今日の訓練映像が流れている。影はキーボードを軽く叩くと、画面に赤字の警告が走った。《警告:管制システムの一部が外部操作を受けています》


「気づくのが遅いんだよ、ここの連中は」


 淡々とつぶやく。


「さあ……明日の“模擬戦”とやらに、ちょっとしたスパイスを入れてやるか」


 影はヘッドホンを耳にかけ、画面に映る訓練生たちの名簿をゆっくりとスクロールさせた。


「特に、お前ら三人は気になるんだよなぁ……」


 カーソルが止まる。岩城、紙山、中村、宮本の名前のところで。影は薄く笑った。


「さて……運命を変えてあげよう」


 操作音だけが静かな空間に響く。明日、誰も予想できない“何か”が起こるとも知らずに。

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-著者 宮本葵-
茨城県南部出身。中学2年生。鹿行地域とは違ってメロンをたくさん食べれないところに住んでいる、メロン好き。バナナも好きだがやはりメロン。最近、つくばの祭りに行った際、メロンが入ったメロンソーダに目を引かれてしまい、購入。めちゃくちゃ美味しかった。

宮本葵の全作品
誰も信用できなくなった俺の前に、明日から転校してくる美少女が現れた。
<ラブコメ作家>は<恋>しなきゃ!
僕の中学校生活がループしているので抜け出したいと思います。
Silens&Silentia シレンス・シレンティア
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