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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
12/39

011 世界がブレた日

《監視フラグ:転移魔式使い「シュウユ」ログ監視中》

《フラグ発火理由:想定外ルートの連続突破、封印エリア到達、Lv17での討伐成功》

《観測モード:ステルス/開発班限定通知》


「……はい、出ました、また“おかしい動き”。」


モニターに映るのは、光が差し込まない地底の通路。

発光する地脈と結晶体が散りばめられた幻想的な空間のなかを、

少年がひとり、のんびりと歩いていた。


「おい、そこ開発中じゃなかったか?」


「そうなんだけ、普通だったら変だから、止まったり、引き返すって考えないのか?推奨レベルから33も離れてるのに」


「多分楽しいからじゃないかな。ほら、めっちゃわくわく顔してるし」


「怖いわ!こっちは心臓ギュッてなってるのに!」


一方その頃、本人はと言えば。


「ん? この岩、ちょっとだけ形おかしいな」


通路の壁の一部に、妙な凹凸があるのに気づいたシュウユは、

〈超感覚〉で空間構造を軽く確認。


内部に“空間の抜け”があると判明すると、迷いなく〈ファントムクラッチ〉を起動して岩を引き剥がす。


ゴウン、と重たい音と共に、壁の一部がずれて開いた。


「やっぱ隠し通路じゃん。こういうの、好き」


その先には、静まり返った空間が広がっていた。

中心には、小さな光球が浮かんでいる。


照明でもエフェクトでもない。

存在そのものが“異質”。


「……なんだ、これ?」


距離を取りながら魔力感知を試みるが、反応はゼロ。

にもかかわらず、空気がびりびりと震えるような、得体の知れない緊張が広がっている。


〈システム判定不能:オブジェクトNo.000〉

〈内部参照エラー〉

〈コードタグ:開発用・仮実装・削除済〉


「なんであんだよぉぉぉぉぉ!?!?!?」


開発室が阿鼻叫喚に包まれる。


「なんで!?なんでそこに!?」


「待って、ちょ、あのオブジェクトって……“存在してないことになってる”やつだよね!?

 削除されてなかったの!?」


「いや、仮コードで封印して地中に埋めたんだけど、まじか!?」


「しかも触る気か!?ちょ待てぇぇ!?」



「……ちょっと触ってみるか。光ってるし」


目の前でゆらめく光球に、シュウユは平然と手を伸ばす。


ほんの少しでも動きがあれば引くつもりだったが、

オブジェクトはまるで“触られることを待っていた”かのように、微動だにしない。


指先が光球に届く瞬間――


世界が、ほんの一秒、止まったような感覚があった。


光球に指先が触れた瞬間、空間が微かに揺れた。


風も音もない。だが、何かが確実に“変わった”気配がした。


「……ん?」


シュウユは首をかしげる。


爆発もしなければ、派手なエフェクトもない。

ただ、光球が淡く脈打つように明滅し始めた。


「生きてるのか?」


感覚的に、“これはヤバいやつだ”という警報が脳裏をかすめる。

だが彼の口元には、ほんの少し興奮混じりの笑みが浮かんでいた。


「……けど、こういうのが一番面白ぇんだよな」


開発室。


「動いた!動いた動いた動いたああああ!!!」


「コード000、起動……っ、ありえねぇ!そいつ、存在してないことになってたのに!!」


「止めろ止めろ止めろ止めろ!アラート出すな、外部に流れたら地獄だ!!」


「これログ残る!?運営記録に出たら上から詰められるやつだよね!?やばいやばいやばい!!」


「どうする!?“仕様です”で押し通す!?“思いのほか早く発見されました”って開き直る!?」


「いやむしろ、“イベント第一号達成者です”って祭り上げるほうがマシじゃないか!?」


混乱する開発陣の中央で、柳瀬が静かにモニターを睨んでいた。


「プロトコル、変わったな……」


「え?」


「コード000。自己進化型プロトコルが、再構築フェーズに入った。

 ……これ、単なるエフェクトじゃない。あのプレイヤーと接触したことで、コードが“目覚めた”」


「まさか……学習モードに入ったってことか!?」


「“彼”を起点に、今この世界の構造を取り込もうとしてる」


「シュウユを“種”にして……新しい何かを作ろうとしてるってことかよ……!?」


その間にも、シュウユは一歩ずつ、光球に近づいていた。


「……んー。これ、魔式じゃないんだよな。感知できないし、構造もない。

 けど、確かに“何かを起動しようとしてる”ってのは感じる」


彼は剣と杖を一度腰に戻し、両手で光球を包み込むように触れた。


ぼうっ――。


光が一度、全体に広がる。


そして、無音のまま表示が浮かんだ。


《コードNo.000:仮想実行プロトコル再構築開始》

《制御下プレイヤーID:SHUYU》

《探索指標:不明領域の統合処理》

《起点領域:未登録サブエリア014/認識名称:無限迷宮(仮)》

《運営接続:遮断中》


「おお……なんかすっげーやべえの出たな、これ」


だが、彼の声には緊張はなかった。

むしろ、いつも通りの興味と興奮だけが混じっていた。


「……よし、行ってみっか。無限迷宮」


そう言って、光に包まれるまま一歩踏み出す。


開発室のログ画面には、緊急警告が赤く点滅していた。


【警告:プレイヤーが開発保留エリアNo.014に移動しました】

【対象エリア:調整未完/NPC・敵データ未実装】

【当該エリアの再起動により、AIコード000が拡張スキャンを開始します】


「おい……ほんとに“行っちまった”ぞ」


「マジでやばい……!」


「誰か止めろよ!ていうか、誰か説明してくれよ!」


「もう無理だ……あれは止まらねぇ。だって、“自分の遊び”しか見てねぇんだから」


誰かが呟いた。


ただ、未知のコードとプレイヤーが出会ったこの瞬間。

《NeoEden》という世界は、静かに軌道を外れ始めていた――。

お読み頂き誠にありがとうございました。

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