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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
22/39

021 魔式残響体戦

視界が淡い光に包まれ、脳が“感覚の同期”を完了したと認識した瞬間――


風の匂いが、ふっと鼻をくすぐった。


「……よし、再起動」


シュウユはゆっくりと目を開ける。

そこは変わらず、果樹と花が咲き乱れる〈眠らざる庭園〉の中央。

ログアウト前に腰掛けていた焚き火の前に、ちゃんと戻っていた。


「……はぁ〜、ちょっと寝すぎたか?」


時刻は昼前。

休日だからと安心して寝坊した結果、ログインは10時を過ぎていた。


だが、庭の空は変わらず青く、鳥の囀りすら心地いい。


まるで「おかえり」とでも言っているかのような穏やかさに、シュウユの口元が自然とほころぶ。


「……よっしゃ、続きいくか。今日は何があるかな」


〈眠らざる庭園〉の、次なる一日が始まろうとしていた。


枝を結んだ柵の向こう、畑には緑の芽がそろい始めていた。


戦いの記憶を残したこの土地に、今は静かな風が吹いている。

土を耕し、小川を整え、作物の成長に目を細める時間。それはシュウユにとって、初めての“育てる日々”だった。


「……こっちのトマト、ちょっと実が重たすぎるな。茎が折れちまいそうだ」


「支柱、もう一本立てようか?」


創零が、地面に手を当てると、細い根が地中からのびて支柱代わりの小枝を絡め取っていく。


「サンキュ。やっぱ手慣れてきたな、創零」


「うん。最初より、ずっと上手くできるようになった」


そのやり取りを聞いていた鳥が、木陰でコツンと嘴を打ち合わせ、鳴いた。


だがその直後、静かな空気に小さな“ゆらぎ”が混ざった。


「……あれ?」


創零が首を傾げる。周囲の木々が、風もないのにざわめいた。


「風じゃねぇ……魔力の反応、だな」


シュウユも立ち上がり、即座に右手の杖を引き抜いた。


その瞬間だった。


地面が、震えた。


ドン、と一度。だが、明らかに自然の揺れとは異なる周期。

大地そのものが、何かの“拍動”に呼応したような、重い振動だった。


「これ、魔力源が反応してる……?」


創零の声に、庭の鳥たちが一斉に飛び立つ。


畑の中央。あのトマトの根元の下。

さきほど支柱を埋めた、あの場所の下から――


“光”が、漏れ始めていた。


「ちょっと待て……まさか、あそこに“何か”が眠ってたのか……?」


シュウユが思わず後退しつつ、魔式〈感知陣〉を展開。


視界に浮かび上がったのは、地下深くを走る複雑な魔力ライン。


〈警告:魔式残響体、感知〉

〈警告:領域干渉値、閾値突破〉


表示ログに、赤い点滅が走る。


「おいおい……畑の下で何あんだよ!」


そして地面が、ふたたび鳴動した。


――異変が始まろうとしていた。


地中から吹き上がる光柱が、庭園の空を照らしていた。


その中心に、シュウユと創零は立っていた。

木々がざわめき、地面が波打つ。

まるで、この庭そのものが“目を覚ました”かのような反応だった。


「創零。あの光、ヤバいやつだな」


「……うん。“開こう”としてる。ずっと、閉じてた扉が」


地表が砕ける音と共に、トマトの根元が裂ける。


そこから現れたのは、鉄の枝のような複雑な構造体――いや、魔力で構築された根の機械群。

螺旋状に編まれた金属の蔓が、地面を引き裂きながらせり上がっていく。


〈起動コード:RLF-RCT/ROOT-07〉

〈指定オブジェクト:魔式残響体リフレクター・ルート


「魔式残響体……っつーことは、魔式の一種か?」


《リフレクター・ルート》は、地中から半身を露出させると、無数の根状触手を四方に伸ばし、庭園の構造そのものに干渉し始めた。


〈領域拡張開始〉

〈対象:自然物構造因子〉

〈命令:武装化〉


──その瞬間。


庭の木々が、花が、石が、空気すらが“武器”へと変貌する。


一本の木が音もなく枝を伸ばし、鞭のように振るわれた。

それは空気を裂き、避けなければシュウユの首を持っていく威力だった。


「速っ……! 創零、後ろ!」


「うんっ!」


〈空中歩行〉――創零が軽やかに跳び上がり、頭上に枝を巻きつけて動きを殺す。


「庭が……敵になった」


「あいつがこの空間の支配権を握ってるってことか」


シュウユは素早く〈ファントムクラッチ〉を発動し、暴走する枝を拘束。

魔力の鎖が地面から伸び、敵性オブジェクトの“魔力信号”を封じる。


だが、次の瞬間、地面が爆ぜた。


石畳の一角が持ち上がり、巨大な“牙”のように変形。

それがアーチ状に跳ね上がり、真上からシュウユを狙ってくる。


「っぶな……!」


即座に〈短距離転移〉で退避――滑るように数メートル右へ移動。

だがその着地地点にも、今度は地面から“杭”が突き上がってくる。


「連携攻撃……? あいつ、地形と連動してるな」


一手先、二手先を読まなければ即死。

しかも、魔式の展開反応が通常より0.3秒遅い。TEC不足による挙動遅延だ。


(やべぇ……これ、俺のビルドだと読み違えたらマジで終わるやつ)


