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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
35/36

034 カル・ヴェインの空

さらに予定が詰まって大焦り中です。毎日投稿はなんとかしたい

丘を越えると、風が変わった。


潮の香りと、石畳を叩く靴音の響き。広がる空の下に、白い街並みが段状に重なっていた。海沿いの港町。石造りの家々、階段状の通り、中央には時計塔。そして、どこか牧歌的なBGMが耳をくすぐる。


「……いい場所だな」


思わず漏れた独り言に、隣の創零が横目でこちらを見る。


ここまでの道のりは長かった。起伏だらけの森と、崖道と、気まぐれな天候。ようやく落ち着けそうな場所にたどり着いた、そんな実感があった。


二人で通りを下る。途中、露店では香辛料の効いた魚のスープが煮え、子ども型NPCが追いかけっこしている。建物の合間から見える海面は、どこまでも青かった。


そして、街の広場に差しかかったときだった。


「……あれ、何?」


創零が指を差した先。赤と銀の旗がはためき、特設ステージらしき場所が設営されていた。横には仮設の整備小屋と、なにやら大きな金属塊が数台。


その中央に立つ看板には、大きくこう書かれていた。


《疾風杯—ウィンドチャリオット・カップ—》

空を駆け抜ける魔導車レース、ここに開幕。

マシン持込・改造自由/優勝者には特別報酬あり


「レースイベントか……」


シュウユは、ざっと概要を読む。どうやらプレイヤーが自作・改造した魔導車、通称チャリオットで空中コースを競う形式らしい。乗り物を作って走る、というMMOにはよくある系統のサイドイベント……なのだが。


「これ、ちょっと面白そう」


創零が呟いた。


その声には、少しだけ熱があった。普段は無表情で静かな彼にしては珍しいほどの、素直な興味。


「シュウユ。作ろうよ。マシン。走ってみたい」


街の風と匂いと、軽やかな空気。


「よし、じゃあ作るか!」


すでに頭の中では、決まっていた。

作る。そして、出る。《疾風杯》。


“本気で遊ぶ”。そう決めた。


「ちょっと整理すっか」


宿に戻ったシュウユは、インベントリを展開した。

素材欄の一部をフィルタリング。雷属性を中心に、最近の討伐・探索で手に入れた部品群が浮かび上がる。


【魔導圧縮瓶(青)×42】

【共通車軸ベースフレーム×16】

【古鉄製パネルボルト×120】

【安定型魔晶板×24】

【焦げた導管コード×37】

【不完全ブースター部品×9】

【空獣の帯電コア×1】(★レア)

【兵装ユニット(外装)×1】(★レア)

【雷鱗竜の背棘×2】(★レア)


「ボトル系と部品フレーム、これだけあれば……換金もいけるな」


 使う予定のないパーツ類を選び、シュウユは商会系NPCに持ち込み換金を依頼した。

 表示された総額は、約3200万K。


「これと、手持ち合わせて……製作費、足りるな」


その足で向かったのは、街の西端にある整備屋《スパナ工房》。

熟練NPC技師たちが集まる、カスタム魔導ギア専門の工房だ。


「よう、作成依頼だ。持ち込み素材で、仕様は特殊」


受付でそう言いながら、シュウユは自信たっぷりに素材データを展開する。


【製作依頼内容】


ベース形態:四輪走行式チャリオット(雷属性特化)


機構拡張:変形ギミック(跳躍⇨人型戦闘フォームへ移行)


武装搭載:中距離魔導射撃機構+副腕展開


推進装置:ブースター反転機構


「……まじか。これ作んのか?」


親方NPCが表示された設計プランを見て、顔をしかめる。

だが次の瞬間、ニヤリと笑った。


「……面白そうじゃねえか」


作業はすぐに開始された。

パーツはすでに揃っている。設計図も、方向性も明確。


ブーストコアに雷晶核を据え、外装フレームに魔獣の鱗を重ね、

内部構造にはかつて倒した人型兵器由来のパーツが組み込まれる。


“これは本当に車なのか?”

そう思いたくなる異形のシルエットが、少しずつ形を成していく。


そして——完成。


その姿は、雷と鋼と謎が融合した、唯一無二の魔導兵装だった。


「名前は……まだ決めない」


組み上がった機体を見つめながら、シュウユはぽつりと呟いた。


「走って、飛んで、勝ったときに。……きっと浮かぶだろ」

お読み頂き誠にありがとうございます。

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