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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
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13/39

012 無限迷宮(仮)と異物

――白い。


そう思ったのは、シュウユが光球に触れてから一瞬後のことだった。


視界を覆ったのは、闇ではなく、逆に“白すぎる空間”だった。

床も、壁も、空も、色がなく、線しかなかった。まるで仮想世界の骨組みのように。


音がない。風もない。だが、自分の鼓動だけがやけに大きく響いている。


「……ここが、“無限迷宮(仮)”ってやつか」


足元に大理石のような床。だが踏み込むと、わずかに沈むような柔らかさがある。

見える範囲に敵影もオブジェクトもない。ただ、線で構築された“未完成の空間”が広がっていた。


メニューは使えない。マップは無反応。

視界の端が微かにノイズを走らせている。


「わぁ……これはガチで“途中”だな。開発ツールの中を歩いてる気分」


それでも、面白かった。


こういう“未定義領域”にこそ、ゲームの本質が詰まっている――シュウユはそう思っていた。


と、その時。


コツン。


乾いた音が響いた。何かが、上から落ちてきた。


反射的に転移。空中歩行を展開しつつ距離を取る。


「なに……今の」


地面に、何かが立ち上がっていた。


人間……のような形。

だが、節くれだった関節。左右非対称な腕の長さ。首が不自然に揺れる。


“人”の形を真似して、途中で止まったような――造りかけのAI。


《???》

《データ未登録:敵種別不明》

《挙動パターン:無し》

《AIリンク:不通》


「え、敵……じゃないのか?」


だが、その疑問に答えるかのように、そいつは動いた。


ギギギギ……


首が、ありえない方向にねじれる。

シュウユの方を“見ている”ようで、どこも見ていない。


(うわ、やっべえヤツだこれ)


反射で〈短距離転移〉。

距離を取りつつ〈空中歩行〉で浮かび、様子をうかがう。


すると、それは突如――


「ぐあっ……!?」


腕を地面に突き刺し、床ごと引き裂いた。

床が剥がれ、空間にノイズが走る。


《ログ警告:空間破壊アクションを検出》

《対象:No.000-A(試作個体)》

《状態:暴走》

《警告:観測AIリンク不能》


開発室では、警報が鳴り響いていた。


「だあああああ!!見つけた!よりにもよって000-Aとか見つけちゃったよ!!」


「なんでまだそこに残ってんだよアレ!?消したはずじゃ――」


「違う!コードごと封じただけで、物理オブジェクトが地形の“下”に残ってた!誰だ管理漏れしたの!!」


「たぶん私です!すみません!!」


「お前か!?てかもうシュウユが遭遇しちゃったんだよ!?どうすんのこれぇぇぇぇ!!?」


柳瀬が低く呟いた。


「……やばい。“あれ”は元々、プレイヤーとの同期テスト用に造った“擬似存在AI”だ。

 正式実装の前に、データ不安定すぎて没にしたけど……今、勝手に動いてるってことは――」


「まだ隠しエリアの環境が、“シュウユに合わせて生成してる”ってことか……?」


ぐしゃり。


造りかけの腕が、床を潰すように突き刺さった。

空間にヒビのようなノイズが走り、黒い床が“文字化け”のように崩れていく。


「やっぱり敵、だよなぁ……」


だがシュウユは、構えを解かなかった。

剣も杖も、抜いていない。ただ、距離を取りながら動きを観察していた。


(動きがぎこちない。攻撃の意図も見えない。……こいつ、“戦いたい”わけじゃない?)


ふと、あえて転移せず、地面に降り立つ。


すると異物は、一瞬だけ動きを止めた。


シュウユは、手を広げて見せる。武器を持っていないことをアピールするように。

その反応を見て、ほんの少しだけ笑った。


「もしかして、お前も――ここに置いてかれたクチか?」


作りかけの身体。

言葉にならない声。

完成されることもなく、機能も、役割すらも与えられなかった存在。


「お前……“何者にもなれなかった”ってやつか」


けれど、今は目の前にいる。

ここで、確かに“誰かと出会って”いる。


「じゃあさ、今ここで“なにか”になってみようぜ。俺が見届けてやるからさ」


しばらく黙った後、シュウユはふっと笑って言った。


「名前、つけてやるよ」


異物は反応しない。

けれど、静かに視線のような“何か”が向けられている。


「そうだな……“なに者にもなれなかった”からこそ、

 これから自分で“意味を作っていく”感じ……」


シュウユはしばし考えたのち、ぽつりと口にする。


「――創零。お前の名前は、創零だ」


まるで、それがプログラムされた儀式だったかのように、

異物の体表に光の紋が浮かび上がる。


《AI No.000-A 命名完了》

《個別識別名:創零》

《モード遷移:観察 → 自我芽生期》

《ログ追記:命名者 シュウユ》


「創零。……今はまだ“未完成”でもいい。

 遊びながらでいいから、これから“なにか”になっていけよ」


ノエムは、またひとつ、シュウユの仕草を真似て、こくりと頷いたように見えた。


「……うそ、だろ……」


開発室。

運営の全モニターが、無言のシュウユと異物の並んだ映像を映していた。


「戦わなかった……だと?」


「え、いやいやいや。あれって確か、設定上“プレイヤーに敵対する条件”しかなかったはずでしょ?」


「違う。あのAI、試作段階では“プレイヤーの行動を模倣して学習する”ってプロトコルがあった。

 でも不安定すぎて破棄した。それが……残ってた?」


柳瀬が静かに呟いた。


「学習してる。今、あれ……“シュウユを真似してる”」


「シュウユを?」


モニターの中で、異物が地面に座った。

ぎこちなく、真似をするように。


「まずい……これは、“型にないAI”が動き出すってことだ」


「なあ、止める? このままじゃ予測が追いつかない。バランス調整もできないまま、こっちが置いてかれる」


「いや、もう“止められる”フェーズは終わってるよ」


柳瀬はゆっくりと背もたれに体を預けた。


「これが……“遊び”なんだよ。たぶん俺たちが想定してなかった、本当の意味での」

お読み頂き誠にありがとうございます。

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