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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
20/39

019 未登録座標の灯火

《NeoEden》開発本部の観測システムは、今も黙って“そこ”を見ていた。


――《眠らざる庭園》。


観測班は黙っていた。

“黙認”するという判断が下された以上、下手に干渉するわけにもいかない。


(……問題が起きれば即座に対処する。だが、今はただ……見守る)


そんな視線の外で、草の上。

シュウユは風車の支柱を抱え、うんうん唸っていた。


「マジでこれ、ただの“回るだけ”じゃねぇの?」


地面には、創零が再構築したらしい歪な魔力炉――

〈風圧式魔力回収炉:A-Type〉の試作型。


「けど、これ、“ちょっとだけ”たまる、らしい」


「“ちょっとだけ”って、お前……せめてどのくらいとか言えよな」


「……たしか、ねこの、のどくらい」


「ねこのど基準かよ」


草むらに笑いが漏れる。

シュウユは支柱をぐっと押し込んで固定し、軽く叩くと、カラカラと羽根が回り始めた。


風が抜け、草がなびく。


そして、ごくわずかに。

回転に合わせて、地面に淡い魔素の光が浮かび上がった。


「……お?」


「まわった」


「いや、これ……ガチで魔力吸ってるんじゃね?」


指先に触れた空気の流れが、微細に変化していた。

転移魔式で感じる“流れ”に近い。魔力が、どこかに集められている感覚。


「つまり、これは“発電所”だな。俺たちの庭のな」


「……はつでんしょ?」


「うん、まあ、なんかそんな感じのやつ」


風が吹く。草が揺れる。

だが、それはただの“風景”ではなくなっていた。


「なあ、創零」


「……なに?」


「こっから、どうなると思う?」


少しだけ考えてから、創零は言った。


「みえる、ようになる。きっと、そのうち。

 この“ばしょ”が、ちゃんとした、“場所”として」


「マップに表示されるってこと?」


「うん。でも、いまは、まだ、ひとつの“きざし”」


その言葉と同時だった。


風車がひときわ大きく回転し、内部でカコン、と何かが嵌まる音がした。


すぐさま、地面に沿って魔力のラインが広がる。

光は淡く、しかし確かに“座標”を描いていた。


〈新規エネルギー圏の発生を確認〉

〈未登録マップ範囲:圧力波動ログ補足中〉


ただし、それを検知できるのは――今のところ、観測中の開発チームだけ。


外のプレイヤーには、この地はまだ“存在しない”。


しかし、確かに。

眠らざる庭園は今、世界に対して“名乗り始めたのだった。


地面が、脈動していた。


風車の回転に合わせ、草原の表面を這うように魔力のラインが伸びる。

そのラインは風に乗る葉を避けるように、まるで“意志”でも持つかのような動きで広がっていた。


「……これ、ただのエネルギー収束じゃねぇな」


シュウユは呟いた。


創零が隣で小さく頷く。


「“地”に、なっていってる。ここ」


「……地?」


「うん。いままでは、“あるだけ”だった。けど、これは“あるように作られてる”感じ」


確かに、違和感はあった。


見た目は変わらない。

けれどその下に、何かが“根を張っている”ような、奇妙な密度がある。


空間が、整っていく感覚。


視界の端に、かすかな違和感が表示された。


【エリア更新ログ】

・地点座標:███.███.Z-13

・ステータス:構造安定化進行中(12%)

・名称:――未登録


【補足メモリー】

・エリア名:眠らざる庭園

・分類:特殊構造環境(限定拡張マップ)


シュウユの目が細くなる。


「“ログが出た”ってことは……ついに、世界に記録されたな」


「……みとめられた?」


「少なくとも、“ある”ってことになった」


ゲームの上では、存在しないものは“ない”も同然だ。

だが今、眠らざる庭園はログに載った。意味のある“場所”になり始めている。


(俺たちの作った、たった一つの場所が――)


その時、風車が再び“重く”回転した。


地面の奥で、ごう、と小さな風音が響く。


次の瞬間、丘の麓にあった何もない空間が、ふっと淡く光った。


「……っ、座標転移反応?」


「ちがう、これは……新しい、地形、の根」


創零が指先を伸ばす。


草の奥、地面の浅い部分に、繊細な魔力の繊維が網のように張り巡らされていた。

それは魔法でもスキルでもない、“空間構造の自動調整”。

《NeoEden》の自己修復機能が、この場所を正式な“フィールド”として認識し始めている証だった。


【観測ログ:ALERT】

・未登録エリア「眠らざる庭園」にて自己進化型地形変化を確認

・影響半径:現在0.4km(進行中)

・外部転移制限:維持中

・プレイヤー感知範囲:非表示(継続)


「これ……あと何日かしたら、外から見えるようになるかもな」


「そしたら、きっと……“くる”?」


「ああ。くるだろうな。プレイヤーも、もしかしたら……運営側の“誰か”もな」


シュウユは立ち上がった。


草原の中心。

そこに立てた風車が、今日もゆっくり、ゆっくりと回っている。


風は穏やかだった。

だが、その下で動いているものは、確かに世界を動かし始めていた。

お読み頂き誠にありがとうございました。

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