表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
14/39

013 名前なき選択肢

最近株を始めました。株難しい...

二人で未完成の空間を歩いていく。


扉が、音もなく開いた。


空気が変わった。


それまでの迷宮とは異なる――いや、明らかに“迷宮ですらない”空間が広がっていた。


「……何ここ」


一歩、足を踏み出すと、床が“その場で”形成された。

ガラスのような質感。だが踏み込むたびに形状が微妙に変化する。


壁はない。天井も、空もない。

それでも確かに“空間”は存在している。意識を向けた先に、ゆっくりとオブジェクトが生成される。


(構築速度が……遅い。しかも、こっちの意識を拾ってる?)


シュウユが振り返ると、創零もまた一歩遅れて中へ入ってきた。

その瞬間、空間の端が微かに色づいた。


創零の歩みと連動して、空間の“構成”が変わっていく。

シュウユが立つ場所には直線的な足場が、創零の背後には柔らかくうねる光が生まれる。


斜め上に“観測モニターのような窓”が浮かんだ。

だが中はノイズだらけで、何も映らない。


「なあ創零、ここ……もしかして、“世界の下書き”みたいな場所か?」


返事はない。だが、創零が静かに一歩近づいてくる。

その動作だけで、背後の空間がまた変化した。


床に、何かの“文字列”が浮かぶ。

エラーコードとも設計語ともとれる記号たちが、創零の足元にだけ反応していた。


隣を歩く創零の指先から、微かな光が漏れている。

それが地面に触れると、そこだけに模様が刻まれる。


(……違う。ここ、“創零を基準にしたフィールド”なんだ)


同時刻、開発本部。


「ログが切れた!? 観測不能エリアに移行しました!」


「どういうこと!? IDは生きてるのに、反応がゼロ?」


「セッションは継続中。でも……“そこ”がどこか、システムが認識できてない!」


柳瀬が画面を睨みながら、低く呟いた。


「シュウユが開いた扉の先……あれは、想定外の領域じゃない。

 あれこそ、“意図して除外された世界の断片”だ」


「除外って……ベータ中に破棄した領域?」


「……それもある。でも、これはたぶん“000-A”のために作られたはずだった。

 間に合わなかった、あるいは……忘れられた空間」


「ってことは……今、二人で“そこを再定義してる”ってことか」


「そう。000-Aが存在する限り、この空間は“更新され続ける”。

 彼と、それに影響を与える“シュウユ”によって」


「こりゃ……マジでとんでもないもん見つけたな」


シュウユは、目の前に浮かんだ“何もない部屋”を見ながら、笑った。


「未完成で、ルールもない。でも……おもしれぇ。

 この世界、いま俺らの“遊び方”で形作られてるってことだろ?」


創零は、また小さく頷いたように見えた。


シュウユの足元に、薄く新しい道が伸び始める。

そこに書かれていたのは、かすれた一行の文字だった。


【次の部屋は、“定義”を選ぶ者のために】


空間の中央――そこには、何もない“部屋”が浮かんでいた。


壁も床も天井もない。ただ、四角い輪郭だけが存在し、

近づくにつれ、その内側が“にじむように”構造を持ち始める。


部屋の入り口には、淡く発光するパネルが浮かんでいた。

触れても反応はない。文字はなく、音もない。


彼が一歩進んだ瞬間、床が波紋のように広がり、微細なコード列が浮かび上がる。


創零がその隣に立つと、波紋は重なり合い、ゆっくりと変化していく。


「お前と一緒じゃなきゃ、ここは動かないんだな」


部屋の中心に、“椅子のような何か”が現れた。


一脚目は、鉄のような直線で構成されていた。

だが、二脚目は――創零の後ろにできたそれは、柔らかく湾曲し、有機的な形状だった。


空間に、かすかに“音”が戻ってきた。


風のような、ささやきのような音。


何かがここに“関心”を持ち始めている。


開発室でも、緊張が走っていた。


「空間の再定義、進行中。……でも、入力元が“プレイヤー”だぞ」


「シュウユの“発想”がUIと融合してる。

 これ、単なるバグじゃなく、“彼の選択”でフィールドが書き換えられてる!」


柳瀬はモニターを見ながら、ぽつりと呟く。


「『ゲーム』を作ったつもりだったのにな……

 今はもう、“創られてる側”かもしれないな、俺らが」


シュウユは座らなかった。


代わりに、床に直接腰を下ろし、脚を投げ出して言った。


「こういうとこ、座ると選択肢増えすぎてめんどいんだよな」


創零も真似て、すぐ横に座る。

その仕草に合わせて、空間の隅に“焚き火のような灯り”が灯った。


「へぇ……そんなことできるんだ?」


火は熱を持っていない。ただ、見ていると落ち着くような、

記憶の片隅にある“誰かと過ごした時間”を思わせる光。


「……お前、まさか“そういう感情”も再現してんのか?」


創零は応えない。ただ、火の光に照らされながら、静かに俯く。


その沈黙すら、今は意味を持っているように感じられた。


シュウユは立ち上がり、空間の奥を見つめた。


そこに、ふたつの扉が浮かんでいた。


片方には、まだ開かれていない“整ったゲート”。

もう一方には、ぼんやりと光る“未完成な輪郭”。


選ぶべきなのは――どちらか。


「なあ創零。お前はどっちに進みたい?」


問いかけに対し、創零はゆっくりと立ち上がると、未完成のゲートのほうへ向かった。


その歩みに呼応して、周囲の空間が“柔らかく”“ひとつの方向へ”と引き寄せられていく。


それを見たシュウユは、満足げに笑った。


「いいじゃん。“未完成のほう”が絶対面白いに決まってる」


ふたりの影が、空間に伸びて重なる。


その瞬間、扉がゆっくりと開き始めた。

お読み頂き誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