その間にも、創零が〈根制御〉で空間に防御フィールドを形成していた。


「シュウユ、時間稼ぐ! 私が地中へのルートを固定する!」


「助かる! そっちは任せた!」


彼は杖と剣を構え、〈疾翔〉で跳びながら視界の端に点を打つ。


この戦いは、真正面から殴り合うようなバトルではない。


“読み”と“展開”、そして“連携”。


〈眠らざる庭園〉の防衛戦が、今始まる。


地面が唸り、空が軋んだ。


眠らざる庭園は、まるで“異物”を排除しようとする免疫のように、周囲の自然物すべてを武装化していた。

その中枢――魔式残響体リフレクター・ルートは、今やこの領域を完全に掌握している。


「……くそ、読めてきた。連携してるのは地形ごとだ。だから、木が揺れるタイミングと、石畳の変化がセットになってる」


シュウユはひとつ深呼吸し、〈空中歩行〉で浮上。

その間にも枝が蛇のように襲いかかってくるが、彼は跳躍で視線を外す。


「創零、こっちに“転位アンカー”設置してくれ!」


「了解! 三点、同時投下!」


創零が放つ、蒼い光の杭が空間に突き立つ。

それぞれが座標として空間に魔力の“足場”を構築する。


「よし、いける」


シュウユは、自らの魔式を“変形”させる。

〈短距離転移〉を基盤に、転位アンカーを経由させることで三段ステップ式の転移術式へと変化。


「――《魔式変容》……通るよな?」


咆哮のように空気が震えた。だがその直後、彼の姿は“弾けるように”消える。


「一段目……火力回避!」


木々が火を噴き、追尾するように枝を打ち出す。

だが彼はそれを掠めるように回避し、次のアンカーへ。


「二段目、切り返し用!」


〈疾翔〉と〈ファントムクラッチ〉を同時展開。

鞭のように迫る蔓を捕縛し、空中で反転して敵性の魔力触手を“自壊”させる。


「三段目……とどめに使える!」


地上で、リフレクター・ルートの“本体”が顔を出す。

地面から生えた金属の蔓が中心に集まり、“制御核”らしき光球を守っていた。


(あそこだ……“核”にアクセスできれば、この空間の支配構造が崩せる!)


その瞬間、脳裏に流れ込むような感覚が走る。


〈条件達成:魔式合成「転移連携陣」生成可能〉

〈習得:擬似魔式【転陣変環】〉


「よっしゃあああああああ!」


魔力の陣が空中に五重展開される。

そのすべてをリンクしながら、彼は“滑るように”突っ込む。


「創零、守りお願い!」


「うん、任せて!」


創零が地面から根を引き上げ、魔式防壁を形成。

その中を突き抜けて、シュウユが突撃する。


〈擬似魔式:転陣変環〉

──五つの転位陣を通過しながら、“流れ”を魔力に変換して撃ち出す、連携型の魔式打撃。


その斬撃は、剣ですらなかった。

風圧と空間のひずみを伴って、本体の“制御核”を貫いた。


爆ぜるように魔力が逆流し、庭園全体が一瞬、沈黙する。


「やった……!?」


しかし、その時。


〈警告:拡張式防衛機構ミラーディザスター起動〉

〈再構築フェーズ:開始〉


目の前に浮かぶ光の殻が、再び姿を変え始める。


「やっぱ、一筋縄じゃいかねぇか……」


シュウユは、再び剣を構え直した。


辺り一帯が光に染まった。空すら歪むような異常な魔力の圧に、シュウユの足元が揺れる。


〈ミラーディザスター〉――最終防衛機構。

魔力の流れを「反転」させ、術者の“意志”すら跳ね返す反射結界。


「……なるほど、“強すぎる意志”を持ったヤツほど、殺しにかかってくるってワケか」


結界の中心には、さっき破壊したはずの制御核が、再構築されつつあった。

透明な球体の中で、無数の魔力の糸が絡み、世界を読み換えようとしている。


「創零、どうなってる!」


「ダメ……! 今のあれ、“再演”されてる……この庭の記憶を巻き戻してるの……!」


「記憶を、だと?」


理解が追いつかないほどの演算処理。その速度と規模は、もはや“ただの防衛装置”の域を超えていた。


「つまり……」


シュウユの口元が歪む。


「……こいつ、“時間”すら魔式で組み換えようとしてやがる!」


もはや遊びではない。

それでも、笑みが浮かぶ。


「――だったら、こっちも“全力の遊び”で返すだけだろ?」


彼は転移座標を空間に七つ、次々と撃ち込んでいく。

それぞれに〈偽蛇王転位陣〉の構造を重ね、魔力の“収束ルート”を組み立て始めた。


「創零、チャージ用の魔力、貸してくれ!」


「うんっ、全部あげる!」


手を重ねると、薄紫の光が流れ込み、転位陣の輝きが強まる。


(一度だけ。使い切りでいい。けど、これ以上は“過剰制御”になる)


テクニカル(TEC)1の限界が牙を剥く。魔力の“制御バッファ”が崩れはじめ、視界にノイズが走る。


「わかってる……けど、今は“感じろ”。考えるんじゃねぇ。感じた通りに、流せ!」


彼の中で、魔式とスキルが“融合”する。

〈疾翔〉と〈転移〉、〈ファントムクラッチ〉と〈転位陣〉、すべての手札を“一手”にまとめ――


「“最高”の一手、決めてやるよ!」


空間を裂き、シュウユの身体が7つの転位点を滑空する。

彼自身が“刃”となり、魔力の網の中心へと飛び込んだ。


〈終局魔式:転環絶対陣〉


七連転移、最終一閃――

破壊と再構築を同時に起こす、境界の魔式。


「消えてもらおうか。お前の過去も、記憶も!」


最後の突撃で、彼は核の中心に突き刺さる。

光が爆ぜ――そして、静寂が訪れた。


……


数秒後。崩れた地面の中央に、シュウユが倒れ込む。だがその顔には、笑みが残っていた。


創零が駆け寄り、その手を取る。


「……おかえり」


「ただいま」



お読み頂き誠にありがとうございます。

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