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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
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21/39

020 風と魔式と、ごろ寝ベンチ

風の向きが、変わった。


それは、ほんのわずかな変化だった。

だが〈眠らざる庭園〉においては、それだけで十分だった。


「風車の音が、……少し、ちがう」


創零がぽつりと呟いた。

小さな丘の上に建てられた風車が、朝日を浴びて低く鳴っている。


「たしかに、回転音が重くなってるな。……これ、時間帯の概念、入り始めてるな」


シュウユは草をかき分け、風車の土台を確認する。

風の流れと魔力の密度――この空間に“リズム”が刻まれはじめている証拠だった。


「じゃあ次は、“景観”だな」


「けいかん?」


「そ。そろそろ、俺たちで“どんな庭にしたいか”って決めてもいい頃だろ」


草原と森の境界。丘、池、木立。

いままでただの自然構成だった空間に、意図を入れていく。

それは、“ただの地形”を、“意味ある世界”に変えていく作業だ。


「どんな感じにしたい?」


創零は、しばらく考えてから言った。


「……やわらかい、風。 でも、深くて、あったかい場所」


「ふむ。なら、林の密度を上げて、熱魔式で空気を温めて――水場の近くに寝床ポイントを作るか」


「それ、いい」


二人は手分けして、周囲の構造を調べていく。


地形情報を確認しながら、魔式〈環境制御〉を局所的に試す。

風向き、音の反響、光の反射、匂いの流れ。すべてがフィールドの“雰囲気”を作る。


「……あれ、ログ出たぞ」


【補足ログ:微小転移痕跡を検出】

・経路:非公式サーバールート経由

・経由地点:███.███.A7(旧テスト領域)

・詳細:0.3秒の視認ログ取得に失敗


「なんだこれ……誰か、見た?」


「“ちょっとだけ”見られた、かも。……でも、まだ、入られてはない」


「……この場所、気づかれてきてるな」


「それって、やばい?」


「いや。むしろ“そろそろ来る頃”ってことだ。世界が変われば、人も寄ってくる」


だが、今はまだ、準備中だ。


シュウユは風車の前に立ち、風を感じる。


あと少しだけ、ここを“整え”よう。

誰が来ても、俺たちがここに居たって――ちゃんとわかるように。


「――このあたり、どう思う?」


小高い丘の斜面。

風車から少し下ったその一角は、ほどよく陽が差し、木漏れ日が揺れていた。


「……好き。ここ、あったかい」


創零が素直に頷く。

枝の合間から差す光が、金髪をやわらかく照らしていた。


「じゃあここに、ベンチでも置くか。……いや、寝転がれるくらいの、でかいやつにしようぜ」


「ベンチって……寝るためのもの?」


「座るって選択肢、俺にはあんまないんだよ。基本、寝たい」


「ふふ……変な人」


シュウユは笑って、草を踏みならし、魔式を展開した。


〈簡易構造生成〉。素材指定:周囲の落枝と苔。

魔力で編み、形を整え、厚みを与える。


「ほい、できた。名付けて“ごろ寝ベンチ一号”」


「一号?」


「増える気がするからな、こういうの」


二人はその“ベンチ”に寝そべった。

風の音と、遠くで跳ねる水音が、心地よく耳を満たす。


【非登録領域:ネームデータ入力を検出】

└ 登録タグ:〈眠らざる庭園〉

└ 仮称:Unauthorized Area #34

└ ログ送信先:メインサーバー管理中枢


「おいおい、ログ出てるぞ。」


「大丈夫?」


「まあ、大丈夫だろう」


そして、その頃。


SNS上では、あるスクリーンショットがじわじわと拡散され始めていた。


『未登録エリアで取得したログなんだけど、これ……何か知ってる人いる?』

──画像に映るのは、「眠らざる庭園」という文字列と、微かな緑に包まれた風景。


「いいねの伸び、早すぎるな……。さて、いよいよ面白くなってきたな」


「誰か、来るの?」


「ああ。きっと、そろそろ“世界”がこっちに顔を出す」


風がまた、違う音を立てた。


“庭”が名を得た瞬間、その音は確かに“世界と繋がった”ものに変わっていた。


果樹の葉がそよぎ、月光が庭の池にゆらりと反射していた。

焚き火の前に腰を下ろしたシュウユは、深く息を吐き出す。


「……今日は、色々あったなぁ」


火花がぱち、と弾ける。

長かった。気づけば、最初のログインから丸一日が経とうとしている。


初期ステータスは紙装甲。

スキルも魔式も手探り。

攻略なんてそっちのけで、目に入った面白そうなものへ飛び込んで――気づけば、ここまで来た。


〈擬似小八岐大蛇〉との死闘も、

“あの子”との出会いも、

そして〈眠らざる庭園〉という名の楽園も。


「……マジで、一日でここまでやるヤツ、俺くらいじゃね?」


自嘲気味に笑って、頭をかく。


「でも――めっちゃ楽しかった」


現実ではもう深夜三時。

休日とはいえ、そろそろ限界だ。


「よし、今日はここまで。明日からも、感張るか」


魔式端末に手をかざす。

ほんの少しだけ、創零の方を振り返る。


「あいつも、変わったよな……」


ログアウトの光が体を包む。


「……また明日な」


庭の風景がゆっくりと薄れていく。


こうして、全力で駆け抜けた最初の一日が、終わりを告げた。

お読み頂き誠にありがとうございます

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